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第14話 地獄スタート

「頑張ったわね。予想より早く着いたわ。」


「それは…。よかったです…。」


 何事もなかったかのように話すドクゼツさん。でも僕はその場に倒れそうだった。理由は今までの道のりと目の前にある現実。


「さあ、入るわよ。案内するわ。」


 その言葉に即座に対応できない自分がいた。



 たどり着いた場所は山の上にあった。そんなに高くはない。でもいきなり登るにはきつかった。目の前には場違いなほど立派なホテルのような建物がそびえ立つ。入り口にはガードマンみたいな人までいる。



「ドクゼツさん。ここって…、もしかすると…?」


「私の家よ。」


「ですよね…。」


 衝撃的な驚き、ただそれでも納得できた自分がいることにも驚けた。


「早く行くわよ。今日からさっそく課題に取りかかってもらうわ。」


 ドクゼツさんは建物に入っていく。重い体を引きずるようについていく。建物内もほぼホテルだ。フロントみたいなところで鍵を受け取り部屋へ。部屋には僕の荷物が置かれていた。


「1時間後にロビーに来て。」


 ドクゼツさんはそう言って部屋を出ていった。僕は1時間で荷物を整理してロビーへ移動した。


「じゃあ、始めるわ。」


 ドクゼツさんは建物の奥へ僕を連れていく。そこには…、


「え?プール?」


 目の前には立派なプール。しかも中学の頃までの25mではなく50m。


「とりあえず水着はそこの部屋にあるから着替えて。」


「はい。」


 返事をして急いで着替える。水泳なんて授業以外ではほとんどやらないから緊張する。準備運動が終わる頃、ドクゼツさんの声が響いた。


「とりあえず100mから。できればクロールで。」


「クロールで?」


 と、聞いたところでドクゼツさんからのいつもの目。急いで移動してスタート。泳ぐのは苦手じゃないけど、クロールでは50mしか泳いだことはない。しかも山登りのせいで体が重い。何とか泳ぎきれたけど、泳ぎきったときには息切れしていた。


「お疲れさま。10分休んでから今のペースで200m行ける?」


「体が重いけど、大丈夫だと思います。」


 答えてみたけど、正直不安だった。でも、できそうなことは今のうちからでもやらないとと思った。10分後、僕はスタートし見事に泳ぎきった。そして倒れた…。




「平田さん、大丈夫?」


 気づいたときにはドクゼツさんが横にいた。


「すいません。」


 そう僕が答えるとドクゼツさんは笑った。


「無理は無理と言うのも必要よ。とりあえずあなたの限界はわかったけど。着替えて夕食にしましょう。」


 ドクゼツさんは立ち上がり歩いていく。僕が立ち上がれたのはそれからしばらくしてからだった。

 夕食は豪勢な肉料理がメイン。ドクゼツさんが言うには『食べるのも合宿』だそうだ。味は美味しかったが、体力的には食べきるのが精一杯だった。



「今日は終わりよ。早めに寝てね。明日は5時起きでお願いね。おやすみなさい。」


 事務連絡のように話した後ドクゼツさんは部屋に戻っていった。僕も部屋に戻ったけど、その後の記憶はほとんどない。唯一あるのはマミからの『大丈夫』というメールに『なんとか』と返信したことだった。




 翌朝5時。しっかり起きれたのは今までのドクゼツさんの課題の賜物だろう。着替えを終えた頃、ドクゼツさんが部屋に来た。


「ちゃんと起きてるわね。」


「お陰さまで。」


「じゃあ、まずはプールで200mからスタートね。」


 今日の天気を告げるようにそう言うとドクゼツさんは部屋を出ていく。僕の『いきなり水泳ですか?』というツッコミは口から出そうで出なかった。それでも急いでプールに向かい着替えて体操やストレッチ。ドクゼツさんの合図でプールに飛び込む。


「からだが重い…。」


 昨日の今日だからだろう。でも昨日の指示通りクロールで何とか泳ぎきった。顔を上げるとドクゼツさんが見下ろしていた。


「まあまあね。少し心配したけど。」


 あ、ドクゼツさんの予想よりも良かった?


 と、喜ぼうとしたのもつかの間、ドクゼツさんがさらっと言った。


「じゃあ、急いでジャージに着替えて外へ移動ね。5分でお願い。」


「え?プールは終わり?」


 さすがにつっこんでしまった。すぐにドクゼツさんの声が返ってきた。


「その格好で朝の寒空の下を走りたいなら構わないわ。」


「4分で行きます。」


 有無を言わさない迫力を感じ急いで着替えた。プールが温水だったから何とか髪も乾いた。外に出るとさすがにまだ寒い。ドクゼツさんは僕に厚手の上着を一枚着させた。


「この道沿いをあの自転車で走って。ペースは今日は少し疲れる程度で。」


 ドクゼツさんの指差す先にはママチャリと呼ばれる自転車が一台。


「ドクゼツさんは?」


「私はすぐに追い付くから、先に出発して。」


「はい。」


 聞くだけ無駄だった質問を終えて僕は自転車にまたがった。勢いよくこぎ出す。道は平坦な一本道、両側には緑の草原。


 ドクゼツさんはどうやって追い付くのだろう?車?バイクとかかも。自転車でも追い付かれるとは思うけど…。


「少しペースを上げて。さすがにゆっくり過ぎだわ。」


 突然の声に驚いて声のする方を見ると、ドクゼツさんがそこに現れた。


「う、ウマ?」


 つっこまずにはいられなかった。完全に予想外だった。白馬にのって僕と並走するドクゼツさんは昔のマンガのキャラそのものだった。


「この道はどれくらいなの?」


 何とかつっこみを別の疑問に変えて口から出した。


「往復20kmってところかしら。」


 さすがにゾッとした。今まで20kmなんて自転車で走ったこともない。そもそも20kmがどれくらいの距離かも想像できない。


「とりあえずペースを上げて!朝食抜きにするわよ!」


 ドクゼツさんの指示に従い言われるままにペースを上げた。僕は思った。


『考えるのをやめよう。とにかく指示に従って、最悪倒れるまでやろう。』


 ペースをさらに上げる。少し上り坂になっているみたいでペダルが重い。


「今がいいペースよ。」


「はい!」


 このペースを維持する気持ちでペダルをこいでいくと、目の前にさらなる上り坂が見えてきた。。上り坂というよりも山だ。上が霞んで見えない。


「あれを上るの?」


「あれは今のあなたには無理よ。手前でUターンして。」


「わかりましたー!」


 そう答えながらも内心はホッとした。さすがにあれを越えるのは不可能だと思えたから。指示通り坂の手前でUターン。


「ちなみに僕もいつかはあれを上るの?」


「早くても夏休みね。あなたがそれまで耐えられたらの話だけど。」


「上れるようになるの?」


「あなた次第よ。」


 その言葉を聞いて素直にうれしかった。ドクゼツさんを信じていけば、あの坂を上れるほどの力が僕にもつくかもしれないのだから。帰り道が下りなのもあり、スピードが上がった。風を切るように自転車は進む。


「あんまり調子にのらないようにね。このあと山道をマラソンのペースで走るから。」


 途端にからだがまた重くなった。ペースを戻して、なるべく疲れないようにする。僕が今思うことはふたつ。


 地獄の合宿なのを忘れていた…。


 朝食は食べられるだろうか…。


 不安を感じながらも自転車は走る。遠くにようやく合宿所が見えてきた。


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