無線05
ちょうどその頃、冷杏は1人玉露を探し、苔蒸した岸壁を歩いていた。
「それにしても、なんだかやけに薄気味の悪い場所に来てしまったな。青梅殿にはああ言ってしまったものの、やはり青梅殿の加勢も必要とするべきだったか……」
そんなことを思っていた冷杏だったが、一旦自分の気持ちを正した。
「いや、私は一流だ。無駄な加勢など必要としていない。ここまで来たからには、当たって砕けるのみである」
どろりと液体化した生ぬるい空気が、冷杏の未来を暗示しているようだった。
ふと足元に目線を落とすと、そこになにかの生物の足跡が残されていることに気づいた。
「おや、この足跡は……」
昔から不思議なものに惹きつけられやすい冷杏は、それを発見して早くもその奇怪なものの後を追ってしまっていた。
進む先は、岩壁を辿ったその向こうまで続いていた。どんどん向こうへ、どんどん先へ。気づけばこのときもう既に、冷杏は罠に掛かってしまっていたのだが。この時の冷杏は目前の未来さえ見えていなかった。それこそが罠だったのかもしれない。
「ん……? 洞窟か」
そう。行きついたところは暗い洞窟だった。暗い、暗い洞窟。
「足跡は、確かにこの穴の中に続いているのだな」
冷杏にはもう、今しか見えていなかった。足が真っ直ぐ洞窟のほうを向く。目は真っ直ぐ暗闇を見据えている。しかし、その瞳の中には光が確かに存在していた。
「…………行くか」
もう、戻れない。
後戻りはできないんだ。
つづきます。