泣き虫な二人
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「うおおぉぉ・・・、こっち、くるなああ・・・!」
現在の俺の位置、タンスの上。
ゴキブリ、タンスのすぐ下でかさかさ。
勝ち目がない!
俺は奮闘(部屋にあったものを投げる、逃走を試みるなど)したがどうしても奴は倒せなかった。
奴は、まるで風のように部屋を駆け周り、とらえることなどできない。
「ううっ・・・、母さん、母さんさえいればゴキブリなんぞスリッパの餌食なのに!」
ちなみに父さんは俺と同じでゴキブリが嫌いなので役に立たない。
「あ、やばい・・・涙出てきた・・・」
目頭が熱くなるのを感じながら何か他の手を考える。
「タンスの上からの攻撃・・・スリッパなんてないし・・・なにか遠距離・・・ハッ!」
最高でクールなアイディアを思いついた!
そうだ、魔法で焼き尽くしてしまおう。
「クッハッハッハッは!ゴキブリィ!これでお前もおしまいだ!」
アイリスに教えてもらった条件魔法のやり方を思い出す。
「まず手に魔力を集めて・・・集めて・・・集まらない?」
どういう訳か魔力が集まらない。それどころか体の中に魔力を感じない。
「どういうことだ?・・・って、来た!近づいて来てる!」
俺が魔力を集めようとしている間に奴は近くの柱を上ってきている。なんたる素早さ!なんたるきもさ!
「いやああああああああああ!!来るなああああ!」
カサリ、カサリと奴は柱を上る。俺のもとに来るのは一分もいらないだろう。
どうする、どうするんだ・・・!
①闘う 絶対無理
②逃亡 どこへ?
③タンスからジャンプ 飛び降りた瞬間奴は飛行する可能性大
「むり・・・無理・・・」
俺は、ここで死ぬのか?いやだ!絶対にそれだけは嫌だ!元の世界に帰って俺は親に会ってただいまって言うんだ!高校を卒業して、大学行って、いい仕事について親に恩返しするんだ!そんで社内恋愛で結婚するんだ!
そんな夢が壊されてたまるか!
その時俺の主人公スキルが目覚めたのか、ピンチになって名案が思い付いた!
それは・・・
「助けてぇぇえぇぇぇっぇえぇっぇぇ!!!!!!!!!」
④助けを呼ぶ
戦いは、終わりを向かえようとしていた。
sideout
アイリスside
「・・・人はいませんね」
アイリスは城の廊下を誰にも見つからないように歩いていた。それは、さながら某蛇の人のような動きだった。
(見つかったらめんどくさいですからね・・・)
アイリスは城では研究者として働いているが、基本的に外に出ることが少ない。アイリスの顔を知っているものは異常に少ないわけで、もしも兵士に見つかったら即逮捕。逮捕されて事情聴取されている時はアイリスは対人スキルが低く、喋ることができない。よって、兄が来てくれるまで帰ることができない。(一度そういう目にあって3日ほど捕まっていた)
「むっ、黒田君の気配がこっちから!」
気配察知、アイリスの特技の一つだ。幼いころから父に鍛えられたアイリスは生物の気配なら約一キロほど察知できる。しかも探そうと真剣に思っている人の気配なら例えゴミ箱に居ようと、砂漠の砂の中で埋まっていようと、海の中で沈んでいようと見つけ出すことができる。なんと便利なストーキンg・・・気配察知。
『助けてぇぇえぇぇぇっぇえぇっぇぇ!!!!!!!!!』
「この声は、黒田君!?」
正に今探していた正平の声だった。アイリスは声が聞こえた部屋に走って行く。
「黒田君!大丈夫ですか!」
大きな扉を蹴り飛ばして部屋に入る。中に入るとタンスの上で泣いている正平がいた。
「これは!?」
部屋には恐ろしいほど魔力が充満していた。魔力は異常な濃度で酔ってしまいそうだった。
頭を大きく振って正平を見る。魔力は正平の魔力だった。
「どうしたんですか!?」
「ゴキが!ゴキブリが!」
泣きながら正平が指をさす方向を見ると柱に普通より少し大きいゴキブリがいた。
「え?」
「無理!助けて!」
必死に叫ぶ正平の様子を見てアイリスは気づく。
(まさか!あのゴキブリがこの魔力の原因?)
