きっと気のせいだと思う
昼休み。
屋上の扉を思い切り開けた。
手には大量の千代紙、それからはさみとノリと紙袋。
『これでよろしくね』
いつの間に買ったのか、木本さんに渡されたカラフルな千代紙。
押し付けられてしまって、断ることもできなかった。
グループを引き連れてこっちへきたときの、あの勝ち誇ったような顔が思い浮かんだ。
はっきり言って、嫌いだ。木本さんたちは。たぶん向こうも同じだと思うけど。
「……もう。何なのよ」
ためいきをついた。幸せが逃げていきそうなぐらい。
「牛」
相変わらずいる、生徒会長。もとはといえばこいつのせいだ。
……手に持った物が、妙に重くて、もう一度ためいきをついた。
余裕の表情で本を読んでいる冴島を睨みながら、定位置になりつつある隅っこに腰を下ろした。
千代紙を何枚か取り出して、はさみで8本に切っていく。
単純な作業。切って輪にして繋いでいく。
静かな屋上。
ゆっくりと流れる時間。
手を動かしながら冴島の方を向くと、奴はブックカバーつきの分厚い本を読んでいた。題名も内容も知らないけれど、難しいに違いない。
そういうのが嫌味なほど似合うんだから。
私が奴を見ていても、奴は私の方を見ない。
…………一瞬馬鹿な考えが浮かんできて、あわてて目を手元に戻す。
きっと木本さんたちのせいで、気持ちが暗くなってるんだ。
はさみを握る手に力を込めた。
*
お腹が鳴った。
昼休み終了10分前。
ひたすら動かしていた手を止めて考えてみる。そういえばお昼ご飯を食べていなかった。
木本さんに渡された千代紙にある意味夢中で、屋上に弁当を持ってくることすら忘れていた。
馬鹿みたい。
別に食べなくても、たぶん平気だとはおもうけれど。『授業中に腹が鳴る」っていうのはちょっといただけない。
結構長くできた鎖と、切った千代紙を丁寧に紙袋に入れて、当たらないようにはさみとのり、袋に入ったままの千代紙も入れる。それから、屋上を出た。
冴島は一度もこっちを見なかった。
少しだけ、悲しくなった。




