別にかまわないけれど
9月はお祭り騒ぎ。
まだ夏休み気分が抜けていないうちから、10月の体育祭や11月の文化祭についての話し合いが始まるから。
うっとうしいほどツクツクホーシが鳴いているのが聞こえるこの教室も例外じゃない。
「では、文化祭のクラスの出し物について決めたいと思います」
6時間目のロングホームルーム。
前に立ったクラス委員長の仕切る姿を、頬杖をついてぼーっと眺める。
「何か意見は?」
クラスにもそれぞれ特徴があると思う。静かだとか、うるさいとか、白けているとか。うちのクラスはあれ。『お祭り大好き』なクラス。
「喫茶店!」
「コスプレとか」
「えー!」
テスト前はものすごくテンションが低いのに、こういうときはハイテンションだ。笑っちゃうくらいに。
そもそも、まだ文化祭まで2ヶ月もあるのに、どうしてもう話し合ってるんだろう。一人、このお祭り雰囲気に乗り切れないままで思う。
「喫茶店じゃ優勝できないよ!もっとインパクトのあるやつにしないと」
優勝。という言葉で思い出した。今年は、生徒投票や一般投票で1位に選ばれたクラスには賞品として『無料で打ち上げできる権』が与えられるんだ。
うちの学校の文化祭での売り上げは、全部寄付されることになっている。だから、売り上げ分で打ち上げっていうことができない。そのことは前々から不評だった。
今年の賞品は、そんな彼らを喜ばせるものらしい。無料で打ち上げができて、しかもその店は『エクラン』っていう大人気のところ。あそこの料理は確かにおいしかった。
それを狙っているのなら、この盛り上がりも納得できるかもしれない。
決めたのが、生徒会長冴島健史ってのは気に入らないけれど。……こうやって人気取りをしているんだな……。
とりあえず私は、教室の騒がしさの輪から抜けて外を眺めていることにした。
*
「じゃあ、『和風喫茶』でいいですか」
チャイムがなる寸前に、出し物と各担当が決まった。
結局喫茶店になったみたい。よくわからない。
「杉田さん」
終わったから帰ろうと、席をたったところで呼び止められた。
振り向いた。木本さんグループの3人。
「何?」
早く帰りたい。できれば木本さんにはかかわらずに。
そんな願い空しく、木本さんが口を開いた。
「あのね、飾りつけのことなんだけど、折り紙で鎖を作ろうと思うの」
そういえば私の担当は飾りつけ組だった。
「うん……?」
鎖がどうした。
「でね、その鎖を、杉田さんに作って欲しいんだけど……」
木本さんの左側に立っていた木崎さん……? が言った。
「え、一人で?」
いくらなんでもそれはないよね。
「ごめん……一人でなんだけど……」
木本さんの、気を使っているような笑顔ほど信用できないものはない。
……もしかして、新手のいじめ?
別に鎖を作るのはいい。はさみとノリと折り紙さえあればできるし。何より、誰かと協力しなくてもいいし。
でも、一人って何なの。教室を飾るのに必要な長さが、一体どれくらいあるのか知らないのだろうか。
「一人はちょっと無理だと思うんだけど」
普通に考えたらわかるでしょ。
「うん、でも他の子はやることあるんだよね」
あくまでも下手に、でも譲らない木本さんグループ。
……だから女子のグループって嫌い……。
ばれないようにこっそりため息をついた。




