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開かないトビラとウサミミ少女の戦い

 着替えも終わったのでこれからのことについて考える。

 とりあえずまず行くのはアイリスの図書館だ。そこでアイリスに会って団長のいる場所について聞こうと思う。謝らないといけないし。


「あ・・・、ただ苗字が同じって人だったらどうしよう」


 なんかそんな気がしてきた。肌の色も違うし。


「んー・・・、とりあえずアイリスの所行くかな」


 目的も決まったところで外に出ようとへやの扉を豪快に開け・・・開け・・・・・・開け・・・


「・・・開かない!?」


 何故だかわからないが、扉はまるで壁にでもなったかのようにびくともしない。

 カギは、かかっていない。てことは外に誰かいるのか?だが、ドアノブさえ動かないんだからそれはない。


「・・・え、ちょ・・・待って、なにこれ、マジでなにこれ」


 今度は押さずに引いてみるがびくともしない。


「破壊?破壊しちゃうよ?ほんと、マジで・・・」


 なんかもう言葉にならなくなってきた。


 一歩、二歩と引いて片方の足を引けるだけ大きく足を引いた。腰を思いっきり回して扉を蹴り飛ばす!


「ウオラァァぁ!!」


 決まった・・・。18年間生きてきた中で威力、美しさ、角度・・・すべてにおいて完璧な蹴りが決まった。

 蹴りの威力を示すように扉は木端微塵になっていた・・・なんてことがあったらいいな。


「・・・痛い・・・足、痛い」


 思わず足を抑えてしゃがんだ。


 実際は違った。木端微塵になりそうになったのは俺の足だった。

 蹴りはまるで吸い込まれるかのように扉にぶち当たったが、扉は汚れ一つつかなかった。


「・・・もうやだ。やだ・・・やだ・・・痛い」


 うずくまって俺はゴロゴロと転がる。


ぐぅぅ~


「腹の虫なったし・・・」


 実際に腹の虫がなることなんて初めてだ。腹がなってとてつもなく空腹を感じ始めた。


「・・・腹減った」


 のろのろと立ち上がって、また倒れる。


「・・・無理だわ・・・無理」


 自分でいっておきながら何が無理なのか意味が分からない。


 と、その時だった。小さな音が聞こえた。


カサリ


「・・・!」


 確かに聞こえた。幻聴ではない、何かが動く音。

 何か、いる。それはもしかしたら俺をこの部屋に閉じ込めた張本人かもしれない。

 だが俺は振り向けない。


カサカサ


 心臓がバクバクと鳴る。この音、元の世界でも聞いたことがある。


カササッ


 音から距離を取るためにゆっくりと右足から立ち上がる。振り向かないように壁の方に向かう。

 一歩、また一歩と歩いて行くが音はしない。やっと壁までついた。


「・・・落ち着け・・・ここは別の世界だ。奴 (・・・)がいるはずがない」


 背後の小さな音を確認するために首を曲げる。

 気づけば頬に汗が伝っていた。


 ゆっくりと俺は振り向き、見つけてしまった。


「おい、おいおい・・・冗談だろう?」


 目の前には俺の期待を裏切り、奴 (・・・) がいた。


 全長は俺の親指より少し大きい程度。黒光りする、まるで金属のようなつやがある楕円型の体。頭にはぐにゃりと曲がった長い触角。そして六本の足。


 体中に鳥肌が立ち、ゾクリと悪寒が走った。俺の頭の中で警報が鳴り続ける。


「何で・・・何でいるんだよ・・・!」


 そう、元の世界でも何度か出くわした奴 (・・・)だ。


「ゴキブリ・・・!!!」


 開かないトビラ、強力な魔物・・・大きな戦いが始まろうとしていた。




sideout



アイリスside




 ペラリ、ペラリと静かな部屋で少女は本を読んでいた。

 少女は地面で正座をしながらギラギラと目を輝かせながら読み続ける。ギラギラとした目の下には隈ができていてかなり長い間本を読んでいたことがわかる。その証拠に少女の周りには山のように積みあがった無数の本が彼女の周りを埋め尽くしていた。

 本はページ数や大きさは違ったが、すべて似たようなものだった。


『神速、友人作り』 『貴方も人気者!?人との話し方』 『スライムでもわかる友達作り』 『コミュニケーション能力完全解読書~超~』『友達いっぱいできるかな?』


 彼女・・・アイリス・カメリアは、友達作りの本を読んでいたのだ。


「・・・積極的に話しかけましょう。それだけで好感度アップ・・・。なるほど・・・」


 ぶつぶつとつぶやきながらアイリスはまたペラリと本をめくり次のページを読んでいく。

 そんなことがしばらく続いて彼女はふっと周りを見渡した。


「あれ・・・もう朝ですか・・・」


 窓からは既に明るい陽射しが差して部屋を照らしていた。


「あ!黒田君は・・・!」


 慌てて、寝巻から服を着替える。タンスに向かい、最近人気の出ているブランドの服を手に取った。彼女が手にとった服は正平の元の世界の服と似ているものだった。


 服を着替えてはるか遠くの洗面台まで走って行く。地面に転がった無数の本に足を取られそうになりながらもなんとかたどり着く。


「もう、なんでこんなに無駄に広いんですか!」


 あなたです。この部屋を設計したのあなたですよ。


「うわ・・・肌が、隈が、ひどい」


 鏡を見て思わず愕然とした。当たり前だ。昨日から今日の朝までずっと集中して本を読んでいたのだから。


「こんな時に便利な条件魔法~♪といっても自分の体にするのは怖いです・・・」 


 条件魔法はまだ未完成な魔法。下手をすれば自分の体がぐちゃぐちゃになるかもしれない。

 よって、久しぶりにメイクセットを取り出して使うことにする。


「ぱぱっと終わらせちゃいまかすか」 


 肌荒れや隈をメイクで目立たないようにしたところでずっと読んでいた本の内容を思い出した。


「そういえば本にも『男の子は女の子が迎えに来るとチョー好感度アップしちゃうよ♥』と書いてありましたし・・・向かいに行ってみたらいいかもしれません!」


 鼻歌を歌いながらメイク道具を片付ける。

 そして、鏡の前で自分の顔を見て言う。


「今日は、今日こそは・・・言います。黒田君に『友達になってください』と!それと名前呼びの許可も!」


 アイリスの方でも、大きな戦いが始まろうとしていた。

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