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第28話 過去(2)

「復讐って…。」


 驚いて固まる俺にユキちゃんは表情を一切変えなかった。


「いじめの原因は私の態度が生意気だったからみたい。私は何も変わってないつもりだったけど、私の立場が下がったのと相手の立場が上がったことで私はいじめられることになった。いじめは日に日にエスカレート。職員室に助けを求めても、高嶺家の側近の子供に逆らいたくないから私を助けようともしない。それどころか、今までの私の態度が悪かったかのように言う。学校全体が私の敵になったわ。」


 ユキちゃんはお茶を飲む。表情を全く変えず遠くを見るように話を続けた。


「私のまわりにいた人も掌を返すように向こう側についた。私がいじめからかばった人も、私のそばにいるといじめられるから離れた。私は現実を知ったの。私は『高嶺』の名前に守られていた。私が正しいことを正しいと言えたのは、私の力ではなく『高嶺家の側近の娘』という肩書きのためだった。だからこそ、私は復讐を決めたの。私の人生を狂わせた全てに復讐するの。」


 言葉に力がこもる。ただ表情は変わらない。変わらないというより変えられないが正しいのかもしれない。


「とりあえず、あと数日で夏休み。学校は休んで夏休みが終わるまで訓練をするわ。可能な限りの戦闘訓練を。」


「戦闘訓練…。でもどうやって?」


 俺がそう聞くとユキちゃんは俺の後ろを指差した。その先には三人の人影が。


「ユキちゃん。とりあえずこの二人がそれぞれの分野で一番強いから。」


 そう言って二人を従えるように現れたその人を見て、俺は腰を抜かした。


「聖華さん?高嶺家の…。」


「羽生田冬善さん。お久しぶりです。聖華です。」


 あまりにも普通に敬語で話されてしまい、俺はその場で座ったまま動けない。まさしく俺たちの家系が代々仕えてきた高嶺家の娘。彼女の一言で文字通り俺の一族を存在ごと消し去れる、そんな力の持ち主だった。


「セイカとはあの日以降も連絡を取り合ってたの。セイカには感謝しているわ。ここも無料で貸してくれたし。周りから人がいなくなる中で変わらずそばにいてくれた。私のいじめの事実を聞いたときは、学校を潰そうとさえしてくれようとしたわ。ただ、それだと私の復讐にならないから、止めたの。」


 さすがにスケールが大きい。けど、普通に可能だろう。セイカさんがいる中学も、ユキちゃんが通う中学も覇桜大学付属。しかもその大学の創設者が高嶺家だから。この地域だけなら、国家権力よりも力があるだろう。


「私がユキちゃんのために動くのは友達だから当然だし、そもそも私だけの力ではないの。『高嶺家は毒島家の支えによってここまで来られたと思ってる。』というのが祖父と父の口癖よ。祖父の代も父の代も必ずとなりで、そばで、影で、下から、常に支えてくれたのが毒島家だった。だからこそ父から言われたの。『毒島家は陰謀によって側近から外れたはずだ。毒島家には数えきれない恩がある。ユキちゃんの力になってあげなさい。そして、こう伝えなさい。高嶺家は毒島家を守るためにどんなことでもすると。』って。だから、私も何でもするわ。」


 わかってはいたつもりだ。ただ、俺の想像を遥かに超えたつながりだった。ユキちゃんとセイカさん、高嶺家と毒島家。その関係には俺たち下っぱの一族がどうあがいても入り込めないほどの強固な信頼関係があった。


