翼を持つもの
思いついたらすぐ書くタイプなんです。だから、今回も思いついたことババッと書かせていただきました。
Wing 翼を持つもの
今日、僕はおじさんの働く動物園で一緒に働きに行く。とても大きい動物園で、世界一広い動物園らしい。珍しい動物もいるので、ストレスを与えないように世話をしないといけないらしい。でも、僕が飼育するのはどんな動物なのかまだ聞かされていない。哺乳類だろうか?それとも爬虫類?魚類かもしれないな。
「ようこそ、伝助。待ってたよ。」
おじさんが動物園の入り口で手を振っている。
「おはよう、おじさん。」
僕はおじさんのところまで駆けていった。
「君に今日から働いてもらうんだが、ちゃんと朝飯食べてきたか?」
「大丈夫だよ。ご飯4杯も食べてきたから。」
「そうか。それなら大丈夫だな。ハハハッ。」
おじさんは笑って僕の肩を叩いた。
「動物は餌を与えないとすぐ死んでしまう。だから、決まった時間にきちんと餌を与えないとだめだ。分かったな?・・・あと、檻の掃除は徹底的にやるんだ。」
おじさんが歩きながら説明を始めた。
「この動物園で働くからには、禁酒、禁煙、時間厳守は絶対守るんだぞ。おい!そこの清掃員!さぼるなよ!!あと煙草を吸うなと何回言ったら・・・。」
おじさんは清掃員に注意しながら歩いている。
「で、何の話しだったかな?・・・・そうだ。伝助に飼育してもらう動物は本当に珍しい動物なんだ。そして、とても美しく、鮮やかな翼と尾を持ってる。だから、手入れを忘れずに毎日しろよ。ああ、ちょうど着いたな。」
おじさんに連れられて着いた目の前には、大きな鳥籠があった。つまり、鳥類の飼育をするのだろうか?
「あれ?おじさん、この鳥籠、何もいないけど?」
「ああ、今は動物園の裏のビルにいるんだ。ちょうど伝助の後ろに見えるだろ?あの高いビルだよ。行ってみようか。」
そう言うとおじさんは、ビルに向かって歩きだした。
中に入ると、動物の独特の臭いがした。
「臭いだろ?まあ、慣れるまでの辛抱だ。ハハハッ。」
おじさんはまた笑って奥へ進み、エレベーターを起動させた。
エレベーターで着いた階の奥には縦に伸びた円柱の水槽があった。中に変な色の液体と・・・なんだろう? 何かが入っている。
「この液体には身体を治療してくれる効果があるんだ。・・・この子は、発見されてすぐにあの動物園に引き取られたんだ。美しい翼があるのが売りなんだが、なかなか翼を広げなくてねぇ。だから、お客から小石やゴミを投げられて傷ついているんだ。そのせいで、翼に血がついて固まって広げられなくなってるんだ。・・・・・ああ、そうだ。名前を言ってなかったね。この子の名前はレイズ。自分からそう言っていた。」
自分から?オウムかインコ?それとも九官鳥だろうか?
「水槽の正面から見た方がいいだろう。こっちへ来なさい。」
おじさんに言われて、僕は正面から水槽を見た。
「これ!!・・・人間じゃないか!!」
白い服を身に纏った女の子が僕の目の前の水槽の中にいた。けれど、おじさんの言った通り、翼と尾が生えていた。女の子は目を瞑っているので僕のことは見えていないようだ。
「翼の生えてる人間なんて聞いたことないが?・・・まあ、鳥人とでも言っておこうか。治療が終わるまで伝助はここで椅子にでも座って見ているといい。」
おじさんが椅子を持ってきてくれた。僕は椅子に腰掛け、じっと水槽の中の女の子をみていた。
僕は、あれから何時間ここに座っていたんだろう? 朝の10時からここに来て、もう日が紅く染まっている。
じっと、この子を見ていて気付いたことがある。この子、悲しそうな顔をしている気がする。・・・・ここから出たいんじゃないだろうか。僕にはそう思えて堪らない。
「・・・・・。」
女の子は、ずっと目を瞑ったままだ。液体の中じゃ目を開けられないのかな?
にしても、この子、本当に悲しそうだ。少し出してあげようかな・・・。えっと・・・このスイッチを押せばいいのかな?
ピッ
プシュウゥ・・・・
伝助が右端のスイッチを押すと、中の液体がみるみる抜けていった。
「んじゃ、次はこのスイッチかな?」
ピッ
ピーピーピー!!
カシュン・・・
伝助は右から二番目のスイッチを押した。と同時にアラーム音が鳴り響き、水槽のハッチが開き、女の子が倒れて出てきた。意識を失っているらしい。僕は、跪いて女の子を抱き寄せて息を確認した。液体の中に入っていたのに、ちゃんと呼吸をしている。不思議だ・・・。
「伝助!!何やっているんだ!!!」
おじさんがすごい剣幕で警備員と一緒に部屋に入ってきた。おじさんのこんな恐い顔は初めてだ。
「その子から速やかに離れなさい。」
僕は、警備員の睨みつけてくる視線が恐くかった。警備員がこっちに向かってくる。僕は、跪きながら後ろに下がった。女の子を抱き寄せていることも忘れて・・・。
「君、さっさとこっちに来なさい!」
警備員はどんどん近づいてくる。その分、僕もどんどん後ろに下がった。
「伝助!それ以上下がったら・・・!!」
ドンッ
ガシャアァァァァ・・・・ン
あれ?
伝助は、勢いよく下がりすぎて窓ガラスを割ってしまった。
やばい!!落ちる!!ここから落ちたらどんだけ痛いだろう?その前に死ぬか・・・。
伝助の頭の中はだんだん真っ白になってきた。
「・・・・・。」
落ちているのに女の子は一向に目を覚まさない。
どんどん落ちていく。あと少しで地面に叩きつけられそうだ。
パチ・・・
メキッ!!メキメキメキッ・・・ バサッ!!!
地面に叩きつけられる直前だった。女の子が目を開け、翼を広げた。それは、それは、心うたれるくらい美しい翼だった。
To be continued






