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青空同盟  作者: 紅和
らいおんのたてがみ
23/53

居心地の良さと悪さ



 風が気持ちいい。

 屋上に出て、まずそう思った。前の教室よりも屋上が近くなって、そういうところだけ嬉しい。


「やあ」


 やわらかい風に目を細めていると、奴の声がした。

 冬が終わったから、もう場所の取り合いもしない。いつもの位置に座っている。


「あら、いたの」


 入ってきたときから、冴島がいることには気づいていた。それでも、何となくそう答える。それから、私も定位置に腰を下ろした。



 相変わらず、私と奴の間に会話はない。……だけど、それが逆に楽で。教室には、あんまり顔を合わせたくない人が2人もいるから、よけいにそう思うのかもしれない。

 2年の最後に心配していた「ウワサ」も、春休みとともに忘れられていたし、あの子もあれ以来何も言ってこないし。




 お弁当にいつも入っている卵焼きは、やっぱりおいしい。

 そんなことを思いながら、何に邪魔されることも遠慮することもないこの場所で、お弁当を食べる。

 奴は今日も、少しはなれたところで難しそうな本を読んでいる。


 3年になって生徒会を引退した冴島は、そのせいか前よりも屋上に来ることが多くなった。

 校舎の中で会うことは相変わらずほとんどないけれど、屋上に来ると絶対に会う。


 ……そういえば、この関係は一体なんていう言葉で表せるんだろう……なんて、考えてみたり。

 「友達」と呼べるほどお互いのことを話したりはしないし、もちろん「恋人」でもない。ただ同じ場所をたまに共有するだけ。微妙な関係。


「そんなに見つめないでくれるかなあ、杉田さん」


「見つめてない!」


 まあ、どうでもいいか。







 新しいクラスが「楽しい」と思えるのは4日目まで。今までの経験では。

 ただし。何にでも例外はある。……そう、このクラスみたいな。


「私さ、この前ねー」


「俺、昨日さあ……」


 できるだけ遠ざけておきたい人の声は、どうしてこんなにも聞こえてくるんだろう。

 新しい机に突っ伏しながら思った。いっそ耳をふさいでしまいたいけれど、それはただの変な人にしか見えないからやめておく。



 3年目ってことで慣れもあるんだろう。もう女子は完璧にグループができあがっている。男子も、女子ほどじゃないけれど、仲のいい人は決まっている感じ。

 私を含めて何人かはどこのグループにも入っていない、休み時間の光景。


 3年生は特に行事もないから「一匹狼」にとってはありがたい。




 ……くだらなくても、何か考えていれば「声」を聞かないですむ。


 それでも、さっきまでいた屋上が、早くも恋しくて仕方なかった。



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