牢獄の獅子
Wing 牢獄の獅子
「また道が塞がってるわ。」
コンコンッ
どうやら今度は氷ではなく、硬い鋼で塞がっているらしい。
「あたしの魔術で鋼を壊すものはないな・・・。」
月華が悩んでいる。
「ここの近くににランベルという海に浮かぶ町があったはずです。そこで爆薬を買ってくるという案はどうでしょう?」
日華が言った。
「しょうがない、その案しかないわね。」
月華たちは一旦セシディアへの道から離れ、海岸の船着場へ向かった。
「ランベルの町は海で囲まれてる。それ故に、罪人を閉じ込める刑務所に丁度良いの。だから島の半分は刑務所の所有地。はっきり言ってこの町も罪人の面会に訪れる人のために作られたといっても過言じゃないわ。」
レイズが船から下りて説明した。
「刑務所があるなら爆薬を販売してないんじゃないのか?そんなのあったら脱獄に使われるだろ?」
伝助が首を傾げた。
「確かに、伝助が言うとおり脱獄に使われてしまう。だから、販売は行っていない。・・・・表はね。裏だと普通に行ってるわ。悪は悪に惹かれる・・・。つまり罪人の近くには別の罪人が寄ってくるってこと。
さあ、こんなとこでぼさっとしてないで、私と日華は食材集め、伝助と月華は爆薬探しよ。鳥人族には爆薬うってくれないし、爆薬って意外と重いから男手が必要でしょうから。」
レイズが仕切った。
「なんで鳥人族には売ってもらえないんだ?」
伝助が訊いた。
「鳥人族はまともなことに使わない。人を殺めることにしか使わない。兵器としか爆薬を使わないってことだ。」
月華が言い捨てた。
「月華!そんなこと言ったらレイズに失礼でしょ!!ごめんなさい、レイズさん。ほら、月華も謝って!」
日華が怒った。
「伝助、さっさと行くぞ。」
日華の言うことはお構いなしに、月華は町の中に去っていった。
「月華、どこ行くんだ?」
伝助が尋ねた。
「刑務所だよ。囚人に爆薬の売人訊くのが一番手っ取り早い。口を割らなきゃ魔術で強引に訊くまでさ。」
月華たちは町のはずれの丘の刑務所へ向かった。
金網に囲まれた敷地内には多くの囚人がいた。
「こんなに囚人がいるとは・・・・異様だな。」
月華は顔に手をつけ、悩んでいる。
そこへ、一人の囚人が近寄ってきた。
「お願いだ。俺をここから出してほしい!!」
月華へ必死に頼みかけている。
「獅子族か・・・・なら、こんな金網も簡単に壊せるだろ?」
月華が囚人の身形を見た。20歳くらいだろうか。
「この金網には強力な電気が流れてる。触れただけでお陀仏だ!それに、あんた魔女だろ?」
「何故、魔女だと?」
月華が問う。
「獅子族の勘は鋭いんだぜ。」
囚人は得意そうに笑う。
「あたしが魔女だとしても、おまえを脱獄させたところであたしに何か得はあるのか?」
「セシディアに行きたくないか?俺ならそこへ続く道の鋼の壁を壊せる。旅人にとっちゃ爆薬を買う金は大金だ。俺ならただだぜ。どうだ、得になるだろ?」
囚人は鼻で笑った。
「何故、セシディアに向かっているのが分かった?」
月華は疑いの眼差しを囚人に向けた。
「だから、獅子族は勘が鋭いって言ったろ。」
「まあいいが、脱獄させたところで逃げはしないだろうな?」
「獅子族が嘘をつけば死を意味する。だから約束は守るさ。」
囚人は言い放った。
「あたしは月華、こっちは伝助。おまえは?」
「セツ。獅子族のセツだ。」
「なら、セツ・・・・これで交渉成立だ!サンダー!!!」
月華はいきなりそう唱えると、金網に雷を落とした。電気を流していた機会はショートし、壊れてしまった。
バリッ!!
セツは金網を破り、脱獄に成功した。
「さっさと逃げないとまた捕まっちまう。とりあえず、船着場までダッシュだ!」
セツと月華と伝助はその場を後にした。
レイズたちと合流した月華たちは、急いでランベルの島を出た。
バァリンッ!!
「ほら、約束通り、鋼の壁を壊したぜ。」
セツが誇らしげに言う。
「獅子族ってやっぱり馬鹿力だわ・・・。」
レイズの口から小言がこぼれた。
「ありがとう、セツ。」
「ありがとうございます。セツさん。」
伝助と日華はお礼を言った。
「俺もセシディアに向かうはずだったんだが、警察に捕まっちゃって・・・。」
セツは苦笑いで明るく見せようとしている。
「なら、あたしたちと一緒にセシディアに行かないか?」
月華が自然な顔つきで誘った。
「・・・・金もないし、そうすっか。それじゃ、さっさと行こうぜ!!」
セツが、元気に走っていった。
「ちょっと待ちなさいよ!」
レイズたちはセツを追いかけて走っていった。
こうして、セツが仲間に加わった。
To be continued