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青空同盟  作者: 紅和
どれみふぁそのうた
34/53

ソは青い空



 冷えた体を温めるため、なんていう名目で屋上の扉を開けると、珍しく冴島が先にいた。


「あ、いた」


「いたら悪いみたいな言い方やめろ」


 どこかで聞いたような、決まりきった挨拶。私は太陽に手をかざして、日陰にもぐりこんだ。

 奴は、これもまた決まりきったことだけど、読書中。



 最初の会話以外、私たちはほとんど言葉を交わさない。もともとおしゃべりが好きってわけでもないから、ちょうどいいんだけど。

 たまに、違う気分になることも、ないわけじゃない。


「ねえ」


「ん?」


「何の本、読んでるの」


 ペットボトルのお茶を、飽きることなく今日も持ってきている。それを意味もなくいじりながら、大した意味も込めずに尋ねた。


「……ありきたりな殺人事件をがんばって解決しようとする探偵の話」


「……それはおもしろいわけ?」


 全然おもしろくなさそうに言う冴島は、でも口元に笑みを浮かべて言った。


「まあまあ」


「ふーん」


 高い空はもう秋。

 矛盾してると思いつつ、まだ何とかひんやりとしているペットボトルを頬に押し当てる。

 天気はもうすぐ下り坂になるらしいけど……青い空を見て疑う。でも、空だけは秋だし、もしかしたら気まぐれだったりして。


 ひざを抱えて目を閉じた。

 規則正しく聞こえてくる、奴が本のページをめくる音。それから、セミの命を刻む声。



 昨日は寝不足だったんだ、とか、そんなことを考えながら耳をすませていた。







 たぶん夢を見ていた。どんな内容かは覚えていないけど、その夢の途中で妙に軽やかなメロディーが流れたのは確か。




 ぱっと目を開けると、なぜか景色が横向きだった。


「あれ? 木が横に生えてる」


「……お前が横になってるんだよ」


 道理で、左手が固い地面に当たっていると思った。

 上から降ってきた冴島の声で納得して、妙にあったかい枕から頭をはずす。

 起き上がって最初に見たのは、元に戻った景色じゃなくて、不自然な形で座っている奴の姿だった。


「何でそんな変な座り方なのよ」


 軽く開脚して、左足だけを立てている。そんな体勢で本を読んでいた奴が、ちらりとこっちを見て言った。


「どっかの誰かさんが人の足を枕にして寝てくれたから」


「え?」


 そういえば、ちょうど私の頭があったところだ。…………じゃ、なくて。


「な、何で!?」


 やってしまった。せっかく噂も収まってたっていうのに。誰かに見られたりしてたら、どうしよう。


「何でって……コンクリートに思い切り頭ぶつけたほうがよかったか?」


 それはそれで、困る。痛い目にはあいたくないし。……いや、でも女子のつるし上げに合うほうが、痛い。不覚だ。


「……余計なことしないでくれるかしら、冴島君」


 どうせなら起こしてくれたほうが、どんなによかったか。


「感謝されるならわかるけど、その態度はないんじゃないかな杉田さん。……あ」


 軽やかなメロディーが流れてきた。夢の中のと同じ。

 冴島がポケットから携帯を取り出した。

 耳になじむ曲だ。着メロの、いかにも『電子音』なところがあんまり好きじゃないんだけど、これは心地よい。


「……何でそんなにさわやかな曲……」


 メールを打ち始めた奴に向かって呟く。




 やけに優しい響きのメロディーは、私たちには似合わない。

 そんなことを思ったら、何だか笑えた。



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