第39話 対戦相手
「これより、体育祭を始めます。」
校庭で開会式が行われ、いよいよ体育祭がスタート。SクラスはS塔内で開会式が行われ、各競技の会場で一般クラスと合流する。ちなみに文化祭も合同ではある。ただSクラスはS塔で開く上、一般棟の人がS塔に入れないことに変わりはない。だからこそ体育祭は般棟の人がSクラスの人と顔を合わせる唯一のイベントと言ってもいい。
「ヒラ。トーナメントはどうなってる?」
「Sクラスとは決勝、体育科とは2戦目だね。変更なし。」
「じゃあ、全部予定通りだ。」
トーナメント表を確認して僕たちはサッカーの会場へ向かう。会場にはチーム別の席。僕たちの正面、サッカーコートの反対側にSクラスの席がある。まだ来ていないらしい。
「準備運動しておこうぜ!俺ら、初戦だぞ!」
「そうだな。」
青柳君と秀縞君の指示に従い、みんなが体を動かす。僕も体を動かす。するとコートがざわついた。
「来たな!」
「うん。みたいだね。」
Sクラスが到着。中心にいるのは真中君、そのそばに左川君たち3人も見える。
「ちなみに俺の言ってたやつ、真中ってやつのとなりにいる右田川な。」
「え?本当?」
青柳君の言葉にさすがに驚いた。青柳君はうなずいた。
「正面で僕たちを見てる人の後ろにいる大きな人、僕の友達だった後島君だよ。」
隣から菅井君の声。僕にからんだ人のまわりに僕のチームメイトの友達。僕の敵がチームの倒すべき敵になった。
「勝つ…しかないね!」
僕がつぶやく。みんながうなずく。試合開始の時間まで体を動かす僕たち。ただ、意識は確実にSクラスに向けていた。
「試合を始めます。」
「お願いしまーす。」
第一試合は僕たちAチームとDチーム。Dチームは僕たちと同じ普通科と進学科の合同チーム。ユキさんの分析では特に勝ちにこだわる人はいないらしい。
「じゃあ、ユキさんの作戦通りに!」
「ああ!いくぞ!」
試合が始まった。まずは青柳君がドリブルで正面突破。次々と抜いていく。ゴール前で僕にパス、僕はそれを受けてシュート。鮮やかな先制点を決めた。
「ナイッシュー!」
「ナイスパス!」
青柳君と戻りながらハイタッチ。半分はユキさんからの指示、半分はやってみたかったから。
「よし!次!」
秀縞君の掛け声で僕たちは守備につく。相手の攻撃が始まるも、すぐにボールをカットした。青柳君がドリブルで攻めて僕にパス、僕はそれを青柳君に戻す。青柳君がシュートしゴール。試合はそのまま僕たちのペースで進んだ。相手にもサッカー部がいるけど、青柳君と張り合えるほどではなかった。5点目のゴールを青柳君が決めて試合は終わった。試合時間に関係なく、5点差がついた時点で試合終了というルールだ。このルールは何年か前にSクラスと一般クラスの力の差があまりにもあり、前半で20対0になったからできたらしい。とにかく僕たちは危なげなく初戦を突破した。
「とりあえず、予定通りだ。」
「そうだね。」
秀縞君の表情は余裕そうだけど、僕からすればほっとした感じ。
「さて、次の体育科は強いぞ!全員がサッカー部だ。」
青柳君の視線の先、体育科が練習している。
「ちなみにレギュラーは?」
「フォワードのやつとキーパー。今年は3年が強いから。あと俺らの学年の普通科も強い。だからあいつらは少し劣って見える。ただ、」
「体育科は体育科…、だよね?」
青柳君はうなずく。
「あいつらだって俺たちには負けたくないはず。全力で来るぞ!」
みんながうなずく。目の前で体育科の試合が始まり、前半が終わる頃には5点差がついて試合も終わった。
「よし!次の試合の間に確認しよう!」
秀縞君がノートを開いて作戦の確認、青柳君が相手選手の特徴を具体的に説明。僕たちは少しでも疑問があれば質問。全部終えてコートを見ると一般棟チーム同士が試合をしていた。まだ前半で白熱した攻防、点数も1対1だ。
「これは後半終わるまでかかるな。」
秀縞君が相手を見ながらつぶやく。
「じゃあ、女子見に行こうぜ!ドクゼツさん、今やってるだろ?」
「そうなの?」
青柳君が目を輝かせている。よく考えたら自分のことだけで精一杯で、他の誰かの競技を気にする余裕はなかった。
「行ってきなよ。僕が見ておくよ。この試合が終わる頃に連絡するから。」
僕たちは菅井君の言葉に甘えることにした。青柳君が最速かつ最短距離で体育館を目指す。ついていくのが精一杯なほど速い。
「ユキさんは何の種目なの?」
「ドク…、ユ、ユキ様は…。」
何の緊張だ!と全員が心のなかでツッコミをいれた。
「ユキ様は、バドミントンだ。ダブルスらしい。」
「何でバド?」
全員の声が揃った。
「ダブルスなら勝てばすぐに終わるかららしい。俺たちの試合に立ち会うためらしいぞ。」
「ユキさんらしい…。」
全員の声が再び揃った。青柳君はすごい速さで体育館に入る。僕たちも急ぐ。青柳君の言ったとおり、決勝が行われていた。ただ、もう終わりそうな点差だ。
「ヒラ、ユキさんの相棒ってお前の幼馴染みだろ?」
秀縞君に言われて気づいてうなずく。確かにマミだった。ただ、もう驚かない。
「最近、僕の知っているマミはほんの一部だとわかったので…。」
そう答えながら試合を見る。ただ、ほとんどユキさんが一人でやっているように見える。
「ユキさん、ファイト!」
青柳君が叫ぶ。まわりのみんなの視線が僕たちに集まる。青柳君が僕たちに合図、みんながユキさんに声援を送る。
マミへの声援…、ないな…。
ユキさんが目立ちすぎてるから仕方ない。でも、ないのは寂しい気がした。
「マミ!頑張れ!」
みんなの影で叫んでみた。マミが驚いた顔でこっちを見た。届いたらしい。笑顔で手を振ってから試合を続け、最後の一点をマミが決めて終わった。
試合後、ユキさんのまわりには人だかり。それを捌く青柳君と羽生田さん。青柳君を制御しようと頑張る他のみんな。僕はマミのそばへ行く。
「キンちゃん、応援ありがとう。」
「マミ、優勝おめでとう。」
「でも、本当はセイカさんの試合を見に行きたかった?」
そう言われて気づいた。高嶺さんも体育祭には参加するんだ…。
「忘れてた。っていうより自分のことで精一杯だったから。」
「キンちゃん、最終目標を忘れちゃダメだよ。」
マミとそんな会話をしたとき、携帯が鳴った。菅井君だ。
「そろそろ終わるよ。」
「ありがとう。今行く。」
電話を切る。前を見るとマミの笑顔。
「キンちゃん!頑張って!ユキさんと応援に行くから!」
「うん。ありがとう。」
そう答えて、みんなを呼ぶ。みんながうなずく。
「行こう!」
体育館を出てサッカー会場へ急いだ。僕たちが到着したとき、Sクラスが練習をしていた。
「間に合ってよかった。」
そのとき、視線を感じた。殺意に近いするどい視線。感じた側に真中君がいた。他の3人も。
「とりあえず見せてもらおうぜ!Sクラス様の実力を!」
となりでそう言ったのは青柳君だ。僕はうなずく。
僕たちの目の前でSクラスの試合が始まろうとしていた。




