アイリスの魔法
「今までの魔法は、魔法陣を自分の代わりにしていたわけです。より強い魔法、より多くの魔法を使うには、多くの魔法陣を必要とした。そこはわかりますよね」
アイリスは人差し指をたてて、説明する。
「まあ、そこはなんとなくだがな」
「ですが、それではリスクが生じます。何かわかりますか?」
ウサミミではてなを作りながら俺に問題を出す。
まるで先生みたいだな。ソファに寝っころがってなければ。
それにしても、リスクねぇ。
魔法陣なんてものがあるなら、魔法陣を作る人もいるわけだ。そしてその魔法陣を売る人も買う人も。で、魔法陣は消費して使うんもの。つーことは・・・、
「コストがかかるってことか?」
「うーん、三角」
アイリスは渋い顔をする。あってると言えばあってるけど、もっと重要なことがあるということか?
「コスト以外だと・・・、分からん」
アイリスは、ふぅ・・・、ため息を吐いて顔に影を落としながらつぶやく
「人と、話さないといけないじゃないですか・・・」
「は?」
思わずおかしな顔になる。え?こいつ何言ったの?って感じの顔。
アイリスはぶつぶつと何か喋りはじめた。
「人と話すのって大変じゃないですか。わざわざ大勢の人がいる店の中に入って、広い店内の中を魔法陣を探して、忙しそうな店員さんに『魔法陣売り場どこですか』なんて聞いていいのか?すごく大変そうだけど。と思ってもびくびくしながら売り場を聞いて、魔法陣もそれなりに種類があるからそれを説明をするのに人と話すのが怖くて、声も小さくなって説明もすごくおかしくなって何とか魔法陣を見つけても、それを購入するためまた店員さんの所に行って・・・「わ、わかった!もういい!」
アイリスはドンドンと暗くなるからこれ以上は何も言わせない。
何てことだ、おれの師匠はかなりのコミュ症だったらしい。
「と、取り乱してすいません。まあとにかく私が我流の魔法を作ろうと思ったのは『人と会わないですみたい』と言う一心でした」
どんな理由だよ。そんな理由で新魔法が開発されていいのかよ。
アイリスは俺の微妙な視線に気づかず話を続ける。
「そこで、私が考えたのが魔法に条件を与えて使うということです」
「条件?」
「そう、条件です。つまり、曖昧だった魔法を明確にして使いやすくしたんです」
「条件っつーとどんな感じに?」
アイリスは手を口元に当て少し思案する。
「えーっと、大まかに説明すると、まずは魔力をどれくらい使うか決めます。そして、その魔力に、どんな属性かとか、どんなふうに使うかとか設定します。」
うーん、簡単にいうと塗り絵に色を塗っていくかんじか。
「とりあえず試してみる方が簡単です。手を出してください」
「・・・、痛くない?」
さっきの強制的に魔力を感知させる方法に若干トラウマになっている俺である。
「痛くないですよ。魔法使うだけですから」
アイリスは自分の手もだして、見本を見せようとする。
俺は少し安心しつつ警戒もしながら手を出す。
「警戒しすぎですよ・・・。まあいいです。まずは、体の中にある魔力を指先に少しだけ集めてみてください。少しだけですよ」
アイリスの言われた通り指先に集めるイメージをする。指先に魔力を集めると指が何かで包まれるような感覚がする。
「それじゃ多すぎですよ。もう少し減らして」
アイリスのアドバイスを聞きながら魔力を調整する。なかなか難しい。
「もう少し、もう少し・・・、ちょうどいいです。それではその魔力に色を与えましょう。イメージするのは、無難に火の色、赤やオレンジと言ったところです」
火の色・・・、オレンジや赤色のイメージ・・・、そうすると指先の無色だった魔力に色がついてきた。ぼんやりとしたオレンジに近い赤色だ。
「いいですね。センスがありますよ。次に形を与えます。火の形を考えてみてください」
俺は目を閉じ想像する。
火か・・・、ゆらゆらと揺れる火・・・、ぼうぼうと燃える火・・・、いろいろな形に変える火・・・、そういえば漫画で炎を龍の形にかえる技あったような・・・、そんなもの作れないかなぁ・・・。
