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脱出!

ガチャン!


「「え?」」


 突然、大きな音がした。その方向を二人で見ると開いていたはずの扉が閉まっていた。


「し、しまった!」


 慌てて、扉に駆け寄り調べる。だが、押してもひいても扉は開かない。最初と同じく壁の一部になったような感じだ。


「くそっ・・・」


 扉をたたきつける。やって後悔した。痛い。


「あ、あの・・・私、やっちゃったみたいですか・・・?」


 アイリスが心配そうに声をかけてくれた。

 違うんだアイリス。顔をしかめたのは扉を叩いたときの痛さなんだ・・・なんて恥ずかしいから言えない。


「大丈夫・・・。閉じ込められただけ・・・」


「それ大丈夫じゃないですよね・・・。とりあえず、状況を説明してください」


 若干呆れられながら状況を改善しようとしてくれるアイリス。これがツンデレ!?


「さすが、アイリスさん!頼れるぅ!」


「ちゃちゃっと解決しますよ。ちゃちゃっと」


 俺は、朝起きてからのことについて話した。アイリスは魔法を一人で作り上げたほどだ、きっと何かわかるはずだ。


「どうだ、何かわかったか?」


「分かりません」


 真顔で即答でした。


「え、ちょ、わかんないの?自信満々だったじゃん・・・」


「ふう・・・」


「ため息、今ため息したよね?」


「ふう・・・、してませんよ・・・」


「した!今、したよねため息!」


 アイリスの目はかなり残念なものを見る目だった。


「いいですか?黒田君。状況説明で『あのさー、朝起きて扉をさ。がばっ!てやろうとしたらさ。超ビビったね。開かなかったんだよね。マジやばいわ』では分かりませんからね」


 すごいぜアイリスさん。俺が言ったことをそのまま覚えてるなんて!・・・言おうと思ったが目が怖い。その冷たい目が怖い!


「それしか説明しようがないし・・・」


 そういって、俺は扉を指さした。指が動くと同時にアイリスの顔も動く。


「とりあえず、開かないか試してみます。少し離れてください」


 アイリスは右手で俺を押して扉から遠ざける。


「え?なんで・・・」


 俺の質問に答えずアイリスは扉の前に行って行動を始める。

 扉を軽く叩き、叩いたところに手を置くとぼんやりと赤い光がでる。周囲の温度も上がってきた。

 おそらく、強い炎の魔法でも打つのだろう


「開かないんですよね。だから扉を壊すんですよ」


「ちょっと、待って!そんなことしたら巻き添えが・・・!」


 周囲の温度は一気に上がり、アイリスの手の周辺が真っ赤に光る。

 そして、光は大きくなり部屋全体を包み込んだ。


「うわっ!」


 慌てて目をつむった。


「あー、失敗みたいですね」


 アイリスが呟き、目を開けてみると扉はドロドロと溶け、見るも無残なことに・・・なっておらず代わりにカチンカチンに凍っていた。


「え・・・ええええ!なんでこうなってんの!?」


「だから失敗したって言ったじゃないですか」


 アイリスは氷漬けの扉をなでながらも誇らしげに言った。


「なんで、そんなドヤ顔してんだよ。大体、さっきの魔法の感じ『燃やし尽くすぜ!』みたいだったじゃん」


「ふふん、これが条件魔法奥が深いところなんですよ」


 アイリスは笑いながら肩をつかんで震えている。寒いならその扉から離れろよ・・・。


「どういうことだ?」


「簡単なことです。条件魔法の完成の瞬間に『あー・・・、そういえば三丁目のアイスクリーム屋さんつぶれたんですよねー・・・』と言うことを考えたからです!」


 またもドヤ顔。なんで、そんなこと考えていたのかはおいておく。

 俺が呆れているのに気付いたのか慌ててアイリスは説明を始める。


「つ、つまり!条件魔法はイメージが大切なのです!特に完成する瞬間に別のことを考えるとそのイメージの魔法になってしまうのです!さっきのように、途中までは『燃えつくすぜ!』の条件でも、最後にアイスクリームの『冷たい』みたいな条件が入ると全く違う魔法になるんです!」


