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青空同盟  作者: 紅和
ぞうさんのながいはな
18/53

冷たい風と右手



「かっこいいよねえ」


 隣の席の女の子と、その友達が発した言葉で目が覚めた。

 反射的に時計に目をやって、なんとなく損をした気分になる。授業の合間の10分休憩。別にすることがあるわけじゃない。だけど、何故か寝るのはもったいないと思ってしまう。


 次の授業は確か日本史で、先生は5分遅れてくるだろう。いつもそうだ。だから、休み時間はあと12分ぐらいはあるはず。


 こんなときだけさっと計算できる、数学が苦手な私の頭。


 騒がしくて、変な暖かさの教室の空気。埃っぽいのと、人のにおいと、チョークの粉。ずっとここにいたら、きっと病気になってしまう。そんな気になるほどの、変な空気。


 席をたって、廊下にあるロッカーまでブラブラと歩いていく。教室とは全然違う澄み切った寒さは、今まで寝ていた頭にも悪い空気を吸い込んでいた肺にも優しい。今だけ。



 ゆっくりと歩いて席に着くとしたら、休み時間はあとどれくらいになるだろう。


 またくだらないことを考える。……そうして、私はポケットに入れっぱなしのあの紙のことを忘れていたいんだ。











 屋上は今日も寒い。


「……で? 譲ってくれるやさしさはないの?」


「ない」


 昨日の仕返しのつもりだろうか。今日は私よりも奴のほうが先にきていて、そして日なたは奴の下にある。


「女の子は体を冷やしちゃいけないんだから」


「それなら中に戻れば?」


 私が屋上に来るのは、ここだと気を使わないですむから。教室の中は確かに暖かいけれど、私にとってはただの窮屈な場所。そんなところにいるよりも、ここにいるほうが何倍もいい。……たとえ、冴島がいるとしても。


「ここで静かに考え事をするの!」


 で、憩いの場所である屋上でも、今の季節は日なたが特等席。奴に譲るのは、癪だ。


「ふーん……俺も考え事してる」


 ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。


「私は人生にかかわる考え事なんだから」


 言いながら、ポケットの中のぐしゃぐしゃの紙を握り締めた。だって、出していないのは私だけで、期限は来週までで。忘れていたくても、考えないといつまでたっても決まらない。そう思ってここに来たのに。


「それならなおさら、こんな寒いところでやるもんじゃねえよ」


手で追い払われる。





「……でも、ここで考えるほうがはかどるのよ」




 冴島が立ち上がるのだけ、わかった。


「人生なんて、考えて決まるもんじゃないと思うけどなあ……というわけで、はい、さようなら」


 奴はあっさりと日なたを離れ、そのまま校舎の中へ戻っていった。



……結局こだわっていたのは、私だけってこと?



「何かものすごく、バカみたい」



 ポケットの中に入れていた右手を、寒風にさらしてみる。

 あっという間に、手は冷たくなった。



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