第38話 決戦前夜
金曜日になった。いよいよ明日が本番のため、夕方の時間は疲労回復と作戦会議にあてられた。ユキさんの実験装置みたいな疲労回復装置にみんな驚く中、唯一感動していたのは青柳君だった。青柳君が言うには「世界最先端だぞ!」らしい。その後、風呂や食事を済ませて休憩。
「いや~、この生活が明日で終わると思うと寂しいな~。」
「ヤギほど気に入ったやつはいないな。まあヤギは何が気に入ったのかもさだかじゃないけど。」
「ウルセ~!もとはヒデの発案だろ?確かに俺はここへの就職を希望しますけど~。」
秀縞君と青柳君はあだ名で呼び合うほどの仲になっていた。まあ他のみんなもあだ名はあるけど、あの二人ほど意気投合はしていない。
「まあ、全てはヒラから始まった。ヒラには感謝だ。」
「ああ。本当だ。同じチームになれてよかった。」
ふいにみんなが思い出を語るような感じで僕への感謝を口にし始めた。
「みんな!まだ…、」
「まだ始まってないわ!」
僕の声をかき消す声。ドクゼツモードのユキさんだ。みんな一瞬で緊張状態になった。
「別にそこまで緊張しなくてもいいわ。ただ、緩みすぎも困るのよ。」
もとの声に戻ったユキさんを見てみんなほっとしたようだ。
「さて、明日の前にみなさんに聞きたいことがあるの。」
ユキさんは僕たちを見回した。
「この中で、Sクラスの同学年に友達がいる人。挙手。」
6人手をあげた。
「その中で最近その人と話した人。」
今度は2人。青柳君と菅井君。
「じゃあ、会った人も会ってない人も知り合いからの噂レベルも含めて、Sクラスに入った人が性格が悪くなったと思う、またはなったと聞いた人。挙手。」
僕以外の全員があげた。静かな部屋が異様な空気になった。
「ありがとう。大体予想通り。」
ユキさんはうなずいた。その表情はどこか寂しそうに見えた。
「ユキさん、この質問って…。」
みんなが戸惑うなか、ようやく口を開けた僕。そんな僕をユキさんはじっと見た。
「平田さん、Sクラス真中が私について何か言ってなかった?」
そう聞かれたとき、あの日のことが鮮明に思い出された。
「『僕を利用してSクラスを解体しようと…』、まさか…!」
みんながざわついた。ユキさんは少し下を向いて、それからゆっくりと顔をあげた。
「そこまでは考えてなかった…。ただ、そこまでしないとダメなところまできているみたい。」
深いため息をひとつ。ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「そもそもSクラスなんて昔は無かったの。できたのは私たちが生まれた頃。発案者は私の父とトウ君のお父様。本来の目的は『家柄に関係なく自由な発想を持つ人材の育成』、今とは真逆なものだった。高嶺家の強力な支えもあって自由な研究ができて、世界に認められるものがたくさん生まれた。世界で特許も取れて、高嶺家の力を借りなくても運営できるようになった。ただ…、それが仇になったの。」
そこまで話してユキさんはまた大きく息を吐いた。羽生田さんがとなりに来てユキさんが肩を叩いた。話し手が羽生田さんに変わった。
「Sクラスの評価が高まってくると、Sクラスに入りたい人が増えた。Sクラスに入りたい人が増えすぎると、今までどおりの面接だけでは困難になった。だから線引きが必要でテストが導入された。そうすると本来の目的であるはずの『自由な発想の人材』が集めにくくなった。『自由な発想』が無ければ特許が取りにくい。特許を取ることで得られていた利益が減る。運営費を稼ぐためにも金持ちの子供を入りやすくする。そうするとSクラスの質がまた下がる。そうやって少しずつ毒が蔓延していった。あとに残ったのは『優秀な人材が入れるSクラス』という間違った肩書きだけだった。」
羽生田さんもそこまで話してため息をついた。自分達の親が作り上げたものが壊れていくのは感じるのは辛いはずだ。ユキさんはお茶を一杯飲み、ゆっくりと話を進めた。
「平田さんには言ったけど、Sクラスが全員ひどいわけではないの。ひどいのは一部。ただ、逆に素晴らしいのも一部。残りはSクラスに入れたことに満足した人たち。それなのに、なぜSクラスに入った人の性格が悪くなるのか。それはひどい側の人が大多数を自分達の側へ引っ張るから。『Sクラスに入った人間はすごい!』『ここにいるのは選ばれた人間だ!』『他のクラスとはレベルが違う!』。そんなことをずっと叫ばれるうちに知らず知らずと洗脳されていく。そして思うようになってしまう。『自分は選ばれた人間。Sクラスに入れなかった奴はクズだ。』と。」
そんなことで…?と僕は思った。ただ、Sクラスに知り合いがいる人は全員納得したようにうなずいている。
「俺の友達もそうだった。」
そう言ったのは青柳君だ。みんなの視線が集まる。
「中学時代の同期、サッカー部のチームメイトだった。キャプテンで誰にでもやさしいやつだった。Sクラスに入れると決まったときは全員で胴上げしたくらいだ。なのに、Sクラスに入ってしばらくすると『もうお前らとは遊ばない。俺には俺の新しい世界がある。』って言われた。それを全否定するつもりはないけど、『新しい世界』と言われてカチンときたのは覚えてる。」
青柳君は拳を握りしめた。大切な仲間だったんだろう。
「僕も同じかな。」
そうつぶやいたのは菅井君だ。
「僕も友達だった。運動はできたけどゲームとかも好きで。僕たちみたいな暗いグループと明るいグループの橋渡しをしてくれるような人だった。でも、Sクラスに入ってから人が変わった。最後に町で会ったときに言われたのは『お前たちみたいなのが友達だったとか今の仲間に知られたくない』だった。」
菅井君も悔しそうだ。他のみんなもうなずいている。僕も相談所の横の部屋にいるときに聞いた「S塔から見たら一般棟の人間は道端の石ころと変わらない」という言葉を思い出した。
「だからあなたたちにお願いがあるの!」
ユキさんが叫ぶ。みんながユキさんを見た。
「『Sクラスを倒せ』とまでは言わない!でも、Sクラスに解らせて!『一般棟とS塔に違いなんてない』ということを。そうすれば変わるわ!私が変えてみせるわ!だから…、」
「ダメだ!」
ユキさんを遮るように叫んだのは秀縞君だ。ユキさんが何かを言う前に秀縞君がさらに叫んだ。
「倒そう!勝とう!じゃないと解らせられない!せっかく平田がSクラスにケンカを売ってくれたんだ!俺たちもケンカを売ろう!そうすれば正気に戻せるはずだ!昔の仲間を!」
「そうだ!」
「やろう!」
みんなが叫ぶ。そして視線はユキさんに集まった。ユキさんはうなずく。
「ありがとう。あなたたちの覚悟は受け取ったわ。正直に言うと、平田さんだけでは厳しかった。でも、今ならできる。Sクラスを変えられる。」
みんながうなずく。
「じゃあ、作戦会議よ!私の持つデータも全部使って勝ちにいくわ!」
「オー!」
チームがひとつになった。ユキさんのデータをもとに勝つための作戦を立てた。会議は夜遅くまで続くかと思われたけど、ユキさんの指示に従っていつもの時間に眠りについた。
翌朝、朝練をする時間に全員が起きた。みんなで外に出て朝日を見た。朝日に向かって全員で叫んだ。
「打倒!Sクラス!」




