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足掻いても足掻いても守れないもの

今回で最終話になります。

Wing 足掻いても足掻いても守れないもの



「この鉄格子が外れてくれれば取りにいけるのに・・・。」

日華は鉄格子越しに杖を眺めていた。

ビービービービー

「 ?? 」

城の全体に警告音が鳴っている。

【城の外部からの侵入者が確認されました!】

放送がなり、寝ていた監視員も起きた。

 カッカッカッカッ

 兵隊が駆けてきて、監視員と何か話している。話しを聞くと、監視員は慌てて走っていった。監視員の代わりに兵隊が残った。

 「・・・何が起きたんだ?」

 伝助は恐る恐る兵隊に状況を訊いた。

 「侵入者が入ったらしいぜ!」

 兵隊は聞き覚えのある声だった。

 カチャッ

 「セツ!!」

 兵隊が兜を取るとセツだった。

 「よかった!!てっきりレイズに殺されたのかと・・・。」

 月華は心配していたらしい。

 「傷は負ったが大丈夫だ。監視員はたぶんすぐ帰ってくるはずだ。さっさと逃げないとな!」

 バキッ!!

 セツは鉄格子を拳で壊した。そしてみんなの縛られた手足を解放した。

 「セツもみんなも魔術で脱出するから魔法陣の上に乗れ!」

 パシッ

 月華はそう言い、監視員のテーブルの月華と日華の杖を奪い返した。そして自分も魔法陣の上に乗った。

 「ワープ!!!」

 トンッ

 そう唱えて月華は魔法陣に杖を突いた。

 コツコツコツ・・・

 監視員が帰ってきた。

 「なんてことだ?!」

 監視員が鉄格子の中を覗くと既に誰一人居なかった。

 ビービービービー

 「王様、牢の中の奴らに逃げられてしまいました。」

 監視員は慌てて王の元へ行き報告した。

 「なんということを!すぐにスマラへ向かっている兵士にそのことを伝えろ!!」

 「はい、直ちに。」

 王の周りに居た騎士の一人がそう言い、王の前から去っていった。

 「そしてこの監視員を即刻処刑にしろ!」

 「王様!!待ってください!私には妻もまだ幼い子もおります!どうか!!どうか・・・!!」

 「そうか・・・なら家族の目の前でギロチン刑にしてやろう。家族の前で死ねてうれしかろう。」

 「王様!!お願いです!王様・・・!!」

 監視員の叫び声は王の耳に入らず、監視員は兵隊たちに連行されていった。



 「ここ・・・は・・・・スマラ?」

 どうやらワープの魔術は成功したようだ。

 「よかった!助かった!!」

 伝助たちは喜んだ。

 「あ!そういえばセツさんは傷を負ったんですよね。うちの魔術で治しますよ。

 ケアル!!」

 日華が魔術を唱えると、セツの顔色がだんだん良くなってきた。胸の羽を突き刺された跡も残っていない。

 「すっげぇ・・・あんがとよ、日華。」

 ワシャワシャ

 セツは日華の頭を撫でたというより、髪をボサボサにした。

 「・・・・ん?あれはなんだろう?」

 伝助が遠くの空を眺めると黒い点が無数にあった。

 「兵隊だ!もうこんなところまで!早く地球界へ逃げないと!!」

 月華がそう言って走り出そうとしていた。

 「・・・・僕はここに残る。」

 伝助がいきなり言った。

 「え・・・・何言って・・・」

 「やっぱりレイズを信じたい。だから話し合ってみる・・・。」

 「そんなことしても意味無いに決まってる!!伝助も一緒に逃げないと!!」

 月華が必死に連れて行こうとしている。

 「・・・・気が済むようにすればいんじゃね?」

 セツが言った。

 「気が済むまで話し合って気が済んだら俺たちのところへ戻って来い。でも、無理はすんな。危ないと思ったらすぐに逃げろ・・・いいな?」

 セツが顔をあげるとニッコリ笑っていた。ちょっと引きつっているようにも見える。

 「うん、分かった。」

 伝助はうなずいた。

 「じゃあ約束な。」

 コンッ

 セツは伝助の拳と自分の拳を軽くぶつけた。

 「じゃあ、あたしたちはもう行くから・・・またね。」

 月華は顔を隠しながら言い、背を向けた。

 ギュッ

 「今までありがとうございました。御武運を祈ってます。」

 日華は伝助の左手を両手で握り締めた。

 別れを告げると、月華たちは森の中へ入っていった。みるみると伝助の姿が小さくなって、最後には見えなくなった。



 伝助と離れて何時間経っただろうか。始めは走っていたみんなも今では歩くことさえままならない。

 「・・・・あ。」

 日華の背筋がいきなりピンと伸びた。何かに気付いたようだ。

 「水の音がする!!」

 日華が走っていった。

 「日華、待って!!」

 月華とセツは追いかけた。

 ザーーーーッ

 日華の言うとおり、勢いよく水が流れる川があった。とてもきれいな水だ。魚まで居る。

 「あっちに滝がある!きっとあそこが地球界への入り口です!!」

