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青空同盟  作者: 紅和
うしろのしょうめん
38/53

苦手で嫌いなもの



 ありえないにぎやかさに、思わず扉を開ける手を止めた。ここは屋上への入り口のはずで、私の記憶が正しければ立ち入り禁止の場所だ。鍵を持っているのは、奴と私だけ。

 それなのに、どうしてこんなにうるさいんだろう。

 ……とりあえずそっと隙間から覗いてみた。見えた人影のうち、一人は冴島で残りはしらない人たち。


 何なのよ一体。


 教室に戻ろうかと考えて、だけどそれはすぐに打ち消した。だって、今日はなぜか朝からみんな殺気だっていて、とても居心地がいいとは言えないから。

 かといって、屋上に行くのも何となく気が進まない。もともとうるさいのは苦手だし、そもそも静かな雰囲気が好きだから屋上に来ているのに。


「どうしよう……」


 唯一といっていい居場所に入れないなんて、ついてない。

 中庭にも人はあまりいないけど、あそこは好きじゃないし、他にいい場所なんて思い浮かばないし。



 ひとまず、扉は閉めることにした。だけどその瞬間、反対側から私より強い力がかかって逆に扉が開いてしまった。


「何やってんだよ」


 どきっとして見上げると、そこにいたのは冴島。どこか呆れたような顔をして私を見下ろしている。気づいていたらしい。

 奴の肩越しに見たほかの人たちは、気にも留めていないみたいで喋り続けていたけど。

 少しだけほっとして、でも念のため声をひそめた。


「何でこんなにうるさいのよ」


 奴は、不機嫌そうに息を吐いた。これが本音だろうって、何となく思う。きっとあのうるさい人たちは、こんな冴島の姿を知らない。笑いそうになったのを、とりあえず我慢しておいた。


「あいつら、今の生徒会の連中なんだよ。ここに来る途中で見つかった」


 屋上にたどり着くまでに、生徒会室前を必ず通り抜けなきゃいけない。どうやらそこで見つかったらしい。

 ドジ、とはいえない。だって、普段は放課後しか使われていないから。文化祭の準備なんかで忙しくなったせいだ。

 ……だからって、むかつかないわけもなく。


「最悪」


 思いっきりため息をついてやった。







 で、なぜか屋上にいる私がいる。


「でさ、昨日テレビで」


「あ、私も見た見た。おもしろかったー」


 正直、とてもじゃないけどついていけない。だから、いつもの場所は諦めて反対側の隅に座ってみた。あんまり意味はなかった。


 冴島と話しているところを見つかって、出ざるを得なくなってしまった。その冴島はというと、彼らの騒がしさの真っ只中で本を読んでいる。たぶん、いや、絶対読めない。しょっちゅう話題をふられてるし。人のいい奴としては、無視するわけにもいかないだろう。

 そういう私は昼食中。……実は、人見知りとは縁がない奴の後輩たちに誘われたんだけど、お弁当を食べたいからって辞退した。あんなハイテンションにつきあわされるなんてごめんだ。

 とは言っても、その言い訳が通用するのもあと少し。箱の中に残っているのはハンバーグが1つとご飯が2口分だけ。それをできるだけゆっくり口に運んでいる状態だ。

 昼休みが終わるまで、あと10分。


「……無理」


 こういうときにこそ、先生に呼び出されたい。先生の話なら、ぼーっとしている間に終わるから。

 彼らとならそうはいかない。……ちなみに、逃げ出すのも難しそうだ。


「杉田先輩ー、早く食べて喋りましょうよ」


 これで5回目。人懐こそうな笑顔を浮かべて私を呼ぶのは、冴島によると現生徒会長らしい。名前は覚えてない。



 あと8分。こっちを向く生徒会長に笑っておいた。それを見た奴が一瞬バカにしたような顔をしたから、きっと引きつっていたんだろう。




 ご飯を2粒ずつ食べながら、時計の針をじっと見つめていた。



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