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青空同盟  作者: 紅和
ぞうさんのながいはな
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非日常と日常



「あの、すいません」


 屋上から校舎の中に戻ったところで、声をかけられた。

 学年ごとに違うスリッパの色。すぐにわかった。一年生だ。


「はい?」


 本当は、さっさと教室に戻りたいところだけど、声をかけてきた一年生の女の子のビクビクしたような態度を見ると、そう露骨にもできない。

 あくまでもやさしく聞き返すと、その子は思い切ったように口を開いた。


「……あの、冴島先輩と先輩が付き合ってるって、本当ですか?」


 今度は私の口が開いた。言葉は出てこずに、ただ開いただけ。


「本当、なんですか?」


 こっちの様子をうかがうような一年生の女の子の目。

 ……どこからそんな噂が流れたんだろう。誤解しすぎだ。


「付き合った覚えはないよ?」


 やっとそう言うと、女の子はほっとしたように息を吐いた。


「よかったー……」


 かわいいと思う。素直で。……でも気になるのは。


「どこでそんな噂聞いたの?」


 やってられない。だってあいつと付き合ってるなんて、絶対にありえないのに。


「えっと……私は友達から聞いたんですけど」


「うん?」


「その友達が、冴島先輩と先輩が仲良く屋上で座ってるのを見たって」


 ……付き合ってることに覚えはなかったけれど、座っていたのは覚えがある。

 あの、日なたでやむをえずとなりに座ったときのことだ。

 見られていたなんて、うかつだった。


「……付き合ってるなんてありえないから、そういっといてね」


 誤解されたままじゃ困る。ちゃんと直しといてもらわないと。


「はい、あの、ありがとうございました」


 そろそろ教室に戻らないと、遅刻だ。


 お互いに何となく頭をさげた。











 授業中は、どうしてこんなにも暇なんだろう。

 特に数学。午後一番に数学をもってくるなんて、いやな時間割だ。


 一応聞いているつもりでも耳を通り抜けていく数式。たぶん今さら取り戻せない数だろう。

 ただ開いているだけのノートと教科書、ぼーっと眺めているだけの黒板から目をはずして、窓の外を眺めてみる。

 この前の席替えでゲットした窓際の前から三番目。結構気に入っていたりする。


 グラウンドで体操服を着たやつらがボールを追いかけて走り回っている。


「えーこの公式をあてはめて解いてみると」


 先生の声をBGMにして、試合をしている風なグラウンドでのサッカーを見ているとなぜかおもしろい。ルールなんてよく知らないのに。


 やり場のない手はポケットの中の紙を弄んでいる。まったく書けない進路志望調査の紙だ。

 先のことなんて、まだまだ全然見えない。このままぼーっとしていたい……。





 終わったらしいサッカーの試合から、黒板に目を戻すともう授業が終わる時間だった。そのことに気づいた瞬間、眠気が覚めていく。

 この、何でもない一瞬がすごく好きだ。勉強は嫌いだけど。



 さっき聞いた噂話は、ひとまず忘れることにして、席を立った。だってやっぱり、屋上は居心地がいいから。



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