表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

落語演目「死神」

作者: TETUO

この作品は落語の「死神」を元にしています。内容も大体の部分は死神の話の下げを崩したくはないので同じにしてあります。ところどころアレンジして書いております。初投稿ですが読んでいただけたら幸いです。


時は徳川幕府が世を掌握していた時代。裕福な家庭もあればその時代には百姓なる家庭もあり、どちらかといえば百姓の家庭のほうが多いその時代に、ある貧乏百姓がいたそうな。

「腹、減ったな。おい、お市よ、飯かなんかないんかいな。こちとら昨日の朝から何も食ってへんのじゃ。」

 そう昼時に起きて口を開いては得意の文句を湯水のように流すのはこの話の主人公の孫兵衞であった。昨日の朝から何も食ってないってあんた、昨日の朝からずっと寝て、起きもしないで病気でもないのにずっと寝転がってただけじゃないか、ええ? こっちは切り詰め切り詰めでやっとのことで生活してるってのに何で働きもしないで死神でもついた三途の川を渡りかけてる病人みたいなあんたに飯を差し出さなきゃならんのよ。

「おいおいなんだよ。やっとのことでこのオオカミが一息吹いただけで吹っ飛んじまいそうな藁葺き屋根の下で寝てた俺が早速怒鳴られなきゃいけないんだよ。こっちはなぁ今起きたその時から畑にでも出て、鍬の一つや二つで畑の手入れでもしようと思ったがな、いきなりそんな言い方されたらこっちのやる気も収穫できねぇってんだよ。」

 ああ、もう一回言ってごらんこの糞亭主さんよ。こっちはあんたなんかいなくてもね子供たちが立派に育ってくれたもんだからみんなで畑仕事してても苦じゃないし捗っているんだよ。働かない男なんてドロドロになった荏胡麻油と同じだよ! 働かなければ両も稼がないならいっそのことどっか行っちまいな! あんたがどっか知らないところで勝手に借金作ってこっちが苦労しているんだよ! あんたなんかここにいるだけでただの邪魔者なんだよ! どっか行くついでにそこらへんで野垂れ死んだらどうだい? ええ?

「ああ、わかったよこの田舎育ちの汚百姓が! お前の望みどおり死んでやるよ、ええ? 俺が死んで子供たちが悲しんで墓にしがみついても帰って来てやんねぇからな!」

 そう、大声で叫びながら孫兵衞は例の藁葺き屋根の家から足音を残して出て行ったのだった。

 彼が真っ先に向かったのはどこにでもある河川であった。そこの河川では毎月多くの土左衛門が回収されており、彼の村でも死神が居るのではないかということで噂になっていた。彼は河川の水に触れた途端に今まで浮き上がってきた土左衛門の顔を思い浮かべた。

「いやはや、こりゃ、あの、噂になってた土左衛門川じゃねぇか。ここで死んで俺もあいつらの仲間になるってのも悪くねぇんじゃねぇのか。」

『だったら、死んじゃいましょうよ。』

「ここじゃあ土左衛門の幽霊が出るって噂もあるもんだからなぁ、どうしようかね。」

『死んだらどうですか。』

 彼は、どことなくまだ生きていそうな土左衛門の表情にはなぜか生の息吹さえをも感じたことがあったが、この寒い時期の河川の水に触れた途端、土左衛門の仲間になる気は失せたように河川を後にし、次に野垂れ死ぬ場所を探しに歩いた。ぽたりぽたりと歩いていると大きな木を見つけた。

「おいおい、立派な木じゃねぇか。こんなにでかい木そうそう見れるもんじゃねぇど、ええ?」

『確かに、この木に首をくくればあの世に行けそうですね。』

「そうだよな、この木に首をくくればあの世に、ってなんだよオイ! ええ?誰だい、人が今にも死のうって言ってんのにさっきの川から話しかけてきやがってる野郎は!」

『私ですよ、ほらここ。この顔、この服装、この鎌、どう見たって死神ですよ、ええ?』

「死神ってかいおい! 本当に死神かあんたさん? この顔、この服装、この鎌、そこらへんにいそうな百姓じゃねぇか。人が今にも死のうって時に邪魔にしにくる汚ねぇ百姓がどこにいるんだよ!」