「ちょ、ちょっと!何に変えてるんですか!」
アイリスの声に目を開け指先を見ると、そこにはちいさな火でできた龍がいた。
「うお!」
思わずのけぞってソファから落ちそうになる。
その間も龍はクルクルと指先を回る。なんか可愛い・・・。
「え、なにこれ?なんでこんなものが?」
指先でクルクル回る可愛らしい龍をもう一度見直す。
「はあ・・・、火をイメージするとき何か別のものイメージしたんじゃないですか?」
アイリスは手を額に付けてソファに座りなおす。(寝っころがっていたが驚いて落ちかけていたようだ)
まあ確かに、漫画みたいなことできたらいいと思ったが・・・。
漫画の力すげえな。
「でも、一応いいと思います。大事なのは妄想する力ですから。ちなみにそれでも完成ですがそれに威力を付けて飛べとでも念じたら立派な炎系の攻撃魔法にできますよ」
「ほぉ・・・、威力無しで飛べ!」
すると龍はゆっくりと指から離れてふわふわと飛び始める。
「なんか可愛いですね。私も作ってみよっと」
アイリスがそういうと、一瞬で片手の指の数のちいさな龍が生まれた。
赤い炎の竜、緑色の風の龍、黄色い光の雷の龍、土色のごつごつした龍、青い水の龍、それぞれがアイリスの指を離れてふよふよと空を飛ぶ。
「おおお・・・、一瞬とかすげぇな・・・」
「これでも城で務める魔術師ですからね。簡単ですよ簡単」
アイリスは無い胸・・・、いやあるにはあるんだがきっと彼女は着やせするタイプなんだろう、決してないわけじゃ・・・「失礼なこと考えてませんか?」「考えてません」
何故わかった・・・!これが城勤務の魔術師の力なのか!?
「まだ変なこと考えてそうですが、今日はこれでお開きにしましょう。外はそろそろ暗くなると思いますし、また明日教えますよ」
「もうそんな時間か。それじゃ、また明日から教えてもらおうかな」
俺たちは宙に浮いたソファから飛び降りる。浮いていると言っても2Mほどだが。
「所でこいつらどうすんだ?」
俺は頭上を飛ぶ6匹の龍を指さす。
「ああ、消えろとでも念じたら消えますよ」
頭の中で消えろと念じたら一瞬で龍は消え去る。意外と魔法って簡単なもんだ。
「よし、それじゃ。今日は、ありがとうな」
改めてアイリスにお礼を言う。その言葉の彼女はニッコリと笑って答える。
「いえ、私も久しぶりにまともに人と話しましたから。楽しかったです」
「久しぶりにって・・・、まあいいや、また明日な『アイリス』」
そういうと、何故か彼女は顔を真っ赤にする。
彼女は手をバタバタと動かし、そして俯いて答える。
「え、えっと!また明日・・・、です。『黒田君』」
★☆アイリス☆★
今日はとても良い日です。本当にこんなに良い日なら罰でも当たるのではないかと思うくらいに。
とても久しぶりに家族じゃない人とまともに話した。店員さんでも郵便屋さんでもギルドの受付のお姉さんでもないそれも、まったく知らない男の子(?)と。
始めは、モンスターでも来たのではないかと思ったけれど彼(本当に男の子なのかは疑問ですが)は普通に人だった。しかもユニークな異世界人。
話していると不思議なことに戦い方を教えることに。
そして、なんと明日も会う約束をすることができた。今からでもワクワクします。
でも、一番に嬉しかったことは名前で呼んでもらったこと。自分の名前です。
呼んでもらっただけで、『友達』と思われているように感じて。嬉しくて、恥ずかしくて、顔が真っ赤になりました。
だから、私も彼の名前を呼ぼうとしたけど、頑張っても『黒田君』が今のところは限界です。非常に情けない。
いつか普通に名前で呼べるよう、いつか師弟関係じゃなくて、本当の友達になりたい・・・、と思いますけど、それはかなうのかは疑問です。
私にできること、それは精一杯戦い方や、この世界の知識を教えることだけです。
よし、明日からまた彼に教える準備をしましょう。