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青空同盟  作者: 紅和
ぞうさんのながいはな
20/53

一旦停止のその訳は


 ちらりと時計に目をやって、心の中で思いっきり息をはいた。左手に持ったお弁当には、大好きなミートボールが入っている。


「聞いてるのか?」


 いすに座ってこっちを見上げている担任は、いかにも生徒思いないい先生という感じだ。

……ただ、今はうざい先生にしか見えないけれど。


「聞いてますよ」


 だんだんと暖かくなってきたから、今日は屋上でご飯を食べようと思っていたのに、とんだ誤算。


……ああ、こんなことなら昨日あの紙を捨てずに、適当に書いて出してしまえばよかった。いまさらどうにもならないことを悔やむ。


「後で困るのは自分なんだぞ」


「はあ」


 この人は、同じことを繰り返して言うのがすきみたいだ。


「自分の将来のことだろう」


 これも、3回目。


 確かに進路を決めるのは、自分の将来のため。困るのは私。そんなことはわかってる。

 でもだからこそ、妥協はしたくないと思う。本当にやりたいことをやりたい。


「黙ってないで、何か言ったらどうなんだ」


 どう言ったら、先生は納得してくれるだろうか。……いっそ言いたいことだけ言って逃げてしまおうか、なんて、そんな考えもよぎる。



 昼休みが終わるまで、あと20分。そろそろ食べださないと、授業に間に合わない。しかも次はあの、佐藤の数学だ。前に一度さぼったせいで、目をつけられている。


……これはもう、逃げるしかない。


「先生、私、自分の人生に妥協はしたくないんです。だから、今はまだ決められません。いつかちゃんと決めますから、そんなに心配しないでください」


「いや、だからな……」


「失礼します!」


 きびすを返して歩き出す。後ろから、担任の諦め混じりの声が追いかけてくるけれど、それは知らないふり。

 そのまま職員室を出ようとして、ふと思い出した。立ち止まって、回れ右して口を開く。


「先生、文句は生徒会長に言ってください」


 呆気にとられたような担任に笑顔を向けて、今度こそ廊下にでた。


 きっとこれで、大丈夫。







 少しだけ急いで、屋上への階段を駆け上った。

 いつもなら、何のためらいもなく開ける扉の前で、今日は停止。


「あ」


 ノブに手をかけようとしたところで、扉が向こう側から開いたから。出てきたのは、この前ちょうどこのあたりで出会ったあの女の子。

 目が合って、何となくどっちも立ち止まる。こっちは驚き、あっちは……怒り?

 よくわからない雰囲気のなか、黙っていると女の子のほうが何の前触れもなく言った。


「うそつき!」


……え? 言葉を発しようとした私の横をとおりぬけて、女の子が走り去っていく。

 一体何なんだろう。


 お弁当を左手に持ったまま、私はしばらく突っ立っているしかできなかった。



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