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青空同盟  作者: 紅和
ぞうさんのながいはな
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願うのは平穏な日々



 屋上に出ると、冴島がいつもと同じように本を読んでいた。

……あの子は、前にウワサがどうとか言っていた、1年生の冴島ファンだ。そこから考えれば、どうしてあの子が屋上から飛び出てきたのかわかる。

 つまり、この男にふられたか何かしたんだろう。


「ねえちょっと」


 わからないのは、どうして私がうそつき呼ばわりされなきゃいけないのかで。


「なに?」


 ……それも何となく想像がつく。この意地悪そうな笑みを浮かべた奴を見れば。


「何か用かな、杉田さん」


 きっと冴島が、余計なことを言ったに違いない。それしかない。


「あんたねえ、覚えがないとは言わせないわよ!」


「何が?」


「とぼけるな! あの子に余計なこと言ったでしょう! もう、どうしてくれるのよ!!」


 せっかく平和を失わないようにがんばってたっていうのに。


「余計なこと? 言ってないけど」


「じゃあ。あの子になんて言ったのよ」


 ありえないとは思うけど、自覚がないのかもしれない。


「『ごめん、付き合えないんだ』」


「それだけ?」


 そんなわけがない。奴はまだ、むかつく笑みを浮かべたままだ。


「……ああ、そういえば、『杉田先輩と付き合ってるんですか?』って聞かれたなあ」


「何て答えたの」


「『まあ、ありえなくはないよ』」


…………最悪。


「ありえないわよ、バカじゃないの!?」


 私の平和をどうしてくれるの。そんな気持ちをいっぱいに込めてにらみつけたけれど、奴はそんなこと気にも留めない。

 本を閉じて立ち上がった。


「ありえなくはないかもよ? 杉田葵さん」


「ありえないわよ!」


 怒鳴りつける私に気味悪く微笑んでから、冴島は校舎へと戻っていった。







 一人残された屋上。勢いあまって、お弁当を地面に叩きつけてしまった。


「……どうしてくれるのよー……」


 いろんな意味を込めて、呟く。

 ため息をつきながら空を見上げると、象の形に見える雲がぽっかりと浮かんでいた。


 深呼吸して、少しだけ冷静になって考えてみる。


……あの子は、これを広めるかしら。


 女の子というものは侮れない。一見かわいらしい子でも、恋となると話は別。広められたらちょっとどころかかなりまずい。


 冴島はたぶん、問い詰められてもさりげなくかわすだろう。ってことは奴から広まるってことはない……よね?


 問題はあの女の子と、その友達か。いや、でももうすぐ休みに入るし。ウワサが広まったとしても、あんな目やこんな目に合うのは少しの間だけだ。うん。


考えれば考えるほど、よくわからなくなっていく。それ以上に、別に気にしなくてもいいんじゃないかって思えてくる。


 さっき投げつけたお弁当箱を拾い上げて、座って食べ始めた。あと10分もすれば授業が始まってしまう。


「うん、そうよ。きっと大丈夫!」


 自分に言い聞かせるように言いながら、ぐちゃぐちゃになったおかずに箸をつける。



 早く春休みにならないかなって。そう強く思いながら。






<シリーズ3 ぞうさんのながいはな 完>




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