 日華が指を前に突き出しながら再び走った。月華とセツは疲れて日華を追うのが精一杯だ。

 「滝の裏側だよね。」

 日華は恐る恐る滝の裏側のへ足を伸ばした。滝に足を取られたら一溜まりも無く流されてしまうだろう。

 なんとか裏側へ行くと、空洞の中を見渡した。

 「見て!地球界への扉が見える!!」

 滝の裏側へ行くと、枠の中に生い茂る木々が見えた。きっとそれが地球界への扉だ。

 「よかった・・・これで・・・・助かる・・・。」

 月華とセツが滝の裏側に着き、一息ついた。

 次の瞬間だった・・・。

 ドシュッ

 「 !! 」

 月華が後ろを振り返るとセツの懐に鋭く、太い槍のような矢が突き刺さっていた。兵隊たちがもう追いついてきたのだ。

 ダァンッ

 「セツ!!」

 月華はすぐにセツに駆け寄り、しゃがみ込み、ギュッとセツの横たわった身体を抱き寄せた。

 「セツ!セツ!セツゥ・・・」

 月華は必死にセツの懐に手を押し当て、止血しようとしている。しかし、そんな月華の行動も空しく、血は激しく地を張ってゆく。

 「セツ・・・・」

 月華の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。セツの意識はなく、月華の流した涙はセツの頬を伝うだけだった。

 「セツ、うちの魔術で治してあげる!」

 日華がセツの元へ駆け寄ろうとした。

 「もう・・・・間に合わないよ。日華・・・・あなたはあたしが守るから・・・

 ウィンド!」

 月華はいきなりそう叫ぶと、日華を風で地球界まで吹き飛ばした。

 「サンダー!!」

 魔法で岩肌を崩し、地球界への扉を塞いだ。日華はただ一人、地球界に取り残されてしまった。

 「月華!何してるの!!一緒に逃げるんでしょ!!ちょっと月華!こんなときに悪ふざけはよしてよ!!」

 ドンドンッ

 日華は必死に岩に拳をぶつけた。

 (・・・日華。)

 月華が日華の心に語り掛けてきた。

 (・・・父上の書庫に入ったって言ったわよね。)

 (それが?それがどうしたのよ?!そんなことより月華早く逃げないと!!)

 (そのときに手に取った書物に最強と呼ばれる魔術が載ってた・・・・きっとこれなら地球界との扉を完全に塞げる。)

 (それって・・・・身を滅ぼす魔術なんじゃ・・・。)

 (そう、その魔術。)

 (そんなことしなくてもこっちに来てサンダーで・・・!!)

 (駄目よ・・・・そんな弱い魔術じゃ・・・・すぐに元通りにされて地球界への扉が開いてしまう・・・・・・そしたら日華が捕まっちゃう・・・・・・それにね、日華。)

 (なに・・・?)

 (魔術は地球界じゃ使えないの・・・。)

 ( !! )

 (だからあたしがこっちの世界で塞ぐしかないの・・・)

 (何言ってんの?!そんなことしたら月華・・・・死んじゃう・・ひっく・・・じゃない・・・。)

 日華の眼には次第に涙が溢れてきた。

 (あたしは、あたしはね、日華。あなたがいてくれるだけでとっても励まされたし、元気になった。あなたがあたしを癒してくれたの?分かる?)

 月華の目にも涙が溢れていた。

 「ひっく・・・うぇっぐ・・・ひぃっぐ・・・・。」

 ドンッ・・・・ドン・・・・トン・・・・

 日華は俯きながら、岩を何回も叩いた。力強さが次第になくなってきている。

 (あなたは、あたしの闇を照らす光だから・・・だから・・・・・生き抜いてほしい・・・あたしなんかより・・・・もっともっともおぉぉぉっと生きててほしい・・・・。)

 ( !!!!! )

 「月華?!月華ぁ?!!月華!!!嘘って・・・嘘って言ってよおおぉー!!!!!」

 ドンッ!!!

 さっきまで俯いていた日華の顔がいきなり前を向いた。岩を力強く叩いたその拳からは一筋の血が流れた。

 「・・・・・メテオ。」

 月華がそう唱えると隕石が次々と降ってきた。

 隕石は追ってきた兵隊たちに打撃を与えた。

(日華・・・・あたしがいなくても強く・・・強く生きて・・・・・・・・・・ね・・・・・・・やくそ・・・・・く・・・・・・・・・・)

 グシャッ

 「うわあああああぁぁぁああああああぁぁあああああ・・・!!!」

 日華の悲しみと憎しみの溢れた泣き叫ぶ声が永久に続くかのように鳴り響いた。

 まるで虫が潰れるような音がした。しかし、虫にしては大きすぎる音だった。

 隕石は、完全に地球界への扉を塞いだ。

 日華は月華からもらった紅いクリスタルを手から血が流れる程強く握って放さなかった。

 そして、以心伝心しているはずの月華の心からは言葉一つ聞こえてくることは二度とはなかった・・・。



 The end


今まで読んでくださった方ありがとうございました。

続編をお書き致しますので、気が向いた方は読んでいただけたらと思います。

本当にありがとうございました。

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