『まぁまぁ、そう邪険にしないでくださんな。あなたはまだまだ死なない方がいいってのをお伝えに来たのですよ、はい。』

「今から死のうって思ってる百姓には死神だか折紙だかそんなのは関係ないんだよ。あんたが死神だからって俺の死への決意は変わんねぇよ。」

『あらそうですか。私はそんな決意の固い百姓さんを気に入りましたよ。そんなあなたに御一報あるんですがね。』

「なんだいその御一報ってのは、ええ? 明日の畑の収穫よりも気になるぜ。」

『では教えてあげましょう。そこらへんの畑の収穫よりもありがたいお話です。 というのもね、あなたが死ぬ必要がなくなるんですよ。人間ってのは面白い生 き物でね、人間ってのは私たち死神に生かされてる存在でねぇ、例えば床でずっと寝転がって病に蝕まられて今にも死んじまいそうな百姓さんがいるとしますね、そういう人たちってのは普通は見えないのですが死神がそばに座っているのですよ。その死神がその人の寿命がなくなる時にやってきてその人を殺すのですよ、はい。寿命がなくなる人には死神は枕元に座るのです。寿命がなくなることを勘違いして近づいてきて殺そうとしている悪い死神はその人の足元に座るのですよ、ええ。』

「なんだその勘違いした死神ってのはただの迷惑な野郎じゃねぇか。働かない百姓よりもたちが悪いねぇ。」

『その百姓はあんたでしょ。まぁいいです。その枕元に座っている死神はどうにもできませんで、絶対に手を出したらいけないんです。ですが、その足元に座るタチの悪い死神てのは退治できるのですよ、ええ。ですからね、あなたにこの足元に座る死神を退治して病人さんを助ける医者になる機会をあげようと思うのですよ、はい。経験も薬の調合の知識もいらない簡単なお仕事だと思うのですがね。どうでしょう孫兵衞さん。』

「おい、そんな江戸の秋刀魚よりも美味しい話があるかい、ええ? 俺にそんなことさせていいのかい? 俺は脈の取り方もわからねぇぞ。」

『ええ、かまいませんよ。あなたには大事にしなきゃいけない家族があるようですし、こうして私のことが見える方に出会えたのも何かの縁でしょう。しかもあなたはまだまだ長い寿命が残っていらっしゃるようですからね。』

「そりゃあ、ありがたいや。ところであんたさんどうやって死神になったんだい?」

『どうもこうも死神ってのはなりたくてなれるもんじゃないのですよ。閻魔さんに地獄行きを宣告されたクズみたいなのがなるんです。ですが大抵そうやって地獄に落ちたクズたちは現世で何かとても大切なものを失って、そのおかげで死神になるわけです。私の場合は現世で家族を亡くしましたね、ええ。』

「そうなのかい。あんたも大変なんだなぁ、でも俺には関係ねぇな、それでよ、その足元にいる死神はどうやって退治するんだい?」

『本当に興味ないのですね。まぁいいでしょう、それはですね、呪文を一つばかり唱えるだけでいいんですよ、ええ、

ラリルレロノサシスセソイヤンバカァンノカトチャンぺッ、パンパン

と拍手を二回ばかし打っていただくだけでございますよ、ええ。』

「なんだその呪文は?なんかどっかで聞いた事ある気がするぞ? カトチャンぺッがどうも聞いた事ある気がするがまぁ、いいや。なんだっけ?

ラリルレロノサシスセソイヤンバカァンノカトチャンぺッ、パンパン?