「とりあえず復讐の下準備はセイカにお願いして済ませたわ。あとは私が強くなるだけ。」


 ユキちゃんはセイカさんの横にいる二人に頭を下げた。


「お願いします。私をできるだけ強くしてください。」


 二人はうなずく。


「私たちはあなたのお父さんに全てのことを教わった。あなたのお父さんが私たちを育てたと言ってもいい。だから私たちもあなたを責任持って育ててみせる。」


「お、俺も!俺もお願いします!」


 そう叫んで、ユキちゃんのとなりに立った。全員が俺を見て驚いていた。


「俺はユキちゃんの婚約者。俺がユキちゃんより弱かったら、また同じことが起きたとき守ってあげられない。俺はユキちゃんを絶対守れるくらい強くなりたい!」


「トウ君、もう私たちは婚約関係にないの。聞いているでしょ?」


 ユキちゃんが静かな声で言った。ただ、それで納得する気はない。


「親がどう言おうが関係ない!俺が婚約者だって言う限り、ユキちゃんは俺の婚約者だ!」


「私はあなたを苦しめたくないの!傷つけたくないの!私が今からやることは絶対にあなたのプラスにならないから!マイナスになるから!私といることで、より傷つくことだけは避けたいの!」


「プラスになんてならなくていい!ユキちゃんの婚約者じゃなくなること以上のマイナスなんて俺にはない!」


 ユキちゃんと口喧嘩するとは思わなかった。ただ、ここで折れるわけにはいかない。こっちが折れてしまえば、それはユキちゃんの婚約者の立場を諦めることになるから。もしも口喧嘩が終わらないなら、いつまでも続けるつもりだった。


「ユキちゃん。諦めてあげて。」


 静かな声でそう呟いたのはセイカさんだった。俺もユキちゃんもセイカさんを見た。


「ユキちゃんだって、本当は嫌だったでしょ?羽生田さんとの婚約を解消されたこと。」


 セイカさんの言葉にユキちゃんは何も言わない。セイカさんはさらに続けた。


「ユキちゃん、言ってたよね?いじめは泣かないで耐えられたのに、婚約解消を聞かされたときは泣いたって。ユキちゃんにとって羽生田さんはそれだけ大切な存在なんだよね?それは羽生田さんにとっても同じなんだよ。だから羽生田さん、こんなに必死なんだよ。」


 そのとき、ユキちゃんの目から涙がこぼれた。俺はそっと近づき、ユキちゃんを抱き締めた。


「ユキちゃん。俺のこと、まだ好き?」


 ユキちゃんが驚いた顔で俺を見た。


「もし、もしもユキちゃんが俺を好きじゃないなら諦めるよ。ユキちゃんに迷惑をかけるのは嫌だから。ただ、ユキちゃんが俺のことを好きなら、地獄でもどこでもいっしょに行かせて。俺はユキちゃんのそばにいられれば幸せだから。他のことでどんなに不幸になろうとも、ユキちゃんがいてくれれば幸せだから。」


 ユキちゃんは少しだけ俯いて、それからゆっくりと顔をあげた。


「きらいなはず…、ないじゃない…。嫌いになれるはずないじゃない。」


 その言葉を最後に、ユキちゃんは声をあげて泣いた。俺にしがみついて泣いた。叫ぶように泣いた。気づくと俺も泣いていた。やっと、ようやくユキちゃんの本当の気持ちを聞けたから。事件の前までのユキちゃんにやっと戻った気がしたから。




「じゃあ、明日の朝からお願いします。」


 泣き止んだユキちゃんは昔のユキちゃんではなかった。当然といえば当然だけど、それが少しつらい。


「羽生田さん、あなたの家には私の方から連絡しておきます。『高嶺家の特別訓練』ということにしておきますから。」


 セイカさんはそう言って帰っていった。俺はただただ頭を下げるしかなかった。ただただ感謝するしかなかった。


「トウ君、部屋はそこでいいかしら?」


 ユキちゃんは今いる部屋の奥を指差した。俺はうなずく。家政婦だった人が布団などを用意してくれた。俺も運ぶのを手伝って、あっというまに俺の部屋ができた。


「じゃあ、また明日。」


 ユキちゃんはそう言って出ていった。俺は部屋の中を少し歩き回ったあと、布団に倒れ込みそのまま朝まで眠った。

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