黒兎に出会った3
今回は、ちょっとアレかも・・・。ええ、アレです。前回に引き続き残酷描写ありです。
「な、なんだこいつぅぅ!」
「やべえよ!」
のっぽの男と太った男がうめく。
それを見る団長は、いつもと変わらない、無表情だ。
「くっそぉ!相手はたったの一人だ!!4人で行けば殺s「ぶぎゃあああぁお!!!!!」
太った男が喋り終わる前にのっぽが横へと吹き飛んだ。のっぽの顔はぐちゃぐちゃになり、面影もない。 そして、のっぽの顔があった場所には代わりに団長の長い脚がある。蹴りを入れたんだ。
「んー・・・お前ら、賞金首?この前、手配書で見た」
団長はが垂れ耳を引っ張ったり肩を回したりしながら言う。
「ああ!?それを知ってんのに俺らに喧嘩をうぅぅぅったのかああああ!?ふざけてんじゃねえぞお!おい!魔法陣の容易だぁ!!」
「「おう!!」」
太った男がそう指示すると残りの他の男たちが腰の袋に手を突っ込む。袋に突っ込んだ手には大量の紙が握られていた。魔法陣だ。
男たちは、握った魔法陣の何枚かを空に投げる。
「ウォーター!」
「雷光!」
男たちが魔法の発動のキーワードを唱える。
すると、宙を舞う魔法陣から水でできた丸い弾丸と、鋭い剣のような雷が団長に向かって打ち出された。
水の弾丸と雷の剣が団長を貫こうとした時、団長の姿が一瞬ぶれる。魔法は団長の後ろの壁を吹き飛ばす。
次の瞬間には、雷の魔法陣を投げた男の後ろに剣を横に振りかぶった団長がいた。
「・・・三人目」
団長が小さな声で言う。
「ひぃあ・・・!」
男は叫ぶ間もなく、ずるり、と体が二つに分かれる。
体は、ぐちゅりと言う粘着質な音をたてながら地面を赤黒く汚す。
呆然と、賞金首たちは二つに分かれた男を見るだけだった。
ガタガタと震える水の魔法陣を持つ男は、顔を覆う。
太った男は団長をキッと睨むと脂肪で覆われた醜い顔をぶるぶるとふるわせながら駆け出す。
「くっそぉおがあ!!なんだってんだぁああ!??このやろおおおおおぉぉぉ・・・おぉあ?」
錯乱した太った男が手に握ったありったけの魔法陣を投げながら団長に突っ込んでいく。
まばゆい光を発しながら魔法陣は太った男の手に集まり、長く集束していく。光が大きくなると男の手には男と同じくらいの大きな剣が握られていた。
しかもその剣は、刀身が荒々しく燃えていた。熱気はこちらまで感じることができる。
「・・・魔法付加の、剣か」
「ううぅらぁぁぁぁああぁ!!」
男は大剣を大きく振りかぶり、団長を斬ろうとする。いや、あの剣だ。叩き潰すと同時に炎で焼き尽くそうとしていると言った方が正しいだろう。
だが団長は臆することもなく、右手に持った剣を頭の上に構える。
大剣が、団長の細い剣を叩き付ける!
