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第30話 過去(4)

「毒島~!覚悟はできてるんだろうな~!」


 そう言いながらユキちゃんに4人のクラスメイトが近づいていく。場所はユキちゃんの学校の体育館、時間は授業最後の体育の時間。全てが相手側の計画通り、そしてそれ以上に計画通り。


 そう。ユキちゃんの計画通り。




 夏休みが終わり、始業式の日とその次の日。溜まっていたストレスを吐き出すかのようにユキちゃんへのいじめは行われた。新しく準備した教科書もノートもズタズタにされ、新しく準備した制服もボロ雑巾のようにされた。ユキちゃんは職員室に駆け込み訴えたが、全く聞き入れてもらえなかった。


 そして三日目の給食の時間が終わるとき、ユキちゃんは動いた。いじめの主要メンバーがユキちゃんの給食のシチューにいろいろな物を入れて「食べろ!食べろ!」と囃し立てたとき、ユキちゃんはシチューの皿を掴み相手の顔にぶちまけた。クラスが静まり返るなか、ユキちゃんは静かに食器を片付けて自分の机のまわりを雑巾がけ。シチューをかけられたメンバーが顔を洗ったり着替えたりしている間に授業開始のチャイムは鳴った。当然相手はキレた。ただ、さすがに授業中に暴れるわけにはいかない。頭も悪くはないから、授業中に考えを巡らせた。その結果『最後の体育の時間に担任を買収し自習にさせて、ユキちゃんを体育館に閉じ込める』という計画を立てて見事に実行した。


「いいか?ここは完全に密室だ!先生も授業終了時間まで戻ってこない!どんなに泣き叫んでも外には聞こえない!」


 実際は密室とはほど遠い。クラスの人間がいろいろな物で入り口を押さえているだけだから、突破することは可能。少なくとも隠しカメラで映像を見ている俺はそう思った。


「こいつ、どうしてやろうか?噂じゃ誘拐されたとき裸の写真を撮られたらしいぜ?ネットに出回らないってことは犯人が隠し持ってるんだろうけど。俺たちが代わりにばらまいてやろうか!」


 もはや犯罪者。映像を見ていた俺がそう思うのだから、ユキちゃんの怒りはそれ以上だろう。


「覚悟しろ!」


 主犯の合図で取り巻きが一斉にユキちゃんに飛びかかった。


 が、次の瞬間!


 囲まれたはずのユキちゃんは主犯の目の前に立った。驚いた主犯の顔に右ストレート!その事実に取り巻きが気づいたとき、ユキちゃんはすでに彼らの目の前に移動。一人目は顔に拳、二人目はみぞおちに右足、三人目は顎に左アッパー、四人目は鮮やかな後ろ蹴り。ほぼ一瞬で全員を沈めた。クラスの人間は悲鳴より先にざわめいていた。こんな結末は想像もしていなかっただろう。昨日までいじめられていた相手が強い可能性なんて考えもしなかっただろう。


「弱いわね。でも、まだやれるでしょ?あれだけ私をいじめたんだから。」


 ユキちゃんの声が体育館に響いた。転がっていた五人は立ち上がるのがやっとのようだ。ユキちゃんはゆっくりと歩き主犯の前に立った。


「いいものを見せてあげるわ。」


 ユキちゃんが手に持っていたスイッチを押すと体育館の壇上にスクリーンが降りてきた。そのスクリーンにはユキちゃんの荷物をズタズタにするクラスメイトの姿が映し出された。


「あなたたちのしたことは私がちゃんと映像にまとめてあげたわ。これを明日、新聞社やテレビ局にばらまいてあげる。『高嶺家側近の子供による高嶺家元側近の子供への陰湿ないじめ』という衝撃スキャンダルとして。」


 主犯たちは驚き戸惑っていた。映像にはクラスメイトに指示を出しながら笑う自分達の顔がはっきりと映っていた。


「あなたたちの親もさすがにかばうことはできないだろうし、それ以前にこんなことをする人間の親が高嶺家の側近でいられるはずはない。残念だけど、あなたたちは良くても停学。あなたたちの親は高嶺家の側近から排除されるわ。」