 おいおいこんなので本当に死神がどっかに行く、っておい、死神? 何にも言わねぇで勝手にどこ行きやがった。おいまさか、この呪文本当に本当なんじゃねぇか、おい! これで一儲けできるぞ!」

 という事で孫兵衞は死への決意はそっちのけで藁葺き屋根の家に帰ったそうな。あんた、何だい? 急に帰ってきたと思ったら、ええ? 死んだんじゃないのかい。全く。こっちは死んだと思って清々したのにさ。

「亭主が帰ってきたのに開口一番なんだその言い草は! 俺はこれから医者になって一儲けしようとしてんだよ。なのにそんな言い草されちゃあ、こっちも黙ってるわけにはいかねぇな、ええ? 俺が医者になって何百両と稼いでもお前には一両も分けちゃやんねぇからな!」

 と言い放った孫兵衞はボロボロの百姓姿のまま、医者と書かれた看板を背負って、城下町にくり出した。

「ちょっと、すいません。」

 はい?という口調で後ろを振り返るとそこには少し小綺麗な格好をした女性がいた。

「背中に書いてある医者ってのは貴方様でございますか。」

 そ、そうですとも! となれない口調で孫兵衞は胸をたたく。

「あの私この城下町で酒をさばいてる商人なんですけれども、うちの主人が病にかかってしまいまして、どこの医者に行っても治せないと言われて、途方に暮れていたんですよ。そこでここでも有名な占い師のところに行きまして、北北西をまっすぐ進んで最初の角を右に曲がったところにお医者様がいたらその方に見てもらいなさい、と言われたので行ってみたら貴方様に出会ったわけです。」

 なんて適当な占い師だ、と少し思った孫兵衞であったが口には出さず、いいですとも、私が診て差し上げましょう、その占い師は当たってますねぇ、とその患者を診ることにしたそうな。

 苦しそうな顔で床に転がっているのは問題の病にかかった商人だった。苦しそうな顔で転がる彼の足元にはなんとあの時会ったのとそっくりな死神が座っていたそうな。ほいきた! 大当たりだ! と孫兵衞はその場を気にせず大声で叫んだ。

「お、大当たり? 何が大当たりなんですか、お医者様?」

 あ、いえいえ、何でもございませんよ、と孫兵衞は死神が自分以外に見えていないことを今その場で確認した様子だった。あの、もしこれで病気が治ったら謝礼というのは、と聞くと商人は、

「ええ、もちろんでございます。 何十両でもさしあげます。」

 よし、と孫兵衞はあの呪文を心の中でしっかりと思い出しながら、

 ラリルレロノサシスセソイヤンバカァンノカトチャンぺッ、パンパン

 と唱えた。そうすると足元に座っていた死神は、すーっと足音も立てずにその場を去ったそうな。すると今ままで転がっていた患者は宝くじでも当たったかのように急に起き上がったと思いきや、自分が寝ていた布団を片付けだし、炊いてあったご飯をしゃもじも使わず手ですくって口にかきこみ、最後には孫兵衞に向かって感謝の言葉を幾度となく送るのだった。

「なんということでしょう! こんなにありがたいことはそうそうございません! お医者様には謝礼ということで五十両さしあげます!」

 孫兵衞は一つの呪文を唱えただけで大儲けを繰り返し、患者のところに行っては枕元と足元に必ず目を通して足元にいれば例の呪文を唱え謝礼をもらう生活で毎日豪遊三昧であった。ごく稀に枕元に死神が座っている時は、これはどうしようもありませんねぇ、寿命ですよ、頑張って生きた抜いたのですから

静かに見守ってあげましょう、ではでは、という具合に何もせずにその場を去ろうとした瞬間にその患者は息をひきとるという具合に彼の診察はよく当たるということで彼の評判はウナギのぼりに上がっていった。そうして得た金は豪遊した挙句にスリに遭ってしまい、ほんの月が満月から三日月になる頃には懐に残るはわずか三両となっていた。そして行くあてもなく帰ってくるのはあの藁葺き屋根の家だった。

