無防備な折り紙の、赤い風船
木本さんたちは、卑怯で陰湿だ。たちが悪い。じわりじわりと相手を追い詰める。
そもそも、どうしてなのか理由がわからない。
『いるだけでむかつく』
そんなこと、あんたたちに言われたくない。迷惑も別にかけていないのに。
きっと今頃かげで笑っているんだろう。靴の中に入っている大量の消しカスはわざわざためていたんだろうか。
「バカみたい」
むかつくのは、腹がたつのはこっちのほう。これくらいで負けたりはしない。
けしカスを思い切りぶちまけて靴を履いた。あくまでも冷静な顔をして。
負けたりは、しない。
*
屋上での時間は、癒しだ。見上げる空が青ければなおさら。
「邪魔」
……こいつがいなければ、いっそう。
「邪魔なのはそっち。どいてよ、そこ座るんだから」
段々と寒くなってきた最近、できれば日なたにいたい。
ここで昼休みに日が当たるのは、角のここだけ。日陰が少なくなるこの時間でも、周りの校舎のせいで日なたは少ない。
「あとから来てずうずうしい」
前とか後とか関係ない。寒い。
「ずうずうしくない。レディーファーストでしょ」
「……日本人のくせに、それこそ男女差別だよな」
そうぼやきながら、冴島は隅の隅に移動した。狭いけれど、それはしょうがない。
日なたの中でできるだけ離れて座る。きっとこの後、何の会話もなしにこいつは本を読んで、私は黙々と鎖を作るんだろう。
ページがめくられる音と、はさみが紙を切る音、時々聞こえてくる校舎の中のざわめき……それ以外は何もない。
そのとき突然吹いてきた秋風に、無防備な折り紙たちが何枚か飛ばされていった。
「わっ」
あわてて残りの折り紙を押さえたら、すぐに風が止んだ。ひらひらと舞い上がって落ちてくる赤とピンクの折り紙は、青い空によく映える。3枚くらいなくなったって、別にどうってことはないと思う。そのままほうっておいて、鎖作りを再開した。
*
『生徒会長、至急職員室まで』
冴島が立ち上がる気配を感じた。ふっと息を吐き出してから小さな足音。屋上の扉が開いて閉じたところで顔をあげた。
日なたが私だけのものになった。チャイムが鳴るまであと10分。きっともう、あいつは戻ってこない。遠慮なくど真ん中を頂こう。
移動しかけたところで、気がついた。コンクリートの上にちょこんと置かれた、赤い折り紙の風船。舞い上がった折り紙で、冴島が折ったんだ。
風が吹いたら頼りなく転がっていきそうなそれを、私はそっと手に取った。