違う。が、アイリスの行動は正しかった。床に向かって手を伸ばし魔力を出す。魔力はアイリスの手から素早く床を駆け巡り柱へと到達する。柱にたどり着いた魔力はカサカサと動くゴキブリの進行方向でとどまりぐるぐると渦巻く。
そして、ゴキブリがその上を通ると同時に柱から鋭い槍が突き出した!
ぐちゅり
そんな音を立てながらゴキブリは息絶える。槍からはゴキブリの体液が滴り、羽ももげ落ちそうになっている。若干ぴくぴくと動いているのを見た正平は顔を真っ青にしてアイリスに向かって飛びついた。
「うわぁっぁあぁぁん!アイりスぅぅ!!!気持ち悪かったよォォォォ!!」
「く、黒田君!」
抱きついた正平を支えながらアイリスは思う。
(何この人、可愛い)
「ありがとう!けどやり方が!やり方が怖いよ!」
「えっと、どういたしまして・・・あ、焼却処分しておきます」
アイリスは元ゴキブリに向かって炎の魔法を放った。ゴキブリは燃えカスすら残さず散って行った。
(あ、ゴキブリこわかっただけですか)
勘違いに気づいてアイリスはこの部屋の異常な魔力について考える。この部屋の魔力は何故だか外に全く漏れていなかった。充満している魔力は正平がゴキブリを倒すために出したのか、それとも・・・
(自然に流れでて・・・「ほんと、アイリス大好き。なんでもするわ。俺、何でもしちゃう」
思考は正平のその言葉で止まった。
アイリスは抱きついている正平の肩をつかんで自分の目の前に持ってくる。きょとんとした表情の正平を見ながら考える。
(え、いいの?いいの、ホントに?今何て言った?大好き?何でもしちゃう?それってまさか名前呼びどころかいわゆる愛称と言う物までですか?なんでも?)
「ど、どうした?アイリス?目が怖いぞ?」
動揺する涙目の正平を見てアイリスの思考は加速する。
(別に何でもするってのは一つだけって言ってませんし、愛称で呼び合う、友達になる・・・この二つでいきましょう。いや、でも強制は・・・。でもでも、大好きって言ってたし・・・)
(ハッ!まさかアイリスは俺に幻滅したのか!?年上の大の男が虫程度で泣いたことに・・・。きもい?俺キモイ!?)
正平も盛大な勘違いをしていた。
「・・・あの、何でもしてくれるんですよね・・・」
「は、はひっ!何でもします!」
二人の目と目が合う。一方はキラキラとした希望の目、一方は絶望のどん底に落ちてしまったという目。
「じゃ、じゃあ!友達!友達になってください!」
「へ?俺らもう友達だろ?」
再び、沈黙が流れる。
(え?なになに、もう友達?会ったその日から友達ですか?へ?聞き間違い?)
「もう一度、言ってください」
「俺らもう友達だろ。・・・ってもしかしてお、俺の勘違いだった・・・?」
正平がそういうとアイリスは崩れ落ちて、涙を流し始めた。
「えええっ、ちょ、なんで泣いてるの!?え?ほんとに俺のキモイ勘違い!?泣くほど嫌だった!?」
慌てて正平もしゃがみこんで、気づいた。笑いながら泣いている。
「ぅうひぐっ。違います・・・。嬉しいんです・・・。本当に友達でいいんですか?」
アイリスは尋ねる。
「当たり前だろ」
それに正平は笑いながら答える。
「友達なら休日、遊びに行ってもいいですか?」
「そうだな、二人で遊ぼう」
「友達なら、手をつないでくれますか?」
正平はアイリスの手をつかんで答える。
「ほら、つないだ」
「後悔しませんか?」
「するわけないだろ。なんでそんなに心配するんだよ?」
「・・・あ、愛称とかで呼び合ってもいいですか?」
「許可取るようなものじゃないだろ・・・。二人で考えよう」
「ぐすっ、もう一回聞きますけど、本当に、本当に友達になってくれますか?」
アイリスは正平の目を見て尋ねた。
正平もアイリスの目を見てこたえる。
「こっちから頼みたいくらいだ。これから正式に頼む。友達になってくれ」
アイリスは握っていた正平の手を強く握って答える。
「不束者ですが・・・、お願いします」