「おい、帰ったぞ。」

 なんだいあんた。また帰ってきたのかい。なんで死人が何回も帰ってこれるんだい全く。あんたにあげるもんはうちにはないよ。

「帰ってきて早々やっぱりそれかよ。もっと優しさのある言葉はねぇのかよ。まぁいいさ、銭が無くなってようやくお前らのありがたさがわかったよ。」

 なんだよ急に気持ちの悪い、ええ? 嘘っぱちだらけになったから借金抱えてうちらを困らせてきたんだろ? もうこれ以上困らせないでくれよ。

こう言われてしまっては孫兵衞は腹も減っていたせいか何も言い返せず、とにかく銭を稼ぐことを第一にもう一度医者になることに決めたのだった。だがその最初の仕事で訪れた患者を見ると枕元に死神、次の患者のところには枕元に死神、次も枕元、次も枕元、枕元、枕元と何十人も連続で死神が枕元に座っていたそうな。そこで十三番目に見た患者は江戸の町でも大手の呉服屋の大元であった。しかしこれも枕元に死神が静かに座っていたのだ。

「ああ、これはもう無理ですな。呉服屋で真面目に働いた証でしょう。一生懸命に生きたのですから邪魔しないであげるのが大元さんにとっても一番ではありませんか。」

 いや、そうおっしゃらずに、なんとか尽力して看病してやってはくれませんか、と呉服屋の代役は喋りかける。

「いやぁ、私も大元さんを助けて差し上げたいのですけれどもね、こればっかりはどうしようもないのですよ、ええ。もう座ってますからねぇ。」

 座ってる? と不思議そうに代役は思ったが、いやですがお医者様、もし大元様を治していただけたら、二千両を差し上げます! お願いします! と代役は元百姓の孫兵衞に懇願するのであった。

「に、二千両! なんと、そんな額は初めて耳にしましたぞ。二千両なんて手にした日には何もしなくても死ぬまで豪遊できる。」

 孫兵衞は二千両という魅惑の果実に手を伸ばしていたがどうにも死神が枕元にいる限りはどうしようもないのはわかっていた。

「枕元が邪魔だなぁ。せめて足元にいれば。ん?」

 そこで孫兵衞の貧弱な脳に電撃が走る。

「ちょいと代役さんよ。四人ばかしでいいので若い腕っ節のたつ者を呼んではいただけませんかね。」

 若い衆たちが孫兵衞の前にすぐに揃ったのは呉服屋の若い衆であったからだ。

そして孫兵衞はひっそりと彼らにこう言い渡した。

「いいですかみなさん。ここに寝ている大元さんを私がずっと監視していますので、二人は大元さんの枕元の両端に、もう二人は大元さんの足元の両端に居てください。そして私が膝を叩く合図をするので、そうしたら枕元は足元に、足元は枕元に向かって布団をくるりと半回転させてください。ですので私が膝を叩く合図をしっかりと見ていてくださいよ。」

 そう伝えた孫兵衞は満月が輝くその夜から大元を監視し続けた。そして丑三つ時を越えたその直後、例の死神が大元の枕元に現れて、目をカッと見開いてはその手に有り余るほどの大きな鎌を今にも大元の首筋に振りかざそうとしていた。その刹那、孫兵衞が膝を強く叩くと若い衆たちは一斉に布団の角を握りしめ、枕元は足元に足元は枕元に向かって走り出した。布団が半回転し、死神の位置が逆転したその時、

 サシスセソノカキクケコイヤンバカァンノカトチャンぺッ、パンパン!