 怒りに震え主犯たちはユキちゃんに殴りかかった。ただ、相手になるはずもない。再び床に叩きつけられた。ユキちゃんは体育館にいるクラスメイトたちの方をぐるっと見回した。


「あなたたちも同じよ!映像は出席番号順にクラス全員のやったことがまとめてあるわ!『命令されたから』という理由は通用しない!さあ、どうする?かかってきてもいいのよ?こいつらみたいになる覚悟があるならだけど。」


 ドアの前を固めていたクラスメイトは、ドアに張り付いたまま動けない。震える人もいれば泣く人もいた。


「何やってんだ!相手は一人だ!全員でかかれば倒せる!弱いやつは映像を流している機械を壊せ!」


 主犯の声にクラスの半分は動いた。ユキちゃんを取り囲む人数が十人以上になった。残りの何人かは映写機を探し始めた。


「無駄よ!」


 ユキちゃんが叫んだ。クラスメイトはその声だけでひるんだ。


「映写機は私の真上、それよりも私の持つリモコンを奪った方が早いわ。ただ、」


 次の瞬間、ユキちゃんの目の前にいた三人が倒れた。ユキちゃんは冷たい目で自分を囲むクラスメイトを睨んだ。


「私を取り囲んだのだから、血を吐く覚悟くらいはあるのよね?」


 その言葉で何人かは後ずさった。後ずさらなかったのか、後ずされなかったのかわからない何人かは次の瞬間、床に倒れていた。


「戦意のない人は座ってもらえるかしら?私も無意味に殴りたくないから。」


 その言葉に恐怖が纏い体育館内を駆け巡った。一人、また一人とその場にしゃがみこみ、ついにはユキちゃん以外誰も立っている人はいなくなった。


「あなたたちの意思はわかったわ。誰か、先生を呼んできて。授業が終わるまで待つだけ無駄だから。」


 ドアの前にいた女子二人が泣きながら体育館を出ていった。ユキちゃんは主犯を見下ろしたまま、静かに立っていた。




「毒島!お前、なんてことを!」


 体育館に来たのは担任と体育教師、それと校長と教頭。全員がユキちゃんのそばに倒れている主犯の元へ駆け寄った。『高嶺家側近の息子』に何かあったら大変だという意思が感じられた。


「毒島!何でこんなことをした!退学じゃ済まないぞ!」


 叫んだのは体育教師。ただ、ユキちゃんは微動だにしなかった。


「何で私がこんなことをしたかは聞かなくてもわかるでしょう?私は自分の復讐のためにやりました。今までやられたことをやり返しただけです。」


 淡々と答えたユキちゃんに体育教師が驚いた。今まで泣き寝入りをしていたユキちゃんが反撃に出たからだ。


「私がこの件で退学になるなら、それを放置した先生方も辞めさせられるべきです。私が助けを求めたのに、何もしなかった映像もしっかりありますから。」


 ユキちゃんがリモコンを操作すると、スクリーンの映像が職員室に切り替わった。制服をズタズタにされたユキちゃんに対し、『お前が悪い』という担任や心配する気配も見せずイスに座りっぱなしの先生方の顔がはっきりと映っていた。


「明日の朝にはこの映像も全国放送されます。マスコミの方々にどう説明するおつもりか、楽しみです。私のことをどうおっしゃっても構いませんよ。私もある映像を全部見せて、全てを明らかにするつもりですから。そして私が正しいと証明されたとき、あなたたちの持つ教師という肩書きは紙屑になります。」


「て、てめえ!」


 体育教師が殴りかかった。ユキちゃんはその手を掴むときれいなフォームで投げ飛ばした。体育教師は床に叩きつけられ動けなくなった。


「この人のように私のリモコンを奪おうとしても構いませんよ。全力で叩き潰させていただきますから。」


 体育館に再び恐怖が蔓延した。校長も含め教師も生徒も誰も動けない。


「あ、警察…。」


 担任がそうつぶやいた。ただ、それをすることもできない。


「警察を呼んでも構いません。ただ、事実が公になるのが早まるだけですから。どうぞ。」


 静かな体育館に恐怖の音だけが響いていた。

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