トラウマと服
「ん・・・んん?ベット、固い・・・」
指で確認するとふかふかとした感触じゃなくて冷たく固い感触がする。ベットではないようだ。
ゆっくりと目を開けるとそこから少し遠くにベットが見える。
「あれ?」
俺は部屋の隅で寝ていた。何故か体育座りで。
こんな所で寝ていたからベットから落ちて転がったということはないだろう。
「あらら?俺は昨日・・・」
何となく頭に手をやると髪がカピカピとした感触がする。のりでもかかったかのように髪がくっ付いている。
髪を一つまみしてみてみると髪の黒色と別の色。
「んー・・・、くすんだ赤色か?」
寝ぼけ眼をこすりながら考える。
鼻血?にしては量が多い。
・・・鼻血、・・・血・・・!
すぐさまトイレへ駆け込む。トイレに入ると便器の前でしゃがんで、
「ううヴえええぇぇっぇ・・・」
吐き出した。
「あー、昨日・・・ううえっぷ」
思い出しながらもう一度軽く吐く。昨日と合わせて何回目?人間以外と吐けるもんだなぁ・・・などとおかしなことを考える。
便器の中は透明な水はもう見えず、代わりに何ともいえない黄色味と匂いで埋め尽くされている。
そうだった、思い出した。昨日、俺は人が殺される現場を見た。俺が襲われそうになって、団長が俺を助けるためにスキンヘッドたちを殺した。
それで、パニックになった俺は自分も殺されると思い込んで団長の手を振り払い、逃げ出した。
「はあぁぁぁぁぁ・・・、団長に謝らないと」
振り払った手を見る。俺の手はいつもより真っ青でかさついていて、震えていた。
「団長は助けてくれたのに、なんでビビってんだよ」
自分の手を握り締める。
かなり、ナーバスになっている。
立ち上がり、水を流す。ここのトイレはどんな魔法か知らないが俺の世界と似ていて助かる。
「はあ・・・、シャワー浴びよう・・・」
シャワーを浴び終えて、タオルで体をふきながらあることに気付く。
「あれ・・・、俺、服がない・・・」
先ほどまで着ていた学生服は血で汚れて正直、着たいと思わない。
この部屋に服がないわけではないが、それを着ようとも思わなかった。だから、今までは学生服を着まわしていた。
「・・・着るのか?あの服を?いや、駄目だろ」
自問自答。
「だが・・・、メイドさんがタンスの中の服を入れ替えてくれている可能性も・・・」
希望を持って俺はタオルを腰に巻いて歩き出す。
タンスの前たって深呼吸する。
目の前のタンスは俺の身長より低いが、何故か大仏のように大きく感じる。
胸の前で手を組んでお祈りのポーズをする。
一段目の棚に手をかけ一瞬だけ迷うが、思いっきり棚を引く。
中には・・・
スカート・・・、ワンピース、スカート、ワンピース、スカート、スカート、スカート、ワンピース(おしとやか)、スカート、スカート、スカート(短すぎ)、スカート、ワンピース(大胆)、スカート、スカート、スカート、スカート・・・・・・
「アウト・・・」
ゆっくりと棚を閉じた。
「何故、女物しかないんだ・・・」
そう、このタンスには女物の服しかない。何故だ。
先週、タンスをみてすぐにメイドさんに頼んでおいたのだが変わっているのは柄だけで男物の服に入れ替えてもらえて無い。
ツーっと心が涙を流しているのを感じつつ希望を持って二段目に手をかける。
「ボーイッシュ・・・せめてボーイッシュ・・・」
もう一度、今度は目をつむりながら思いっきり棚を引く。
そして、閉じた。
「・・・下着・・・女物」
キツイ、そろそろ精神的にきついです。俺は女の子のを見るのはいいですが自分がはくのは嫌です。
「魔窟だ・・・、このタンスダンジョンだわ・・・」
俺は気づいてしまった。このタンスは大仏ではなく魔物がすむダンジョンであることに。
「調べるのやめよっかな・・・」
その方が楽だと思いたくなるが腰にタオルだけではまずい。外に出られない。
逃げ出したくなる気持ちを抑えてタンス調べていく。
結果、黒い服に白いパーカーらしきものそしてジーパン。
「・・・元の世界と同じじゃん」
鏡の前で立ちながら俺は呟いた。
何故かタンスにあった普通の服。