 そうすると死神は持っていた鎌を投げ捨て、そこらへんにいそうな犬ころのような目をしてすーっとその場から消えたそうな。その途端に大元は見事に復活し、孫兵衞にお礼を何度も言い、孫兵衞は念願の二千両を手にして家路に着いた。


「ほら見たもんかこの死神野郎が! ええ? あそこであの考えが思いつくかねしかし、ええ? あんな考え徳川の目ん玉野郎も思いつかねぇだろぉな。呪文を食らった時のあの死神の顔見たか? びっくりしてなぁ、ええ? そこらへんにいる犬っころみたいな顔してたなぁ、がっはっは! この銭であの婆さんにいい着物でも買って帰ってやるかぁ。」

 そう大きな独り言を呟きながら家に帰ろうとしているその矢先であった。

『ちょっと、ちょっと孫兵衞さん。』

「え? ああ、この前の死神さんじゃねぇか! あんたさんにいいこと教えてもらったから俺もこんな大両だぜ! 農家みたいな仕事ばっかりだったのに大両なんて誰が考えるかね、ええ? 最高に笑えるだろ? こうしていい気分になったのも全部あんたのおかげなんだからさ、今から一杯ひっかけに行かないかい?」

『ええ、いいですね。 それじゃあ私、いいところを知ってるんで案内しますよ。いい場所ですよ。ここからすぐのところで少し長い石段を下りますと、少し暗いのですが蝋燭がたくさんあっていい雰囲気の場所があるんです。なかなか人も来ないので静かな場所なんですがね。どうでしょう?』

「そいつはいいや! 俺もあんたとゆっくり話がしたいもんだからさ、そこらへんに人がたくさんいると俺が一人で腹話術でもやってるみたいに思われちまうから人があんまりいない方があんたと話しやすいんだよ。さっさと行こうや。」

 そうして、今まで辺り一面が畑だった帰り道に不自然な石段が現れていたことに孫兵衞は全く気付いていなかった。死神が案内する通りに石段を下っていったそこには無限に続く無数の蝋燭が乱立していた。

「おい、なんだこの蝋燭の量は。どこまでも蝋燭が続いてるじゃねぇか。」

『これは人間の寿命だ孫兵衞。』

 そこにいたのは容姿こそ変わらないものの、先ほどまで一緒に石段を降りた死神とは明らかに雰囲気の違う死神がいたそうな。

「人間の寿命? こんなにあるのかい。こりゃあ、たまげたぜ。おい、この爛々と燃える長い蝋燭は誰のだ?」

『こりゃあ、驚いた。これも流石の血筋ってやつだな。これはお前の息子のだ。』

「これが俺の息子のやつか。あのガキも長生きするんだなぁ。じゃあこの半分くらいしかないが威勢良く燃えてるのは?」

『これはな、お前の嫁のだ。』

「ほぉ。あいつも結構長生きするんだなぁ。おい、この今にも消えそうな短い蝋燭は?」

『これはな、お前のだ。』

「おい、なんでだよ! この前、俺の寿命はまだまだあるって言ってたじゃねぇか!」

『お前が余計なことするからだよ。俺は忠告したはずだ。枕元に座っている死神は絶対に手を出してはいけないと。それなのにお前は二千両なんかに目がくらんで俺の忠告を破った。お前は取り返しのつかないことをやっちまったんだ。枕元にいる死神を退治したもんだから、お前はあの病を患っていた大元の寿命とお前自身の寿命を入れ替えちまったんだよ。余計なことをしたよな。失った時間は二度と帰ってはこない。』