 アイリスが耳をブンブン振りながら必死に説明する様子はすこし笑える。


「まあ、それは、置いておいて、扉が壊れないほど固くなっているのは分かりました」


 アイリスは白い息を吐き出し、肩をさらに震わせながら言う。だから扉から離れてこっち来いよ。

 パーカーを脱いでぽいっとアイリスに投げてやると震えながらもパーカーを着始めた。しかしパーカーが耳に引っかかってうまく着れないみたいだ。


「ちなみにその扉をさらに開きにくくしたのはお前だからな」


「五月蝿いです。他にもわかったことがいくつかありますから」


 パーカーを上手く着たアイリスはコホンと咳払いをする。


「分かったこと?」


(いやいや、あれで分かるわけがないでしょ) 


「なんですか!その顔は!」


 腕を組みながらニヤニヤと馬鹿にした笑みを浮かべていると怒られてしまった。


「すまんすまん。で?なんだ分かったことって。氷漬けの扉が冷たいことか?」


「違います!まず条件魔法が使ってあるってことです!」


「条件魔法?でも俺以外部屋には誰もいなかったぞ。それに条件魔法はアイリスの我流だろう?誰が使ったって言うんだ?」


 アイリスの魔法は我流。アイリスはかなりのコミュ症だし、条件魔法は危険だ。誰かに教えることなんてできそうにない。


(そういえばなんで俺には話しても大丈夫だったんだろう・・・)


「黒田君だと思います」


 ビシッとアイリスに指さされ驚く。


「俺!?俺は条件魔法なんて使ってないぞ?」


「起きている間には使ってないかもしれませんが無意識に使ったかもしれないじゃないですか」


「無意識って・・・」


 そういわれ、この前アイリスとの召喚についての会話を思い出す。


「それに、この魔力の味は黒田君のものでした!」


「魔力に味とかあるの!?それにどうやって食ったんだよ!?」


「こう・・・手からぱくってやるイメージで・・・。ちなみに黒田君の魔力はかなりいい味してました。ごちそうさまでした」


 アイリスは手を合わせながら食後の挨拶をした。冗談じゃなくて本気で食ったようだ。 


「俺が無意識で作った魔法だったとして、それならなんでこの魔法は起動し続けてるんだ?魔法に使われている魔力が尽きるとおもうんだが。あと、どんな条件なんだよ」


「まあまあ、一つずつ答えましょう。まず、起動し続ける理由は黒田君魔力が全部使われているからです。体に魔力が感じられないでしょう?」


 そういえば、さっき条件魔法を使ったときも全く使えなかった。今も、体を魔力を感じない。


「次に条件。詳しくは分かりませんが・・・無意識に使ったほどです。何かあったんじゃないですか?」


 何かというと団長の件しか思い当たらない。その件でのイメージや条件となると『逃げたい』『死にたくない』『会いたくない』みたいな感じだろう。


「何か心当たりがあるみたいですね。・・・もし、よかったら話してもらってもいいですか?」


「え・・・あーうん、話そう」


 一瞬迷ったが一応話すことにした。団長に出会ったこと、街の散策、団長が俺を守るため人を殺したこと・・・全部話して、アイリスを見ると俯いて震えている。


「確かに、それは兄です・・・」


 そうだよな・・・、俺のせいで自分の家族がそんなことをしたら・・・。


「くくっ・・・、あっはっはっはっは!」


 俯いていたと思うとアイリスは腹を抱えて笑い始めた。


「ど、どうしたんだ?」


「ひぃー、ひぃーひぃー・・・っぷあはははははは!!」


「どうした!大丈夫か!?」


 どうもツボに入ってしまったらしい。


「ごほっ、ごほっ・・・ごふっ、はあはあ・・・兄は人を助けるなんてそんな殊勝なことしませんよ」


「え?・・・でも」


 アイリスは一度深呼吸して話を続ける。


「兄は、そんないい人じゃありません。どうせ殺したのも賞金首だからとかでしょう」


 まあ、確かに、そんなこと言っていたような・・・。


「まあ、気に病むようなことじゃないですよ」


「気に病むなって・・・、でも「いいんですよ!気になるなら、あとで兄の所にでも行ってください。それより脱出です」


 パンパンと手をたたいてアイリスは話を終わらせようとする。

 まだ、すこし気になるが確かに今はそっちの方が大切だ。


「さて、今の話を聞いて魔法の条件は大まかにですが分かりました」


「本当か?どんな条件だと思う?」


「条件はおそらく『部屋から出たくない』ですかね」


 『部屋から出たくない』・・・だがそれだけでここまでの魔法ができるのだろうか。ドアは壁のようになって動かなかった。かなり強力なものだ。


「そんな条件だけでここまでになるのか?」


「まあ、そう思いますよね。でも今回の場合はかなり衝撃的で印象的なことがありましたよね。だから無意識に『部屋から出たくない』の条件を追及した結果こうなったと思うんですよ」


