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青空同盟  作者: 紅和
うしろのしょうめん
39/53

曇り空のゆううつ



 空を覆いつくしている雲のように重い空気が支配する教室で、私はほっと息をはいた。

 テストが終わった後の、テスト返し。名前を呼ばれて白い紙を受け取るたびに、みんな顔が変わる。近くの友達と見せ合いっこをしたり、はしゃいだり……。

 だけど、そんなことはそのときだけ。ひと段落して席につくと、そこからは誰も喋ったりしない。時々、小さく話し声が聞こえるくらいだ。


 よく言えば、引き締まっている。悪く言えば、ぴりぴりしている。


 推薦組がちらほら合格し始めた、っていうのが大きいんだと思う。発表があった日以来、普段はそうでもないんだけど、ふとしたときに目につく推薦組の楽しそうな顔。模試なんかがあると、一目瞭然。まだ決まっていない人は直前まで単語帳を開いていたりするのに、決まったほうは平気で休んだりするんだから。

 今もそう。はやばやと答案用紙をしまって、本を読んだり携帯をいじったりしている。正直言って、やっぱり気分がいいもんじゃない。


 ……なんて、観察する余裕があるような私に言えたことじゃないかもしれない。

 この間の模試の自己採点がよかったからなのか、はたまた今回のテストで割といい点を取れたからなのか……。油断や慢心は禁物だっていうけれど、ぴりぴりしているよりは、余裕があったほうがいい、とは思う。


 間違ったところに、赤ペンで大きく正答を書く。次は同じところで躓かないように。




 閉鎖された空間から見る秋空は、いつもなら自由の象徴かのように広い。

 今日はダメ。よりによってこんなときに曇らなくてもいいのに。……どうしようもないのに、不満。




 赤ペンをおいて、首をまわした。骨を鳴らすのはよくないってわかっているけど、やっぱり気持ちがいい。




 うっとうしい温度と湿度の中、お腹の音だけは鳴らしたくないと思った。







「あ、何だ、いたの」


「ああ、来たのか」


 明かりのついていた生徒会室前を、さっさと駆け抜けて屋上の鍵をあけた。

 冴島は来てないのか、なんて思っていたら、奴はちゃっかり中にいた。

 ……それで気づいたことだけど、屋上の錆びた扉は、中にも鍵があるらしい。


「何で鍵しめてたのよ」


 パンを口に入れる奴のそばに私も座った。そろそろコンクリートが冷たいけど、まだ心地いいと感じるくらい。

 今日は私もパンの昼ごはん。母は見事に寝坊した。


「あいつら、入って来れないだろ?」


「……なるほどね」


 あいつら、っていうのは言うまでもなく生徒会のメンバー。やっぱり、冴島もうっとうしく思っているみたいで、彼らが顔を出すと嫌そうな顔をする。もちろん、肝心の本人達は気づいていない。

 嫌になるのは、私も同感。これだけは、冴島と合う。




「なあ、そういえば、鍵は?」


「……何が?」


 意外においしいコンビニの焼きそばパンにかぶりつく私を、奴は呆れたように見た。いつもの、むかつく表情。


「何なのよ?」


「鍵、閉めてきたか?」


 あ、そういえば、忘れていた。閉めた覚えなんて、これっぽっちもない。

 目でせかされて、むっとしながらも立ち上がる。冴島はむかつくけど、あの子たちと同じ時間を過ごすよりはまだマシだ。たぶん。




 一足こっちが遅かった。




「あ」


「こんにちはー」


……奴の舌打ちは、私にだけ聞こえた。



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