「そんなぁ! おい、勘弁してくれよ! もう二度としないから、な、な? わかった、もう死神退治はこれでやめる!」

『うるせぇ。』

「じゃあ、もうあんたにも関わらねぇし、今までのことは誰にも言わねぇ!」

『うるせぇ。』

「じゃ、じゃあ、家族も大切にするし畑仕事もちゃんとやって借金も返すから! 頼むよ死神さんよぉ!」

『うるせぇ! オメェがなんと言おうとやっちまったことはどうしようもねぇ。規則は規則だ。お前はここで蝋燭が燃え尽きて死ぬだけだ。』

「それだけは勘弁してくれよ! 頼む、何かいい方法が・・・ああ! じゃあこの二千両で新しい蝋燭と交換してくれ! 頼む、この銭で何とか!」

『ほう、せっかく稼いだ二千両を蝋燭と交換するってか。いいだろう、じゃあこんくらいの短い蝋燭と交換してやろう。』

「よし! 流石死神さまだ! 今から火を移し替えるから待ってくれよ?」

 しかし、そう簡単に火は移らず、孫兵衞の手は今にも燃え尽きそうな蝋燭の火を消さまいとしていたが、緊張という抑圧が彼の手を震えさせないわけはなかった。

『何をそんなに震えている? そんなに震えていたら消えるぞ? 消えたら死ぬぞ。』

「わかってるわい!」

『移さな死ぬぞ。消えたら死ぬぞ。』

「わかってるよ! そう急かすんじゃねぇ。」

『消えたら死ぬぞ。』

 すると、弱々しく燃えていた火が新しい蝋燭に灯った。

「よっしゃあ! 見たかこれ! これで俺もまだまだ生きれるぞ!」

『何だよ、点いちまったのかい。まぁいい。その蝋燭大事に家で保管したらいいさ。消えないようにな。』

 その言葉を最後に死神はその場を去り、孫兵衞はいつの間にか眠りに落ちたようだった。


「お、家か。俺の蝋燭は!」

 辺りを探すと自分の枕元に蝋燭が弱々しく光っていた。

 何だい、あんた起きたのかい。昨日の夜いきなり帰ってきたと思ったら何も言わないで寝るもんだから呆れて何も言えなかったよ、ええ? それにこっちは少し具合が悪いんだ。私だけならともかく息子たちも具合が悪くてね、何でもいいから何か作ってくれるといいんだけどね、と、いつもと違う調子で孫兵衞に頼み事をするお市は床に転がったまま弱々しく彼に告げた。

「何だよ、うちは全員働けないってかい。情けないね、全く。」

 そう文句を言いながら床から立とうとした時、ふと枕元の蝋燭に目をやると、    その蝋燭の後ろには灰色に染まっている骨の浮き出た二本の足があることに気づいた。不気味に思いそのまま見上げると、昨日の死神が立っていた。その死神が見つめる先に目をやると、お市とそのそばに眠る息子たちの枕元に、今まで幾度となく退治してきたあの死神たちが鎌とともに立っていたそうな。

『あなたとあなたの家族の方にはここで全員死んでもらいます。これであなたたちは家族を失うわけです、はい。これからは何をしていくかわかりますね?』

 そう言い残し、死神たちは一斉に鎌を振りかざしたそうな。


この作品を書いたきっかけはある動画でした。そこではお笑い芸人の千原ジュニアさんが落語をやっていたんです。彼はすべらない話でも有名な通りベシャリのプロです。そんな彼がベシャリの最高峰である落語をやるなんて私は気になってしまって仕方ありませんでした。演目は死神。聞いたこともない演目で、しかも私には一切落語の知識もなかったのです。そんな状況でいざ動画を見はじめると不思議と彼の世界にどんどん飲み込まれていきました。とにかく崩れないテンポの良さに居心地の良ささえも感じた私は是非これを越える落語を書きたい、喋ることができないのなら書いてやろうということで今に至ります。書いている間はあっというまで4日間ほどで完成しました。8000文字を越えるものを書いたことがなかった私が4日間で書き上げることに自分自身で驚きましたが、何よりも驚いたのは自分がこんなにも一つの作品に没頭できたことでした。飽き性の私には到底できないと思ったのですが、ジュニアさん以外の噺家さんの死神を聞いているうちにいろいろな発見がありある程度のプロットを崩さまいと努力しましたし、いろいろな方々の死神で出てくる「邪険」という言葉や「借金」、「消えたら死ぬぞ」などもできる限り盛り込みました。最後の下げの部分はご想像にお任せします。しっかりあとがきがまとまっているかわかりませんが、最後までご精読してくださった方ありがとうございます。次の作品は自分で作る現代落語なんかできたらいいなと思っていますがいつになるかはわかりませんwそれと自分で何かの動画でこの作品を話せたりできたらいいなとも思っていますw ではでは最後まで読んでいただきありがとうございました。失礼いたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