 アイリスは氷漬けの扉の前で手をかざし、息を吸う。フウッと息を吐くと一気に氷はドロドロと溶け扉が見えてくる。


「それで、部屋から出たいと考えてこんなふうに扉を壊そうとすると・・・」


 かざしていた手が真赤に光ると、光は収束して球体になった。球体はふわふわとゆっくりと飛びながら扉へ吸い込まれ・・・


ドォッォォォォッォォォォォン!!!!!!


 鼓膜を突き破るような音と共に爆発する。爆発によってできた炎はアイリスのかざした手の前で止まっていてここまでは来ない。どうやら魔法でバリアーのようなものをはっているようだ。


 爆発の炎はゆっくりと小さくなっていき、煤すら付いていない扉が現れた。


「やっぱ壊せないのか!」


「壊せませんよー」


 扉が壊れないことに一つも気にしないような間延びな声でアイリスは答える。

 そしてかざしていた手を降ろし服をポンポンと叩いてこっちに来る。


 俺の前まで来るとがばっと手を開き俺の腰をつかんだ。


「え!な、なんだよ!」


「うわっとっと・・・、動いたら危ないですよっと!」


 目を閉じるとふわっとした浮遊感に襲われた。なんだ!?と思い目を開けると体は地面から離れ、アイリスの肩に担がれていた。


「ええ!ア、アイリス!離して!降ろしてくれ!」


「じたばたしないでくださーい。危ないですから」


 足をじたばたしているとアイリスの開いているもう片方の手で押さえつけられる。


「情けない・・・。大の男が女の子に担がれるなんて情けねえよ!」


「黒田君見た目は美女ですから大丈夫です。あ、お姫様抱っこにしましょうか?」


「やめてください!」


 こ、こいつ楽しんでやがる!さっき馬鹿にして笑ったことを覚えてやがった!


 そうしながら、扉に向かうとアイリスは俺の体を両手でつかみ、重量挙げのように頭上に持っていく。

 そして、


「はい、ちょっと痛いですよー」


 ポーンとした効果音でも付きそうな漢字に投げ飛ばした。


(ああ・・・飛んでる、俺、飛んでる・・・)


 投げ飛ばされた先には扉があるためもちろん扉にぶち当たる。


「ぐぼぉ・・・!」


 扉は俺にぶつかりミシィ・・・と嫌な音を立てながら壊れる (・・・)。

 俺はそのまま扉を突き破り、外に投げ飛ばされた。

 ドサッと音を立てて、床におちる。


「でっひゅ!・・・痛いじゃないか!」


 よろよろと立ち上がりながらアイリスをにらむ。


「まあまあ、外に出られたからいいじゃないですか」


 ・・・え?


 周りを見渡すとさっきまでいた豪華な部屋ではなく長い廊下にいた。


「え?なんで?」


 そうつぶやくとアイリスは指を立てながら得意げに胸を張る。


「今のは部屋から出ようとして出たんじゃなくて、投げ飛ばされて結果的に出たんです」


「・・・!ってことは、自分から部屋から出ようとしたらダメでも、出ようと考えずに外に出たら部屋から出ることができるってことか」


「そうです。これが条件魔法の抜け穴です。言葉や考え方で魔法の効果があったりなかったりするのです!すごいでしょう!」


 さすがアイリス。今のアイリスは鼻が長くなっているように見える。つまり天狗になっている調子に乗っているということだ。


「なあ、今の俺は投げ飛ばされて出たけど、アイリスはどうやって出るんだ?」


「あ・・・」



 ちなみにアイリスはこの後、自分に爆発の魔法を使いその反動で外に出たのだった。

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