無線03
side:酒井囲雄
それにしても、〆離には手を焼くもんだ。なぜそうにもオレに反抗してくる!? もしかして、これは反抗期特有の……。
※盛大な思い違い
とにかく、だ。お譲のあのキズを見る限り、冷杏も隅にはおけん。お譲と冷杏は確か仲が良かったはずなのだが……。不思議なこともあるものだ。まあ、どちらも任務のためなら少しくらいの負傷は構わないといったところか。勇ましいぜ。
「っと。地響きがするな。ヤツの近くにきているようだ。もう少し上空を飛んで様子をみるとしよう」
オレはアスファルトを強く蹴りあげて、浮遊した。時刻は、夕刻。茜の空には桃色のわたがしと、塩もみされた細い昆布が浮かんでいた。
「腹減ったなぁ。今日もカップラーメンかよ」
まあ、1人暮らしだしな。いくら芸能界に君臨しているからといって、ほとんどは一般の人間と変わった暮らしはしていないし。応援してくれるのは素直に嬉しいけれども、サインとか写真撮影とかはまだ良いほうだとして、「これからも頑張ってくださいね! 私、次のCDも予約します!」って言ってくるお嬢ちゃんにはカナリ萎えるね。オレの本職はタレント。シンガーソングライターは副職。ちなみに、今やってるこのお仕事は……シークレット。公にしても、ファンがついてきて色々仕事に支障が出そうだし。黙っていたほうが安全だと思うんだ。オレは。
「……それとも、もっと旨ぇモン喰うか」
なんてな。やべぇやべぇ、オレん中の腹黒い物体が見え隠れしちまってる。まだ本性はあらわせん。
「とは言ってもなぁ、さっさとカタつけたいし」
「……」
「…………」
「………………」
「よし、赴くか」
オレに不可能なんて言葉はない。
「…………」
「ありゃ??」
「…………」
「おっかしーなー」
「…………」
「着流しに装備してたはずなんだけど」
「…………」
「…………」
ない(笑)
ない(笑)
なーいっ(笑)
オレの相棒、『竹壱』が
見当たらない。
「――――オレ、ピンチかもー……?」
つづきます。