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青空同盟  作者: 紅和
うしろのしょうめん
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本音は心の中でだけ


 焼きそばパンの最後の一口を噛み砕きながら、ちらりと視線を二人に向けた。屈託の無い笑みを浮かべてひたすら喋り続ける会長と、わずかに、たぶん私にしかわからないくらい引きつった笑みの冴島。

 口の中に辛うじて残っている欠片を飲み込んでしまったら、私もそっちへ行かなきゃいけない。それが嫌で、いつもの数倍噛んでみたりはするけれど、それにも限界がある。


「先輩、まだですかあ?」


 ほら来た。思わず飲み込んでしまった救いの一口。ごまかすようにお茶を飲んでから、テレパシーなんてできないけれど何となく冴島を見た。


「……今行く」


 去年の生徒会長、つまり奴は、あくまでも私以外の人に対してはっていう限定つきで、優しくて紳士的だったらしい。

 で、今年の、名前はやっぱり覚えていない会長は、人懐っこそうな笑顔と社交性でみんなの人気を得ているらしい。



 どっちにしろ、厄介なことに変わりはない。巻き込まれたこっちはいい迷惑なんだから。なんて、ぼやいてみても仕方ないんだけど。



 ちなみに、この前まで一緒に来ていた他の子たちは、今日はいない。文化祭の準備で大忙しらしい。忙しいくせに、何で会長はこんなところに来ているのかって思う。もしかして、彼だけ暇人、とか?




 考えてみても無駄だ。重い腰をあげた。

 大した中味も無い話に付き合わされるのはうんざりだけれど、呼び出しもチャイムもないんだから諦めるしかないみたい。


「先輩、ここにどうぞ」


 勧められたのは、いつもとは違うコンクリートの上。そこに座ると、景色が違って見えた。

 適当に相槌を打ちながら、もたれるものがないのは心もとないな、なんて思った。


「ね、そう思いません?」


「……あ、うん。そうだね」




 ふと漂ってきたのは甘い匂い。それがやけに鼻についた。







『生徒会長、生徒会長。今すぐ生徒会室に戻ってきてください!』



 昼休みが終わることを知らせる予鈴がなるまで、あと5分。ひどく慌てた声がスピーカーから流れてきた。

 いい加減ぐったりしてきたところへの救い。思わず口元が緩んだのは、会長がしつこく話し続けている内容がおもしろかったからじゃない。


「早く行ったほうがいいんじゃないか?」


 逃げの態勢に入っていた冴島が外面で穏やかにせかすと、会長はようやく立ち上がってへらっと笑った。


「じゃあ、また」


 心の中では『二度と来るな』って思っていたりするんだけど、それを口に出すのは堪えて、ただ手を振るだけにした。




 固い音を立てて扉が閉まった。やっと戻ってきた静けさに、思わず大きく息を吐き出した。




「やっと静かになったな」


「うん、そうね」




 いつもの場所に座りなおした。

 長く感じた昼休みは、もうすぐ終わる。次の授業は、遅刻にうるさい先生だ。


 ぎりぎりまでここにいよう。


 妙な決意をして、私も本を開いた。



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