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青空同盟  作者: 紅和
らいおんのたてがみ
27/53

旅は道連れ?



 朝一番の風は、まだ辛うじて涼しい。


 登校してすぐに屋上にきて、手すりにもたれた。さすがに冴島もまだ鍵を開けには来ていなかったから、自分のかぎで扉を開けた。

 この前小さな鈴のついたキーホルダーをつけて少しバージョンアップした大切な鍵は、いつも制服のスカートのポケットに入れてある。

 あんまり使う機会がないせいか、使えるとやけに嬉しい。


 そういえば、中学のときの数学の先生が言っていたっけ。小さな幸せがあれば生きていける、って。まさにそのとおりだ。




 1年前に切った髪は、もう風になびいて邪魔になるくらいにまで伸びてしまった。

 湿気を含んだ空気にふさわしくないとは思いつつ、面倒で切りには行っていない。


 気づけば……受験生のくせに何をのんきなって感じだけど、本当にあっというまだ。中間テストが終わって、5月も終わろうとしている。

 今日の週間天気予報では、6月の最初も入っていた。


 6月。


 そう聞いただけでため息をひとつ吐けそうだ。一年で唯一土日以外の休みがない日。それから、梅雨。

 もともと雨は嫌いじゃない。だけど、梅雨の季節はまた別だ。うっとうしいじめじめは、ただでさえ明るくない心からさらに光を奪っていく。


「あーあー、病んでるなあ」


 なぜか最近よく聞く言葉が、今の自分にぴったり。



 慣れるしかないって決めて、平然を装って座っていた席にもすっかり本当に慣れてしまったと思う。

 あの手紙を無視して以来、彼女は私に接触してこない。それだけが少し楽。……ただ、押してだめなら引いてみるって言葉にあるような、今が引いてる時なんだとしたら……。


「やめた」


 考えを止める。これ以上自分から憂鬱に飛び込んで行って何になるだろう。

 それに、気持ちがそれてこれ以上成績が落ちるのも困る。



 ……テストの結果を思い出して、別の意味で気分が落ち込んだ。







「あ、終わった」


 思わず声がもれて、顔を上げると冴島と目があった。


「この前の本を、読み終わったのよ」


 別に聞かれてもいないのに、言う必要なんかなかったなあ、と思ったのは既に口にした後。


「ふーん」


 向こうもそれぐらいしか言う事がないんだろう。私でもそうなる。


「……それなら、図書室にでも行くか?」


「は?」


 どう考えても、奴と私が一緒に図書室に行くって意味にしか取れないんですけど。


「それ、学校の図書室で借りたやつだろ?」


 確かにそうだけど。いや、そういうことじゃなくって。


「何であんたと行かなきゃいけないのよ!」


「何となく」


 ほら行くぞ、とこっちの反応なんてまるで無視。やっぱり、奴以上の自己中なんてそういないと思う。


「ちょ……待ちなさいよね」


 で、その何となくに着いていってしまう私も私。

 このあたり、きっと暑さにやられているに違いない。




 心が病んでるとかそういうことが、一瞬どうでもよくなった。


 昼休みが終わるまで、あと15分あった。



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