叩きつけたと同時に炎は真っ赤に燃え上がり火柱を立てる。
「だ、団長・・・!」
その呟きは、轟々と燃え上がる炎の音にかき消される。
「ひいぃぃっはああああ!!!燃えちレエェェェッェ!!こんのくそやろぉぉがああ!!」
男は団長の剣を自分の大剣と腕力でぶち壊そうとする。
「はっはあああああああ・・・、ってああ?なんで、動かねえんだぁ?」
いつまでも男は、つばぜり合いをしているが大剣は一向に振り落とされない。
「・・・そろそろ、いいか?」
声が、聞こえた。
次の瞬間に、団長に火柱を上げていた炎は、男の方を向く。
「ぁ・・・、あアアああアアぁッぁァぁぁぁ!!」
男は、唸り声にも似た叫び声をあげる。
男の体が、炎に焼かれている。しかも炎は先ほどより一回りも二回りも大きくなっている。
「服が・・・、まあ、いいか」
団長は自分の服についた煤を軽く払う。
「・・・あと一人」
「ひい・・・くっそお!」
水の魔法陣の男がこっちに向かってきた。
「ぐっあ!」
俺は地面にへたり込んでいたため、反応が遅れてしまい男に捕まれる。
男は俺の首元に魔法陣を当てる。
「お、おい!こいつは、人質だぁ!う、動くなよおお!」
「・・・」
団長は静かにこちらを見る。
「へ、へっへへ・・・。人質が居りゃあ何にも出来ねえよなあ!」
男は唾を飛ばしながら言う。
「はぁ、はあ・・・。てめえ、思い出したぜ・・・。胸糞わりィ、この国の騎士団長だなあ・・・?」
「・・・そうだが?」
何も感じさせない声で団長は答える。
「やっぱりなぁぁ・・・。歳はまだ若く、浅黒い肌、血みてぇに真っ赤な目ん玉、絶対に動かない表情、垂れた黒いウサミミ。
そして、何より、異常な強さと殺しをなぁんにも感じない冷酷さ・・・。
最強の騎士団長『黒兎』のアーク・カメリア!」
「!」
心臓が飛び出るかと思った。
団長、アークはアイリスの兄。
「ああ?なんだ、この女知らねえのか?」
どうやらこの男は勘違いしているようだ。
「へっへ、まあいい。騎士団長さんよ・・・、まずは剣を捨てな。剣があったら何されるか分かんねえからな・・・」
アークは、一度だけ右手で持つ剣に目をやって、また男を見る。
「おい、さっさと捨てろ!」
アークは、その言葉を気にする様子もなく剣の切っ先を男に構える。
「は?な、何やってんだぁ!?女がどうなっても・・・」
男の言葉は続くことがなかった。
何故なら、男の顔にはアークによって投げられた剣が刺さっていたからだ。
糸が切れた人形のように、男は倒れる。男が倒れて、刺さった剣も一緒に倒れる。
一度、周りをぐるりと見渡す。
立っているのは、俺とアークの二人。
落ちているのは、五つの死体と魔法陣。
首、血、肉、肉、血、血、上半身、血、肉、肉、腕、肉、下半身、肉、肉、血、血、魔法陣、肉、肉、血、魔法陣・・・・・・
気持ち悪い。忘れていたような吐き気が、押し寄せてくる。
それを、地面にぶちまけた。
口の中に酸っぱい味が残って、また気持ち悪くなって。
また、吐き出す。全て、胃の中のものを全て。
「うげぇああ・・・」
涙が出てきた目をこすってふと横を見る。
剣が刺さって顔のつぶれた死体だ。
アークは、人質の俺が居ても容赦なく剣を投げた。
外れたら俺に刺さっていたかもしれないし、男が魔法を使ったかもしれない。
どちらにしろ、俺は地面に落ちている『もの』になっていたかもしれない。
ただの死体に。
突然、目の前が揺れ始めた。激しくだ。
地震かと思ったが違う。
俺が震えているだけだ。ガタガタと震えている。
歯がガチガチと鳴る。
足音がして、目の前を見るとアークがいた。
アークは、剣を腰に差し直して血にぬれた手を差し出す。
「大丈夫か?」
俺は、答えることができない。ただ体を抱きしめ震えるだけだ。
血にぬれた手を見て、思い出す。
人を容赦なく殺した手、この手で剣を持って殺した。
助けてくれたのは分かっているが、怖くて仕方ない。
俺も、殺される。
そう思ったら、止まらなくなった。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
差し出された手を払ってがむしゃらに走り出す。
路地裏から走り出して、誰かと肩があったっても、呼び止められても、息が荒くなっても、走った。
いつの間にか、俺は城の自分の部屋にいた。
着替えもせず、部屋の隅でガタガタ震えた。