見たくて見たわけじゃない
「暑い!」
最高気温30度っていうのは、この時季にしては熱すぎる。おまけに昨日の夜中から朝まで降った雨のせいで湿度も高い。
「じゃあ、来るなよ」
呼んでいる本から顔をあげずに、冴島は言った。
なぜか私は今日も屋上に来ている。
失恋話をしに来たわけじゃ、もちろんない。ただ、屋上で食べるお弁当がおいしいから来ただけ。まさか性悪生徒会長がいるなんて思ってなかった。
「いいじゃない、別に。あんたの所有地じゃないでしょ」
「鍵あけてるのは俺だけど」
また、冴島が言った。本から顔をあげずに。
「何でそんなに人の神経逆なでするのよ」
「何でそんなにつっかかってくるのよ」
むかつく。
でも一つ不思議なのは、こいつ相手だとはっきり言えること。
喋ったのは昨日が初めてなんだけど。
相変わらず本を呼んでいる冴島がこっちを向く気配はない。
私が何も言わなければ、冴島も何も言わない。
「邪魔?」
私のその言葉に、冴島は心底意外そうな顔をして、こっちを見た。
「へえ……そんなこと考えるんだ?」
「考えるわよ!」
答えた……叫んだ私に、奴は更にむかつく笑みを浮かべた。
「自己中に生きてそうなのに」
「あんたと一緒にしないで!」
そのとたん噴出す冴島を横目で睨んで、中庭のほうに向き直る。
できるだけ下を見ないように、空を見上げた。
後ろの性悪男は、まだ笑っている。
*
放課後の教室、誰もいない。4時38分。
部活に励む人たちは、今頃はもう練習を始めているだろうし、帰宅組は帰ったはず。
一つ息をついてから、お世辞にも重いとはいえない鞄を手に立ち上がる。
あの日からの習慣。
一応電気は消して、窓の鍵も閉めて廊下に出る。やっぱりむし暑い天気に思わずため息をついて、のろのろと歩いた。
教室から下駄箱に行くには、職員室の前を通る。他の道もあるけれど、何となくいつもこの道。
「最悪だったねー」
「ほんとだよ。ついてねえ……」
普通に、ただ普通にいつもどおり通っただけなのに。時間まで遅らせているのに。なぜこの声が聞こえるんだろう。
最悪なのは……ついてないのはこっちだよ……
空を見ながら帰ったのは、雲の流れが綺麗だったから……じゃない。




