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青空同盟  作者: 紅和
あかいそらのしろいくも
4/53

見たくて見たわけじゃない

「暑い!」


 最高気温30度っていうのは、この時季にしては熱すぎる。おまけに昨日の夜中から朝まで降った雨のせいで湿度も高い。


「じゃあ、来るなよ」


 呼んでいる本から顔をあげずに、冴島は言った。



 なぜか私は今日も屋上に来ている。

 失恋話をしに来たわけじゃ、もちろんない。ただ、屋上で食べるお弁当がおいしいから来ただけ。まさか性悪生徒会長がいるなんて思ってなかった。


「いいじゃない、別に。あんたの所有地じゃないでしょ」


「鍵あけてるのは俺だけど」


 また、冴島が言った。本から顔をあげずに。


「何でそんなに人の神経逆なでするのよ」


「何でそんなにつっかかってくるのよ」


 むかつく。

 でも一つ不思議なのは、こいつ相手だとはっきり言えること。


 喋ったのは昨日が初めてなんだけど。




 相変わらず本を呼んでいる冴島がこっちを向く気配はない。

 私が何も言わなければ、冴島も何も言わない。


「邪魔?」


 私のその言葉に、冴島は心底意外そうな顔をして、こっちを見た。


「へえ……そんなこと考えるんだ?」


「考えるわよ!」


 答えた……叫んだ私に、奴は更にむかつく笑みを浮かべた。


「自己中に生きてそうなのに」


「あんたと一緒にしないで!」


 そのとたん噴出す冴島を横目で睨んで、中庭のほうに向き直る。

 できるだけ下を見ないように、空を見上げた。


 後ろの性悪男は、まだ笑っている。







 放課後の教室、誰もいない。4時38分。

 部活に励む人たちは、今頃はもう練習を始めているだろうし、帰宅組は帰ったはず。

 一つ息をついてから、お世辞にも重いとはいえない鞄を手に立ち上がる。


 あの日からの習慣。



 一応電気は消して、窓の鍵も閉めて廊下に出る。やっぱりむし暑い天気に思わずため息をついて、のろのろと歩いた。

 教室から下駄箱に行くには、職員室の前を通る。他の道もあるけれど、何となくいつもこの道。


「最悪だったねー」


「ほんとだよ。ついてねえ……」


 普通に、ただ普通にいつもどおり通っただけなのに。時間まで遅らせているのに。なぜこの声が聞こえるんだろう。



 最悪なのは……ついてないのはこっちだよ……





 空を見ながら帰ったのは、雲の流れが綺麗だったから……じゃない。

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