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青空同盟  作者: 紅和
らいおんのたてがみ
24/53

あいまいなお年頃



「ちゃんと勉強しておくように」


 来週の模試についての連絡の最後に、先生が言った。

 教室の空気が微妙に変わる。


 『受験生」という言葉が、どこにでもついてまわることに少しだけ慣れ始めた5月。自習時間とおしゃべりタイムがイコールじゃなくなった。

 最初はそれが、なぜだかとても怖くて戸惑っていた人たちも、今はもうそれが当たり前だってことに気づいたらしい。


 私もそう。まだはっきりと進路を決めてはいないけれど、勉強はしておこうと思う。

 その証拠に、教科書やノートをきちんとカバンに詰め込む。




 パラパラとみんなが帰り始めるのに混じって、席を立った。

 教室のほぼ真ん中にある、私の机と椅子。表面に傷のついた机から、カバンを持ち上げた。……重い。

 その重さに少しばかりげんなりする。一体何キロあるんだろうって、片手で持ちながら考えてみた。わかるはずがない。別に、どうだっていいことだ。



 ぼんやりと廊下を歩いていく。

 今日も疲れた。

 急にいろんなことをがんばりだしたせいか、たまる疲労もしつこくて。


 ……でも、やめたいとは思わなかった。そんな自分のことが、少しだけ好きになれたから。







 重いカバンを、いっそひきずってしまいたい。そんな衝動と戦いながら、のろのろと帰り道を歩く。この季節はいつも穏やかだ。時々飛んでくる蜂にびっくりしながらも、結構楽しい。


 川原で遊びまわる、男の子達。それにつられるようにして笑う、女の子達。

 冬の制服を着ているのが、そろそろつらい。川原を走り回っている子たちは、みんな半袖だ。


「ふう……」


 立ち止まった。それから、カバンを地面に置いて制服の袖をまくる。

 それだけで、大分涼しくなった。

 汗ばんだ手を軽くスカートで拭いてみる。横を通り過ぎていく自転車が起こす風。気持ちいい。



「葵」



 不意に、名前を呼ばれた。家族以外に下の名前を呼ばれるのは久しぶりだ。


 ……誰がその名前を呼ぶだろう。


 思いつく前に、反射的に振り返ってしまって。


「久しぶりだね」


 どうしてちゃんと考えなかったんだろう、って後悔してももう遅い。

 どこか気まずそうな笑みを浮かべて立っていたのは、1年生のころは確かに友達だって信じていた子。


「葵、一人なの?」


 黙ったままの私に、近づいてくる「元」友達。




 ……私は、もう子どもじゃない。だけど、面と向かって「嫌いだ」って言ってきた子と、なんでもないような顔をして喋れるほど、まだ大人じゃない。強くもない。




 何を言わずに歩き出す。今度は早足で。


 ポケットの中で、屋上の鍵が小さく音を立てた。



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