苦手で嫌いなもの
ありえないにぎやかさに、思わず扉を開ける手を止めた。ここは屋上への入り口のはずで、私の記憶が正しければ立ち入り禁止の場所だ。鍵を持っているのは、奴と私だけ。
それなのに、どうしてこんなにうるさいんだろう。
……とりあえずそっと隙間から覗いてみた。見えた人影のうち、一人は冴島で残りはしらない人たち。
何なのよ一体。
教室に戻ろうかと考えて、だけどそれはすぐに打ち消した。だって、今日はなぜか朝からみんな殺気だっていて、とても居心地がいいとは言えないから。
かといって、屋上に行くのも何となく気が進まない。もともとうるさいのは苦手だし、そもそも静かな雰囲気が好きだから屋上に来ているのに。
「どうしよう……」
唯一といっていい居場所に入れないなんて、ついてない。
中庭にも人はあまりいないけど、あそこは好きじゃないし、他にいい場所なんて思い浮かばないし。
ひとまず、扉は閉めることにした。だけどその瞬間、反対側から私より強い力がかかって逆に扉が開いてしまった。
「何やってんだよ」
どきっとして見上げると、そこにいたのは冴島。どこか呆れたような顔をして私を見下ろしている。気づいていたらしい。
奴の肩越しに見たほかの人たちは、気にも留めていないみたいで喋り続けていたけど。
少しだけほっとして、でも念のため声をひそめた。
「何でこんなにうるさいのよ」
奴は、不機嫌そうに息を吐いた。これが本音だろうって、何となく思う。きっとあのうるさい人たちは、こんな冴島の姿を知らない。笑いそうになったのを、とりあえず我慢しておいた。
「あいつら、今の生徒会の連中なんだよ。ここに来る途中で見つかった」
屋上にたどり着くまでに、生徒会室前を必ず通り抜けなきゃいけない。どうやらそこで見つかったらしい。
ドジ、とはいえない。だって、普段は放課後しか使われていないから。文化祭の準備なんかで忙しくなったせいだ。
……だからって、むかつかないわけもなく。
「最悪」
思いっきりため息をついてやった。
*
で、なぜか屋上にいる私がいる。
「でさ、昨日テレビで」
「あ、私も見た見た。おもしろかったー」
正直、とてもじゃないけどついていけない。だから、いつもの場所は諦めて反対側の隅に座ってみた。あんまり意味はなかった。
冴島と話しているところを見つかって、出ざるを得なくなってしまった。その冴島はというと、彼らの騒がしさの真っ只中で本を読んでいる。たぶん、いや、絶対読めない。しょっちゅう話題をふられてるし。人のいい奴としては、無視するわけにもいかないだろう。
そういう私は昼食中。……実は、人見知りとは縁がない奴の後輩たちに誘われたんだけど、お弁当を食べたいからって辞退した。あんなハイテンションにつきあわされるなんてごめんだ。
とは言っても、その言い訳が通用するのもあと少し。箱の中に残っているのはハンバーグが1つとご飯が2口分だけ。それをできるだけゆっくり口に運んでいる状態だ。
昼休みが終わるまで、あと10分。
「……無理」
こういうときにこそ、先生に呼び出されたい。先生の話なら、ぼーっとしている間に終わるから。
彼らとならそうはいかない。……ちなみに、逃げ出すのも難しそうだ。
「杉田先輩ー、早く食べて喋りましょうよ」
これで5回目。人懐こそうな笑顔を浮かべて私を呼ぶのは、冴島によると現生徒会長らしい。名前は覚えてない。
あと8分。こっちを向く生徒会長に笑っておいた。それを見た奴が一瞬バカにしたような顔をしたから、きっと引きつっていたんだろう。
ご飯を2粒ずつ食べながら、時計の針をじっと見つめていた。




