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青空同盟  作者: 紅和
おりがみのふうせん
13/53

我慢のしすぎは体に悪い


 一般公開もされる、文化祭二日目。和風喫茶は結構繁盛している。

 よかった。昨日あれだけがんばったのに客の入りが悪かったら、私のせいにされるところだった。


 ゲーム屋、クレープ、焼そば屋……一日中何もすることがなくてとりあえず歩き回っていると、思っていたよりもいい店が多いことに気づく。生徒会の賞品のせいだ。心なしか、営業スマイルにも力が入っている。


「いらっしゃいませー」


 普段の姿よりもすこし大人びて見えるのは、やっぱり学校の制服じゃないせいだろうか。

 みんないきいきとしている。この文化祭がきっかけでできるカップルも少なくないし。

 そういえば、と思い出す。一年のときの友達と気まずくなってしまったのは、文化祭の後だった。ちょっとしたことが合わなくて、喧嘩みたいになったのがきっかけで。今会っても前みたいにはなれないと思う。どうでもいいけれど。




 人でいっぱいの校内。廊下には何となく進む流れができていて、逆らえない。特に行きたいところもない私は流れるままに歩いている。

 今の私の学校生活そのままだ。


「……どこに行こうかな……」


 かすかに口を出た言葉は、祭りの騒がしさに容赦なくかき消された。







『生徒会長冴島君、すぐにグラウンドまで来てください』


 柵に体をもたれさせて空を見上げた。結局することがなくて、いつものように屋上。


「また呼ばれてる。早く行きなさいよね」


 最近は来ていなかった先客がいた。


「いいんだよ。どうせすぐ終わるんだから」


 さっきから何度も呼び出されているこの男は、動こうともせずに寝転んでいる。


「自己中な男」


「杉田葵さんには言われたくないね」


「うるさい!」


 何でこんなのが生徒会長なんだろう。だまされすぎだ、みんな。



『冴島会長! 今すぐグラウンドに来てくださいよー』



 何度目かわからない呼び出し。今にも泣き出してかんしゃくを起こしそうな声に、冴島がやっと起き上がった。


「……間に合うって言ってんのに」


 心底めんどくさそうにつぶやくと、立ち上がって歩き出した。


「走って行きなさいよ。かわいそう」


 放送した子にちょっと同情。気の毒だ。


「できれば代わってほしいね。なりたくてなったわけじゃないのに」


「本性見せたら代われるんじゃない?」


「ああ、考えとく」


 精一杯の皮肉も軽くかわす、こんな奴が会長だなんて他の役員はかわいそうだ。


「むかつく」


 そして、改めて確認。冴島健史は、根性最悪人間。







「後夜祭を始めます。もりあがりましょう!」


 暗くなったグラウンド。表の顔に笑顔をはりつけた冴島が挨拶をすると、集まった人たちの間から雄たけびが聞こえた。流れ出す陽気な音楽。特設ステージまであって、すごい。


「伝統のフォークダンス。今日は誰とあたってもにこやかに踊りましょう」


 木の下に座った私は、盛り上がる生徒たちを眺めた。男女がペアになりながらぐるぐると踊るフォークダンスは、この学校の伝統だ。

 すこし離れているせいか、ざわめきがすこしだけおとなしい。でも、見ていてこっちまで楽しくなる。生徒会の人たちも、マイクを放って輪の中に入っている。後夜祭ならではのノリ。




「むかつくわ」


 楽しみながら見ていた私の耳にふと入ってきた声は、間違いなく木本さんのものだった。自然とテンションも下がって、体がかたくなる。


「ああ、賞取れなかったもんねー」


 何人かで固まって、みんなの輪から離れて喋っているらしい。


「絶対うちのクラスだと思ってたのに! 杉田が飾りつけなんかしなけりゃ賞は取れてたよ」


 また私。押し付けといて、今さらこうだ。本当に、人のせいにするのが好きな人たちだと思う。


「むかつくわー……」


 そっくりそのまま返してあげたい。私がどれだけ我慢してるかわかってない。あんまりもめたくないから黙っていたのに、木本さんたちはかまわずに言う。


「ほんと、クラスにいるだけで迷惑だよね」


 ……堪忍袋の緒が切れるって、このことだ。


「……いいかげんにしなさいよね……」


 立ち上がってスカートについた土をはらう。

 我慢できない。これ以上は。



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