我慢のしすぎは体に悪い
一般公開もされる、文化祭二日目。和風喫茶は結構繁盛している。
よかった。昨日あれだけがんばったのに客の入りが悪かったら、私のせいにされるところだった。
ゲーム屋、クレープ、焼そば屋……一日中何もすることがなくてとりあえず歩き回っていると、思っていたよりもいい店が多いことに気づく。生徒会の賞品のせいだ。心なしか、営業スマイルにも力が入っている。
「いらっしゃいませー」
普段の姿よりもすこし大人びて見えるのは、やっぱり学校の制服じゃないせいだろうか。
みんないきいきとしている。この文化祭がきっかけでできるカップルも少なくないし。
そういえば、と思い出す。一年のときの友達と気まずくなってしまったのは、文化祭の後だった。ちょっとしたことが合わなくて、喧嘩みたいになったのがきっかけで。今会っても前みたいにはなれないと思う。どうでもいいけれど。
人でいっぱいの校内。廊下には何となく進む流れができていて、逆らえない。特に行きたいところもない私は流れるままに歩いている。
今の私の学校生活そのままだ。
「……どこに行こうかな……」
かすかに口を出た言葉は、祭りの騒がしさに容赦なくかき消された。
*
『生徒会長冴島君、すぐにグラウンドまで来てください』
柵に体をもたれさせて空を見上げた。結局することがなくて、いつものように屋上。
「また呼ばれてる。早く行きなさいよね」
最近は来ていなかった先客がいた。
「いいんだよ。どうせすぐ終わるんだから」
さっきから何度も呼び出されているこの男は、動こうともせずに寝転んでいる。
「自己中な男」
「杉田葵さんには言われたくないね」
「うるさい!」
何でこんなのが生徒会長なんだろう。だまされすぎだ、みんな。
『冴島会長! 今すぐグラウンドに来てくださいよー』
何度目かわからない呼び出し。今にも泣き出してかんしゃくを起こしそうな声に、冴島がやっと起き上がった。
「……間に合うって言ってんのに」
心底めんどくさそうにつぶやくと、立ち上がって歩き出した。
「走って行きなさいよ。かわいそう」
放送した子にちょっと同情。気の毒だ。
「できれば代わってほしいね。なりたくてなったわけじゃないのに」
「本性見せたら代われるんじゃない?」
「ああ、考えとく」
精一杯の皮肉も軽くかわす、こんな奴が会長だなんて他の役員はかわいそうだ。
「むかつく」
そして、改めて確認。冴島健史は、根性最悪人間。
*
「後夜祭を始めます。もりあがりましょう!」
暗くなったグラウンド。表の顔に笑顔をはりつけた冴島が挨拶をすると、集まった人たちの間から雄たけびが聞こえた。流れ出す陽気な音楽。特設ステージまであって、すごい。
「伝統のフォークダンス。今日は誰とあたってもにこやかに踊りましょう」
木の下に座った私は、盛り上がる生徒たちを眺めた。男女がペアになりながらぐるぐると踊るフォークダンスは、この学校の伝統だ。
すこし離れているせいか、ざわめきがすこしだけおとなしい。でも、見ていてこっちまで楽しくなる。生徒会の人たちも、マイクを放って輪の中に入っている。後夜祭ならではのノリ。
「むかつくわ」
楽しみながら見ていた私の耳にふと入ってきた声は、間違いなく木本さんのものだった。自然とテンションも下がって、体がかたくなる。
「ああ、賞取れなかったもんねー」
何人かで固まって、みんなの輪から離れて喋っているらしい。
「絶対うちのクラスだと思ってたのに! 杉田が飾りつけなんかしなけりゃ賞は取れてたよ」
また私。押し付けといて、今さらこうだ。本当に、人のせいにするのが好きな人たちだと思う。
「むかつくわー……」
そっくりそのまま返してあげたい。私がどれだけ我慢してるかわかってない。あんまりもめたくないから黙っていたのに、木本さんたちはかまわずに言う。
「ほんと、クラスにいるだけで迷惑だよね」
……堪忍袋の緒が切れるって、このことだ。
「……いいかげんにしなさいよね……」
立ち上がってスカートについた土をはらう。
我慢できない。これ以上は。




