赤い空に浮かぶのは白い雲
思い切り、涙まで流して心の底から笑ったら、何だかすごくすっきりした。
今まで引きずってた気持ちは何だったんだろう。馬鹿馬鹿しいって、このことだ。
「病院行ったら?」
やっと笑いが収まったとき、冴島がぼそっと呟いた。
「余計なお世話よ!」
たまにはいいのよ、たまには。
『生徒会長、冴島。今すぐ職員室まで』
「呼び出されてるよ。猫かぶり生徒会長君」
私の精一杯の嫌味を、奴は軽くかわして屋上を出て行った。やっぱり、むかつく。
屋上に、一人残った私。六月の空気は気持ち悪いけれど、それも今は気にしない。
「たまには、いいか」
5時間目はさぼることにした。
とりあえず今は、生ぬるい風に身を任せてみるのもいいと思うし。
「暑い……」
辛うじてあった日陰に入っても、やっぱり暑かったけど。
*
「失礼しました」
よりによってさぼった授業が、厳しいので有名な佐藤の数学だったなんて。
7時間目のあと、職員室に呼ばれて怒られた。延々30分続いた説教は、何を言いたかったのかさっぱり不明。
だって最後のほうは「最近の若者は」って話だったしね。
時計を見ると、5時。教室まで鞄を取りに行って靴を履き替えて外に出ると、もう夕方のはずなのに暑い。まだ空は青くて、ああ夏だなって思う。
校庭の方からも体育館の方からも、青春の声が聞こえてきた。
鞄を右手から左手に持ち替えて校門を出た。
いつもとちょっと違う道に入ると、『美容院 アバランシュ』なんていう変な名前の美容院を見つけた。そこで思い出す。
「失恋したら髪を切るとか、よく言うよね」
そんな言葉にのったわけじゃない。ただ、暑苦しいから切ってもいいかな、って思っただけ。
髪型は、美容師さんにお任せ。
*
「だからってこんな短く……」
お金を払って外に出て、思わずつぶやいてしまった。何度触ってもショートカット。今まで肩より長かったのが嘘みたい。
『こんな感じでよろしいでしょうか』って聞かれて、いいえ、なんて答えられるはずもなく。ショートカットにしたのは、たぶん小学生のとき以来。妙に頭が軽くて、すごく変な感じ。頭を洗うのが楽そうなのはいいけれど。
ふと見上げると、ようやく赤く染まり始めた空。今夜も雨は降らなさそう。梅雨のはずなのに、雨が少ない。この分だと、明日も晴れそうだ。
まだ慣れない髪を触って、雲の流れにそってゆっくりと、家に向かって歩き始めた。
<シリーズ1 あかいそらのしろいくも 完>




