心当たりはないのに
月に一度の生徒総会。
猫を被った冴島が、少しずつ近づいてきている文化祭について話している。
屋上では空気を共有しているのに、今は違う。遠い。
最近の私は少しおかしい。情緒不安定ってやつみたい。……秋だからかな。
さわやかに話をする冴島が、一瞬だけこっちを見たような気がした。
*
「ねえ、テーブルクロスはどうする?」
「んー……こう、なんていうか……落ち着いた感じのやつかな」
文化祭まであと一ヶ月ぐらい。その前にはテストもあるのに、教室の中はもうすっかりお祭りモードだ。
体育祭はほったらかしだけど。
「こっちの作業、あと二人ぐらい手伝ってー!」
委員長と文化委員、それと普段からクラスを仕切っている人たちが中心で、かなりこだわって準備を進めている。
やっぱりついていけない。先生にもあきれられるほどのこのテンションには。
一人で鎖を作る。家でも暇があればやっているせいか、もう大分長い。このぶんだと、結構早く解放されそうだ。
持ってきている大きい紙袋の3つ目がもう一杯になってしまった。
少し、嬉しくなった。
「杉田さん」
来た。クラスの仕切り役、木本さん。
「何?」
名前を呼ばれたら、返事をしないわけにはいかない。
「鎖、どれくらいできた?」
相変わらず嘘っぽい笑顔。それから思っていたとおりの質問。
「んー、もうちょっとで足りるかな」
絶対足りる。毎日こつこつ作ってきたんだから。
「……鎖はね、余分に作っておいて欲しいの」
この人は意地が悪い。まわりくどい言い方ばっかりしてないで、はっきり言えばいいのに。
『ぎりぎりまで作れ。もちろん一人で』って。
それにしても、ここまで嫌われるようなことをした覚えはない。疑問だ。
「うん、じゃあ作っておく」
変に突っかかると後に何をされるかわからない。
ため息は我慢だ。今だけ。
*
今日が終わった。
残っていてもすることがないから、鎖のできたぶんはロッカーに入れてさっさと帰ることにする。もちろん、文化祭の準備で残る人もいるけど……気が早すぎると思う。
「むかつくのよね」
歩いていると後ろから聞こえてくる、たぶん誰かの悪口。
「何であんなに、いるだけでむかつくんだろ」
木本さんの声だ。男子の前では決してださない地の声。
「杉田さんでしょー?」
誰かが私の名前を出した。わかりきってる。
「当たり前じゃない」
振り向いたらダメだ。さっさと帰ろう。
靴箱に入れてあった靴の中に、けしカスがたくさん入れられていた。




