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青空同盟  作者: 紅和
めいろのでぐち
44/53

この雨が止むまで



 大きな雨粒が、いくつか軒先を離れて落ちた。


「つめたっ」


 そのうちの一つがちょうどつむじに当たって、予想外の刺激にびっくりする。

 それをきっかけに上を見て、ドアをゆっくりと閉めた。



 よりによって今日、このタイミングで雨が降ってくるなんてついてない。

 ドアノブを握ったまま、自然とこぼれるため息。

 薄暗い場所に、かすかな雨音が入り込んでくる。そのせいで、何だか余計に気分が沈む。

 鍵穴にさしていた鍵をさっきとは逆に回して引き抜く。意味なく軽く上に放り投げてキャッチして、ポケットへと戻した。


 たかが過去問題、されど過去問題。


 昨日のショックがまだ、いやになるくらい鮮明に残っている。一番行きたい大学の赤本で、ほとんどできなかったこと。入試まではあと2週間も無いのに、ってあせる。

 そういえば、いつか誰か先生が言っていた。普段ポジティブな人が、大学入試になるとネガティブになる。それくらいこれはつらいことなんだ、って。

 そのときはまじめに聞いてなんていなかったけれど、実際近づいてきてからわかった。落ちたらどうしようっていう不安だけじゃなく、私だけ決まらなかったら惨めだから嫌だなって気持ち。変なプライド。……マイナスな気持ちがほとんどで、怖くなる。

 ただ、自分が興味あることを好きな大学で勉強したいだけなのに、どうしてこんなにつらいんだろう。


 扉に背を向けて、足を踏み出した。かかとが床に着くその瞬間だけ、雨の音が消える。

 ……冬の雨は嫌い。冷たくて、鋭くて、何だか泣きたくなるから。







 今日で、高校での授業が全部終わった。っていっても、入試組はまだ補講があるから、あと3日は学校に来るんだけど。

 それでも、何となく解放的な気分。


「また明日ー」


 だからなのか、教室から出るときの掛け声も、明るい。素子も私と同じく入試組なのに。




 まだ止まない雨が、しとしとと地面を濡らしている。

 しばらく前からカバンに入れっぱなしの折り畳み傘を取り出した。きっとカバンなんかは濡れてしまうだろうけど、仕方ない。灰色で塗りつぶされている空はいつ見たって重いけれど、今日は格別。さっきまでの解放感がなりを潜めて、閉塞感が飛び出してきた。

 せめてもの救いは、明るい色の折り畳み傘。普段はあんまり好きじゃない色が、今日だけは好きになる。


「変なの……」


 人間の心理って、複雑。







 それなりに賑やかな駅前まで来たとき、雨足は大分弱まっていた。

 ここで傘をさしていない人は、よっぽどのめんどくさがりやか忘れた人だな、なんて考えながら歩いていると、不意に綺麗な青が目に入ってきた。

 くすんだ色の中の青い傘。もちろん、ピンクや黄色なんかのをさして歩いている人だっているけれど、その青はどれにも負けないくらい鮮やかだった。


「…………冴島?」


 ちらちらと青からのぞく人影が、屋上で見る奴と似ている。今までこんなところで見かけたことなんてなかったから確信は持てないけれど、見れば見るほどそう思えてくる。何だろう、立ち姿?




 ……だからって、別にどうってことはない。




 冷えた右手を左手と交代させて、コートのポケットに突っ込んだ。


 合間に見上げた空からは、もう微かな粒しか降って来ない。



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