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第二十話

 二日目も移動から始まった。

 今日はとうとう魔のリベラド大森林に突入する。このリベラド大森林こそ多種多様な薬草が群生している場所であり、同時に様々な魔物の生息地でもあるらしい。ここに入ってからがこの旅の本番だ。これまで以上に気を引き締めていかなければならない。


 昨夜は呑気に、移動中は休ませてもらうとなどとほざいていたが、そんな軽い雰囲気ではなかった。しかもこれまでとは比べ物にならない程の悪路を走るものだから、おちおち横にもなっていられない。結局昨日と同じように、ブライル様の横に座ることとなった。


 途中、何匹か魔物を見かけた。こっちに気付いている筈なのに、何故か襲ってくることはない。理由を聞くと、魔物避けを積んでいるのと、馬車の大きさに驚いているのだろう、と教えられた。

 魔物でも、得体の知れない大きなものは怖いのか、はたまた単に臆病な性格だったのか。真実は魔物(本人)だけが知る。


 そしてお昼の休憩を挟んで走ること数時間。ようやく目的地に到着した。

 群生していると言うだけあって、同じ植物が辺り一面に生い茂っている。色は濃い赤緑で、いささか気持ち悪い。周辺の魔素を取り込んでいるらしいのだが、そのせいだろうか。



「この草がそうなのですか?」

「ああ。今回騎士団が依頼してきたのは傷液薬だ。必要な素材は覚えているか?」

「えーと、エモース草とアンセプ草の根とレスタの実、それと精霊水です」

「その通りだ。ここではこのエモース草を採取する」



 日没まではまだ時間があるので、早速渡されたナイフと麻袋を持って腰を下ろした。サクサクと小気味良い音を立てながら、結構な速さで刈り取っていく。故郷の村では、実り時期になると村人総出で収穫していたので、こういった作業はお手の物だ。

 ちらりと横を見ると、魔物避けの配置を終えたブライル様も、懸命にナイフを動かしていた。お貴族様が農作業をしているようにも見えて、何だか微笑ましい。

 しかも身体能力の高さからか、わたし以上の速さで採取していく。負けてなるものかと、わたしも必死に手を動かした。

 そして気が付いた時には薄暗くなり、相当な量のエモース草が収穫出来ていた。



「こんなもので良いだろう」

「次はどれですか?」

「この近くでレスタの実が採れるのだが、今日はもう終わりだ。あまり動き回ると、ばったり魔物と出会うかもしれない」

「そ、それは危険ですね。止めておきましょう!」



 無理は禁物だ。ここはもう魔物の巣窟なのである。

 なので夕食を作り始めてからも、ブライル様は昨日のように出歩くことなく近くで警護をしてくれた。

 加えて魔物避けも効いているのか、幸いなことに今のところそういった危険はない。

 ブライル様と魔物避けの効果で、怯えることなく料理が出来る。ありがたや、ありがたや。






「明日は午前中にレスタの実とアンセプ草の根を採取する。そして午後からは、魔石だ」



 夕食後、魔石を手に入れる為の作戦会議が始まった。



「……とうとう来ましたね」

「魔物避けは馬車に置いていくので、そうなるといつ遭遇するかわからない」



 ちなみに今日の夕食は腸詰(ソーセージ)入りポトフと塩漬け肉のカツレツ、根菜のピクルスだった。ピクルスといえば旅では特に重宝するので、明日からも活躍してくれるだろう。



「二号、お前は私の後ろに付いておけ。そして魔物を見つけたら、安全な距離まで退避だ」

「わ、わかりました。でもその退避した先に新たな魔物が現れた場合は、どうしたらいいのでしょう」

「……全力で逃げろ」

「そんな無責任な!」

「しかし安心しろ、魔物には気配がある。近くに二匹以上居ればわかるし、自分以上の力がある魔物が居る所に、下位の魔物が現れることは少ない。己の命が狩られるからな」

「じゃあわたしたちが下位の魔物を相手にしていた場合はどうなるのです?」

「上位の魔物が現れる可能性はある」



 当然、みたいな顔で言わないでくださいよ!

 ブライル様が戦っていて、わたしは逃げて、そこにもっと凶暴な魔物が現れて……。



「そうなったら、わたし死……!」

「死なせはしない。お前は私が守る、そういう約束だろう」

「ぶ、ぶらいるさまぁ……」



 そうですよね、あの時約束しましたもんね! ブライル様が居れば、ドラゴンやヒュドラじゃない限り、魔物の一匹や百匹どうとでもなりますもんね!




「それにお前が死ねば、帰りの食事はどうなる」

「……は?」

「いくら食材があろうと、それを上手く調理出来る人間が居なければ何の意味もない。しかも城に戻ったら戻ったで、フェリクスにねちねちと言われるではないか。あいつの説教は長いのだ」



 というと何ですか。わたしの命より、ブライル様の食後やフェリ様の説教から逃れる方が大事だとおっしゃるのですか。



「ブライル様」

「何だ」

「ぜーったいに守ってくださいっ。死んでも守ってください! じゃないと化けて出てやりますからねっ。そして一生美味しいものが食べれなくなる呪いをかけますから!」

「勝手に恐ろしい呪いをかけるな」



 せっかく感動していたのに、なんてお人だ。

 そうですよね。お貴族様からすれば、平民の命なんて埃よりも軽いですもんねっ。


 思ってもみなかった扱いを受けたことに腹を立てたわたしは、少しでもデザートの足しにと用意していたビスケットとマシュマロを取り出す。そして焚き火で炙ってトロトロになったマシュマロをビスケットで挟み、勢いのまま噛り付いた。



「二号、何だそれは」

「何って食後のデザートですよ。うわーおいしー、サクサクでふわふわでトロトロー!」

「な、何故、お前だけ食べているのだ」

「食べたいならご自分で作れば良いじゃないですか」



 そう言って、材料を差し出す。恐る恐るそれを受け取ったブライル様は、見様見真似で串に刺したマシュマロを炙り始めた。が、焚き火に突っ込み過ぎていたので、マシュマロに炎が上がり、あっという間に真っ黒焦げ。見るも無惨な姿になってしまった。



「二号……」

「ああもう、わかりましたよ!」



 仕方なくブライル様用に一つ作ってあげると、その出来栄えを見て満足気に頷いた。

 おーおー、美味しそうな顔しちゃって。密かに眉が動いていますよー。

 実際には大して変わっていない表情だけれど、研究所で働きだしてから、その微妙な違いが日に日にわかるようになった。それがわたしには、何故だか嬉しく思えた。



「魔法薬を作る時はあんなに器用なのに、何でこんな簡単なことができないんですかねぇ」

「料理は習っていないのだから当たり前だ」



 マシュマロを炙るだけの行為を料理と呼ばないでいただきたい。

 溜め息を吐かれたことにも気付かず二個目を要求してきたので、今度は作ってきたブルーベリーのジャムを添えてみる。



「んっ、これも美味いな」

「良かったですねー、ミルクジャムもありますよー」

「何だと、それも早く作れ」

「ハイハイ」



 こんなのんびりした気分で、本当に魔物と戦うことなんてできるのだろうか。少しだけ不安になったわたしは、いざとなったらブライル様を盾にしてでも逃げようと心に誓った。

 しかし、それでもブライル様ならどうにかするんだろうなと、根拠のない思いが生まれたのも事実だった。








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