増える謎とため息
文化祭一日目。午前中の舞台発表はまあまあ成功して、何とか賞って賞をもらった。
「じゃあ、また明日」
「ばいばーい」
いつものように昼ご飯を屋上で食べて教室に戻ってきたら、もうクラスの大半が下校していた。残っているのは文化委員の女子と、木本さんたちと私。
で、まあ結局私一人になるんだろう。
「じゃあ杉田さん、あとはよろしくね」
案の定、木本さんたちはすぐに買出しに出かけていった。
六人いる飾り付け係のうち、残ったのは私だけ。そこまで嫌われるような覚えは本当にないんだけど、しょうがない。
他のクラスはみんなで準備しているみたいで、時々楽しそうな声が聞こえてくる。……それが普通だと思う。
「はあ……」
ため息。深呼吸。
それから段ボール箱を開けて、鎖を取り出した。机や椅子は後でするとして、先に壁を飾ってしまおう。
椅子を台にして、鎖を両面テープで貼り付けていく。ほどよくたるませるのは結構難しい。
椅子に乗ったり降りたりして、一人でやっているとやっぱり気持ちが暗くなる。無理矢理に明るい歌を口ずさんだ。
*
午後二時四十分。とりあえず壁と扉のかざりつけがおわった。がんばった自分にジュースのごほうび。
他のクラスはまだほとんどの人が残っているらしくて賑やかだ。
そういえば一年の頃は楽しかったと思い出す。今みたいに一人でいることは少なかったような気がする。文化祭も楽しかったし。……気まずくなって一人になったのは、どうしてだったっけ。
そんなに昔のことでもないのに、忘れてしまった。思い出せない。
「どうしてだっけなあ……」
手に持っていた缶についていた水滴が、手にまとわりついてくる。それを眺めながらしばらく自分の世界に入り込んでいた。
「お前何してんの?」
急に声が聞こえてきて、びっくりして缶を落としそうになった。
顔をあげると扉のところに立っていたのは生徒会長。素の無愛想さ。
「何って、準備だけど?」
「……一人でか?」
無表情の中に、すこしだけ不思議そうな色が混ざっている。
そりゃそうだろう。他のクラスにはいっぱい人がいるのに、この教室には私しかいないんだから。
「私だけよ、何か用?」
きっと生徒会の用事できたんだろう。大変なんだ、意外に。
「文化委員もいないのかよ……ありえねえ……」
心底あきれたようにため息をついた冴島は、すこししてから私の方を見て言った。
「文化委員に伝えて。買ったもののレシート全部持って、明日の後夜祭までに生徒会室に来いってな」
「わかったわよ」
頷いた私に、無愛想に頷き返してから奴は走り去っていった。
すこしだけうらやましいような気がする。あんなふうに中心でがんばっている奴が。
……でも、どうしてあいつがモテるのかはわからない。
さっき言われたことは紙に書いて黒板に貼っておくことにして、まだ半分くらい残っているジュースを教卓の上に置いた。
まだやることは残っている。これ以上考えることを増やさないで欲しい。
意味もなく腕まくりをしてから、思っていたよりも軽い机と椅子を動かし始めた。




