浮き足立つ周りとは裏腹に
学校中が何となく浮き足立っていて、盛り上がりもピークにさしかかる文化祭一週間前。
さすがに準備が忙しくなって余裕がなくなったせいか、木本さんたちは何もしてこない。
教室の中には、当日使う物がたくさん、すでに出来上がった状態で置かれていて落ち着かない。1日目の舞台発表で着る衣装や大道具、それから2日目で使う店のユニフォームが散らばっている。
先生にも『お前ら、ちょっとぐらい片付けろよ』と笑われた。
私が作った鎖もたぶんその中に埋まっている。紙袋だけじゃどうにも足りなくて頼りなくて、どこかからもってきた大きなダンボール箱に入って。
私は、舞台発表も店も裏方だから、もう特に仕事はない。そのぶんテストはできたのか、と聞かれるとNOとしか言えないけれど。
冴島もあの風船の日以来、見かけない。やっぱり生徒会長ってやつは忙しいらしい。でも、屋上の鍵が開いているのを見ると、来ようとはしているみたいだ。まあ、私にとっては好都合。独り占めできていい。
冴島が置いていった赤い紙風船は、どうしてか捨てられなくて部屋においてある。よく見るとところどころ折り目がずれているのが、見ていてちょっと面白い。
冴島はA型じゃないんだろうな、って思った。
*
「杉田さん」
いい加減、このパターンには飽きてきた。
授業が終わって屋上に行こうとしたところ。木本さんに呼び止められる。
「何か用?」
今度はどんなことを言われるんだろう。
「えっと、お願いがあるんだけど……」
周りに男子がいるときの喋り方だ。女に上目遣いしても意味がないのに。
……それにしても、よく次から次へと嫌がらせを思いつくもんだ。
「うん、何?」
せっかく屋上を独り占めできるのに……早く行きたい。もちろんそんなことは顔には出さない。
「あのね、お店の飾りつけのことなんだけどね」
「うん」
当たってほしくない勘とか予感に限って当たる。
「私たち、買出しに行かなくちゃいけなくなって。……飾りつけ、一人でお願いできる?」
あきれて物も言えない。まさかここまでするとは思ってなかった。だってクラスに迷惑がかかる。
「え、本当に一人で?」
やっと出せた言葉に木本さんは何の迷いもなく頷いた。即答。
「他の人にも頼んでみたんだけど、無理みたいで」
頼んでみたっていうのは嘘だと思う。でも、無理なのは本当だろう。それぞれ役割があって忙しそうなのは見ていてわかる。
「……やるけど、間に合わなくても知らないから」
言いなりになるのは癪だけど、仕方ない。ここで言い返したらきっとクラスに迷惑がかかる。
「ありがとう」
その五文字に一体どれだけの意味が詰まってるんだろう。
目の前の木本さんをひっぱたいてやりたい気持ちをどうにか押さえつけて、効果音がつくほどの笑顔で頷き返した。




