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名無しの私

作者: 真浦塚真也

私には、久しく名前がなかった。

物心ついたころには両親や姉妹には『お姉ちゃん』と呼ばれていたし、近所の人には『片倉さんとこのお姉ちゃん』と呼ばれていた。

幼稚園でも名前はなかった。妙に堅苦しく仰々しい施設であった為か、先生も、そして同級生ですら『片倉さん』であった。名前で呼んでくれる親友はいなかった。今思うと親友はおろか友達もいなかったのではないかと自己嫌悪に陥る。

そんな状況が小学、高校、短期大学と続き、私は『片倉さん』のままで就職した。就職したといっても、仕事は事務崩れのようなもので、毎日平凡な、それでいて安定した生活だった。

平凡で、安定した生活。だから、嫌だと思ったことは一度もない。妹が大学の友達と夜遊びからの朝帰りをし、母に頬や尻を叩かれている日常を目の当たりにしても、『羨ましい。』と感じるよりも、『大学生にもなって』と冷ややかな目で眺めているだけだった。

そんな私も母の勧めでお見合いをした。そして恋をした。恋の相手は浩二さん。浩二さんはいわゆる硬派な人で、お見合いの頃からそしてお付き合いをする間、そして結婚に至るまで、私のことを『片倉さん』と呼んでいた。

そして、結婚。程なく妊娠。そして出産。私は程なくしてママになり、私の呼び名も『ママ』になった。

浩二さんと娘の咲と『ママ』の生活。平凡だけど安定した穏やかな生活。前からの家族には『お姉ちゃん』と呼ばれ、今の家族からは『ママ』と呼ばれる。そんな平凡だけど安定した穏やかな生活。


名無しの私。

名無しの私の平凡だけど安定した生活。

何にも不満のない穏やかな生活。



隆さんに惹かれた理由を、私のことを『真紀』と呼んでくれたからと正直に話したら、皆は許してくれるかしら。

御覧頂き有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。 結婚してからママになるまでの間は「ねぇ」とか、「おい」「あの」とか?そこに照れや愛を感じなかったのかなぁと妄想。 ラストで落ちた瞬間、悩ましい作品になりました。
[一言] 死んだら戒名つけてもらえるから、それまで待てば良かったのに (´・ω・`)
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