わからないことだらけ
「冬は寒いなあ」
昨日のあのウワサはどうなったんだろうって、少し心配しながらも、私はまた屋上にいる。
「沖縄じゃねえんだから、当たり前だ」
今日は冴島も来ていた。
「うるさいわねえ……あ、ちょっと、こっち来ないでってば」
日なたを陣取って、冴島には寄らないように言った。
ウワサをしずめるため。私の平和を守るため。
「俺だって寒いんですけど。自己中な杉田葵さん?」
隙あらばこっちに来ようとする奴を威嚇する。
もとはと言えばこいつのせいで巻き込まれたんだから。
「寒いなら中に戻ればいいんじゃないかしら? 冴島健史くん」
今ならまだ何とかなるはずだ。今日学校にきても、靴箱や机やロッカーは悲惨なことにはなっていなかった。
今ならまだ、あのウワサから逃げられる。
あとは昨日の女の子が否定してくれていれば万事解決。
「そのセリフ、そっくりそのまま返しますよ、杉田葵さん」
「あんたが戻ればいいでしょ!」
「短気は損気」
「うるさい!」
で、あの子たちはこんな奴のどこがいいんだろう。
嫌味ったらしくて根性悪で、猫かぶりなこいつのどこを好きになる?
「……じろじろ見るなよ」
「見てない!」
……どこがいいの?
*
放課後の職員室。
忘れていた。提出期限が今日だってことを。
「進路、決まってないのか?」
ああ、あのウワサのせいで忘れたんだった。
「出してないのは……あー、お前だけだな」
「はあ……」
放課後の職員室に、呼び出されてしまった。
目の前に立っているのは担任。呼び出されたところで、進路が決まるわけじゃないけれど、ここで無視してもいいことがないのでやめておいた。
「もうそろそろ決めないと、3年がきついぞ」
私だって早く決めてしまいたい。
「進路は早めに決めておいたほうがいいぞ」
15分経過。繰り返される同じようなセリフは、そのたびに私の心を重くする。
「まだなら今日はいいけど、来週までには出せよ」
「はあ……失礼しました……」
やっと解放されたときには、もうこれ以上ないくらいの疲れ。
「どうしよう……」
ポケットの中に手を入れて、握り締めた紙。それはもう既に折り目がついてぐちゃぐちゃになっている。
先のことなんて見えない。
どうすれば決められる?
カバンが、いつもよりも重かった。




