無線04
side:酒井囲雄
「――――オレ、ピンチかもー……?」
こりゃあ参ったな……。相棒がいなけりゃ、いくらオレでも太刀打ち出来ない。
「でも、落としたとなれば、結構大変なことになるぞ……」
オレの相棒『竹壱』は、簡単に説明すると筆である。一般的な。まあ、サイズは意外と大きめだったりするのだが。
そして重要なのが、オレの唯一の武器であるということだ。これがなけりゃ、オレは一般人となんら変わりのない人間になってしまう。……と言っても過言ではない。
「竹壱ーもどってこいやー。ご主人様が悲しんどるぞー」
頼むからさ、早いとこ見つかんねぇかな。
オレが下を向いて低空飛行していた、まさにその時だった。
ドガガッガガガガガアッガガガアガガガガッガガアガッガガガガ!!
けたたましい轟音が、いつの間にか鼠色に変わり果てた空に響き渡った。暗く鈍い耳鳴りが長く続いていた……。
??「よォ……囲雄」
軽快な足取りで、地上を歩いてくる1人の人間。
??「囲雄ー? シカトしても無駄だぜェ」
どんどんオレに近づいてくる。
??「オマエ、俺に会ったらソッコー挑んでくるじゃねェか」
そいつが地面から足を浮かせた。
??「今日はやけにおとなしいな。怖気づいたのかァ?」
どんどんオレに近づいてくる。
??「あーー。それともなんだ、なんか理由があって攻撃してこないのか。理由を考えてやるよ。例えばそうだなァ」
やめろ。来ないでくれ。お願いだ……オレは今――――。
「大事な戦闘道具を、落っことしちまった。――――とかなァ!」
ブシュォアアアアア!!!!!!
「うおァァアアアアアッ!!!!!!」
紺碧の瞳、翠色の毛髪……オレの腹に突き刺さるエグい痛み。
突き刺さっているのはオレの竹壱であった。一瞬のことで、それがホンモノであるのかさえ理解することができない。
しかし、こいつは紛れもなく、SKKDC所属の玉露という人物だ。
「……ぎ、玉露…………」
ガッッ!!
「あァアン? なんだ、てめェ。格上に向かって、よくそんな口の聞きかたができるな。そんなことじゃあ、お前を守護者として雇っているあの女なんかチョロいもんだぜ」
「お譲を悪く言うな!! お譲は、お譲は……」
「っせェなァ……口ふさいだるか? あ?」
「何とでもいえ! オレは青梅モノの守護者だ」
「はぁ。呆れた。こんなに忠誠心のある奴だったとはな。まあそんなことはどうでもいい」
「どうでもいいだと!?」
「だーかーらー。いちいちやかましいんだよ、テメェは。テメェのことは今回は見逃してやってもいいぜ。その代わり、その女を連れて来い」
「……は。何言ってんだ」
「耳クソ溜まってんじゃねェのかテメェ。よく聞け。その女を連れてこいっつってんだよ」
「お譲をか?」
「そうだと聞こえなかったか?」
「無理だ」
「なぜだ。言い逃れはできねェぜ? 無理ならこの場で叩っ斬らせてもらう」
「なぜならな、お譲は今、負傷……あっ」
「ん、なんだって。負傷??」
「なんでもない」
「いやァ、俺はちょいと聴覚がすぐれているもんでね。確かに聞いたぜ」
「(しまった……)」
「さぁて、それさえ知れればもうテメェに用はない」
ドガガガガガガガガガガガアガアガガガガアガッガガッガガガガガ!!
「じゃあな」
「待てよ! オイッ!!」
時すでに遅し。銃声の音が聞こえなくなった頃、玉露はもうどこにも見当たらなかった。
「やべェぞ……これは大失態だ。お譲に連絡を――――」
「…………」
「……」
「おや、無線が……」
「ない。(笑)」
これはマジで神頼みしか道はなさそうだ。
つづきます。