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第13話 他人に容赦無し

「じゃあ、行きましょう。」


 歩き出すドクゼツさんと隣を歩く僕。クラスメイト以外は僕がドクゼツ相談所に通っている事実を知らない。だからこそ同じ学校の人は異様な目で僕を見ている。いつものバス停を横目にまっすぐ進むことから、とりあえず駅に向かっているのだと思う。


「ドクゼツさんは電車通学なの?」


「いつもは車よ。今日はあなたがいるし、たまには電車に乗ってみようと思ったの。」


「く、車?」


 さらっと言い放つドクゼツさんにさすがにつっこんでしまった。ただ、よく考えればわかることだった。いつもの僕より一時間早く学校に着くには電車やバスでは不可能だから。


「ドクゼツさんってどんな家柄なの?僕の両親が名字を聞いただけで震え上がってたけど。」


 突然、ドクゼツさんの表情が変わった。聞いてはいけないことだったのかと僕は固まった。


「その質問にはあとで答えるわ。」


 そう言うとドクゼツさんは足早に駅に入っていく。その目は獲物を狙う肉食獣のようだ。ドクゼツさんの向かう先でサラリーマン風の男性と絵に描いたようなおばさん風の女性が言い争っていた。二人の罵声が飛び交う真ん中にドクゼツさんは割って入った。


「公共の場での大声での言い争いは止めなさい。警察沙汰になるわ。何があったのか話してみなさい。」


 ドクゼツさんのその態度に二人とも驚いて動けなくなっていた。が、徐々にお互いの意見をドクゼツさんに言い始めた。


 内容としてはこの女の人が女性用トイレが混んでいたことを理由に男性用トイレに入ってきた。並んでいた男性を追い抜いて個室に入ったことに、この男性が怒ったらしい。


「女性用のトイレは何人も並んでいたの。男性用は並ばずに済むから入ったの。何が悪いの?」


 女性は威嚇するかのように周囲に怒鳴り散らした。しかしドクゼツさんは息を大きく吐いてから言った。


「おばさん。全面的にあなたが悪いわ。この男性が怒るのは当然よ。」


「な、なんで!」


 動揺するその女性に対してドクゼツさんは淡々と話し始めた。


「まず、男性用に入った時点から論外。女性なら女性用に並ぶのは当たり前よ。もし男性が個室が空いてないからと女性用に入ったら確実に逮捕されるわ。だったら逆もダメだということくらい考えなくてもわかることでしょう。次にあなたの言う『男性用は並ばなくてもいい』が間違い。なぜ男性用が空いているか、それは小と大で分かれているからよ。もし女性用を小と大で分ければ大の方の個室が確実に空くわ。逆に言えば男性は個室を利用する時点で緊急事態なの。最後に今のあなたの態度が最低。仮にも使用させてもらった側のあなたが注意されたことに対して怒るなんてありえない。緊急避難で使用したとしたらなおさら申し訳なさそうな態度をすべきだし、この男性の指摘を真摯に受け取って謝罪すべきよ。」


 毒舌炸裂といった感じだった。おばさんは言葉もなく後ずさり、小さな声で謝罪して人混みに消えていった。男性もドクゼツさんに感謝の言葉をのべて人混みに消えた。一瞬の出来事だったため、僕はただただ呆然と立ち尽くしていた。


「平田さん、行くわよ。」


 その言葉で我に返る。すでにドクゼツさんは切符を買っていた。急いで買おうとする僕の手に切符を渡すと、ドクゼツさんは自動改札へ歩いていく。


 速い…。というかよどみがない…。


 急いで後を追う。ホームにたどり着き電車を待つ。ドクゼツさんは涼しい顔をしているが、僕はさっきの事件でまだまだ動揺していた。


「ドクゼツさん…。一応聞くけど、さっきの二人は他人だよね?」


「当たり前でしょ?私の知り合いにあんな恥さらしはいないわ。」


 当然といえば当然。ただ…、他人にもあれができることはすごい…。僕にはその自信は…。


「私は自分がすべて正しいとは思っていないわ。私が物を言うときは少なくとも私は間違っていなくて、相手が間違っているときよ。自信は関係ないわ。」


 相変わらず心を読まれている…。


 電車が停まりドアが開くとドクゼツさんは乗り込む。僕も続く。電車内はそれなりに混雑していた。外の景色を見たりして落ち着こうと思い、窓に目をやったとき…、


「オギャー、オギャー。」


 電車内に赤ん坊の泣き声が響いた。声のする方を見ると母親らしき人とベビーカーが見える。しばらくしたら泣き止むと思っていたけど、まったく泣き止む気配がない。それどころか、母親は携帯の画面を見ているようで泣いてる赤ん坊をあやす気配もない。


「おい!うるせえぞ!」


 突然、悪そうな声が赤ん坊の泣き声をかきけした。母親の前に見るからにがらの悪そうな男性が立っていた。


「自分の子供くらい泣き止ませろよ!迷惑だ!」


「何?赤ちゃんは泣くのが仕事でしょ?少しくらい我慢しなさいよ!それともあんたは泣かなかったの?」


「なんだと!てめえ!」


 母親からのまさかの反論に男性は母親につかみかかった。


「やめなさい!」


 二人の間に割って入ったのはドクゼツさんだった。さっきまで横に立っていたはず。瞬間移動のようだ。ドクゼツさんは驚く男性を見上げた。


「あなたの言うことはもっともよ。ただ、言い方が悪いし声が大きすぎよ。あなたの声でこの子がさらに泣き出した形になったわ。あと、あなたが一般の人なら格好をもう少し何とかしなさい。姿で威圧しても近づくのは本物の方と警察だけよ。今警察が来たら逮捕されるのはまずあなただわ。」


 男性が反論できないのを確認するとドクゼツさんは目線を母親に移した。


「赤ん坊は泣くのが仕事。間違ってはいないわ。ただ、赤ん坊が泣くのは苦痛や不安を親に伝える方法よ。でもあなたはそれを無視した。泣いている赤ん坊を泣かせっぱなしにして携帯をいじるあなたは育児放棄以外何者でもないわ。あなたが泣き止ませる努力をしていれば、誰もあなたに文句を言うことはなかったわ。」


 こちらも反論はない。赤ん坊すら空気をよんで泣き止んでしまった。


「子供を大切にしないと大きくなった時に苦労するわよ。『三つ子の魂百まで』と言われるように、この子が大人になったときにあなたを信用しない人になるわ。最悪復讐されるわよ。」


 ドクゼツさんはそう言うと僕のそばに戻ってきた。電車内はまだざわついている。でもドクゼツさんはまったく気にする様子もない。


「さっきも言ったでしょ?相手が悪くて私が悪くない。言うべきことを言っただけよ。」


 僕も反論はない。ただ周囲の『何者だ?』という視線がかなり怖い。



 そんな不安をよそに電車はどんどん進み、気づけば終点に着いていた。学校からは1時間。ザ!山奥といった感じだ。


「さあ、始めるわよ。地獄の合宿。」


「はい。」


 そう返事はしたけどさすがに不安だ。でも、やるしかない!


 ドクゼツさんは山へ向かって歩き出す。その後を追って僕も歩き出した。


『いざ!地獄の合宿へ!』

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