仮面の王の帰還
Wing 仮面の王の帰還
「見て、セシディアよ!」
レイズが指差した方向にかすかに街並みが見える。
「・・・・。」
月華は眉間にしわを寄せている。
「・・・・やっぱりセツがいなくなったのに疑問が残る。獅子族はやると決めたことは絶対にやり通す種族だ。セツはセシディアに行くと言い切ってたから途中で帰るはずがない。心配だから探してくる。」
月華は背中を向けて来た道を帰ろうとした。
「そうはいかないわ。」
ザッ
レイズの合図で、一瞬にして鳥人族の兵士たちに伝助たちは囲まれてしまった。どうやら近くの岩などに隠れていたらしい。
「レイズ、どういうことだ?!」
伝助が訊いた。
「こうゆうことだ。」
ササッ
一人の兵士がレイズに何かを手渡した。
カチャッ
それは仮面だった。とても鋭いくちばしのついた仮面。レイズはそれを被った。
まるで魔界の恐ろしい魔女のようだ。
「くちばしの大きさ、鋭さ、形の良さで鳥人族は身分を決める。しかし、数百年に一度、突然変異かは知らぬが、くちばしのない王が生まれてしまう。しかし、それが民衆にばれてしまえば王は殺され、国は滅びる・・・。」
「だから、仮面でお顔を隠しているのですか?!」
レイズに日華が質問した。
「さよう。おや、こんなところで長話をしていたら、日が暮れてしまう。さっさと捕らえよ!そして牢屋に閉じ込めておけ!!」
レイズの指示通り、兵士たちが伝助たちを捕まえた。
「ここから出してくれ!!」
伝助の声は空しくも牢屋に響くだけだった。手足を縛られ、身動きもできない。月華と日華の杖は鉄格子の向こうの監視員のテーブルの上に置いてある。監視員は一人、そのテーブルに向かって椅子に腰掛けている。
コツコツコツ・・・
誰かの足音がこちらに向かってくる。レイズだ。騎士のような人を二人連れている。
「明日の朝、魔術師を処刑する。首吊りとギロチンどちらが好みかな?」
レイズが嫌味ったらしい口調で言う。
「地球界の人間も明日の朝には科学部隊に預けるとしよう。」
「お願いだ!!ここから出してくれ!僕ら仲間だろ?!」
伝助が必死に頼んだ。
「・・・・・仲間だと?そんなもの私には必要ない。私は友情や愛情などという感情はとっくの昔に殺したのだよ。あってもただ邪魔なだけだからね。それに、私がそちら側に寝返ってみんながハッピーエンドになる物語など、平凡すぎて誰も願ってなどいないさ。
ああ、あとこれから地球界に我が兵を送り、滅ぼしてやろう。丁度南西へ風が吹いている。その風に乗ればすぐにスマラの村につける。まるで天も私に味方してくれているようだ。そして滝の裏側の扉から地球界へ忍び込むのだ。」
レイズは奇妙な笑みを浮かべた。
「そんなことさせるか!!」
「身動きできない人間が何を言っても無駄だ。指をしゃぶってそこで見ておれ。」
レイズがそう言って伝助たちの目の前から去っていった。
「やはり、もう・・・。」
レイズが小部屋で誰かと話している。見知らぬ男だ。連れていた騎士たちはおらず、二人きりだ。
「今はまだ大丈夫ですが、3,4年もつかどうか・・・。」
「最悪だな。地球界に行ってこの有り様。しかも狙いのものは手に入らなかった。今、兵隊たちを地球界に手配させたが、見つかるだろうか・・・。」
レイズはガラス張りの箱に手をかざした。中に何か入っているが暗くてよく見えない。
「残念です、王様・・・。」
男はそう言い、部屋から出ていった。
牢屋の窓から外を見るともう夜だった。
ガリガリガリ・・・
何かを削る音がする。
「あれ?月華、さっきまで左側にいたのに、いつの間にか右側に来てないか?それに髪がほどけてないか?。」
伝助が不自然なところに気付いた。月華の髪型はいつものポニーテールではなく、髪を下ろした状態だった。
「ああ、ちょっと思いついたんだけど・・・もし、ここから出られたら地球界に逃げようと思うんだ。まだ兵隊も着いていないだろうし。」
伝助の質問に答えず、月華はいきなり変なことを言い出した。監視員は寝ていて、伝助たちの会話は聞こえていない。
「地球界に逃げても兵隊たちが地球界まで追ってきたら意味ないでしょ!」
日華の考えは確かに正論だ。
「地球界に逃げてからあたしの魔術で扉を塞げば兵隊たちは来れない。」
「けれど、ここから出られないし、スマラまでは何週間も掛かるのよ!!歩いてきたから知ってるでしょ?」
日華はまた正論を唱えた。
「・・・・一度だけあたしは父上の書庫に勝手に入って怒られたことがあった。怒られてたから日華も知ってると思うけど、そのときに手にした書物に魔法陣を用いる魔術が書いてあった。結界や強力な魔術がほとんどだったけど、その中にワープの魔術があった。つまり、瞬間移動類の魔術。そのワープという魔術は魔法陣から別の魔法陣に瞬間移動するもの。旅に出かける前、あたしはその魔法陣をスマラの村にちゃんと書いて残してきた。そして、今この場でも魔法陣を描き上げた。。」
伝助が月華の後ろを見ると、縛られているにも関わらず、右手は紅いクリスタルを持ち、魔法陣らしきものを床に削って描いていた。紅いクリスタルは髪を留めていたものだ。
「月華、ちゃんとここから逃げる方法考えてたんだ!すごい!!」
日華がはしゃいでいる。
「・・・・でも、杖がなければ魔術は発動しない」
月華の顔が暗くなった。
「大丈夫だよ!きっと何とかなるよ!」
日華が励ました。
「そうだね・・・。そうだ。これを日華にあげよう。あたしは髪飾りとして使っていたけど、きっとペンダントにもなるはず。」
月華はそう言って、牛革の紐で吊るしてある紅いクリスタルを日華に授けた。
「これ、母上からもらったものでしょう?うちがもらっていいの?」
日華は返そうとした。
「あたしがいなくなってもきっとそのクリスタルが守ってくれる。だから、大事に持っておいて。」
月華は日華のクリスタルを握った手を優しく掌で包んだ。
「何か、杖を取り返せる方法はないかな?」
伝助たちは一刻と迫る処刑への時間を無駄にしないように必死に考えた。
To be continued