黒兎に出会った
新キャラ登場!ですです。
この世界、アリデクロスにやってきて既に一週間が経過した。
この一週間、アイリスと魔法の練習をするついでに召喚魔法について調べてみた。
だが、進展なし。どうやら、勇者召喚魔法は国家機密のレベルの魔法らしい。確かにホイホイ異世界人をよんでいたらこの世界は異世界人だらけになる。
一度、アイリスに召喚を条件魔法でできないか聞いてみたが答えはNoだった。
『条件魔法は、条件がそろってないと無理なんですよー。世界の座標やら何やら分かれば可能なんですが・・・。』
とのことらしい。ちなみに他の案として王を脅すという案がアイリスの口から飛び出したが丁寧にお断りした。
他の案はないのだろうか。
「あー、だめだ・・・。全然思いつかnいだっ」
考え事をしながら歩いていると誰かにぶつかってしまった。
目の前を見ると、真っ赤な目と目があった。
「うおおっと・・・、すいません。ちょっと考え事をしてたもんで・・・」
「俺も、すまなかった」
改めて顔を見るとかなりのイケメン。身長は俺と同じくらいで少し浅黒い健康的な肌。目は兎のように真っ赤で髪の毛は若干パーマ(多分天然パーマ)の様になっている。
服装は黒いゆったりした服で腰には剣が差してある。ちょっと変だ。
まあ、イケメンは何着てもイケメンだ。おかしすぎるって訳でもない。これだけならワイルドな感じのイケメンだ。
だが、ワイルド(?)となってしまうものが一つある。それは・・・、
「・・・どうした?」
「え、いや!なんでもない!ウサミミなんて気にしてないぞ!」
頭の上で垂れている真っ黒なウサミミ。現在進行形でぴょこぴょこ動いている。
(アイリスが白兎ならこいつは黒兎だな)
「・・・そうか」
(うわー、なんだろこの気分。昨日まで女の子のウサミミ見てて可愛いー・・・、なんて思ってるから男にウサミミってなんだかなー・・・)
「君は、異世界人か?」
男は無表情に尋ねる。
「え!なんでそれを!・・・て、あの召喚の部屋に居たらそりゃ知ってるか」
「・・・そうか」
男は手を顎に当てて何か考え始める。しかめっ面ではなく無表情で。
ただ、ウサミミはせわしなく動いているが。
「・・・もし、よければ話を聞きたい」
「!・・・なにを?」
・・・ついに来たか、と言う気分だ。
こいつは、もしかしたら俺たち異世界人に取り入ろうとする奴かもしれない。例え、勇者じゃなくとも異世界人ってだけで金になる。
異世界の技術を狙うもの、異世界人の力を狙うもの、異世界の政治の概念を知ろうとするものなんているかもしれない。
「何を・・・。何を聞こうと思っていたのだろう?」
男が無表情で首を傾げると共に俺は『あ、この人ただの天然だ』ということに気づくのだった。
「もぐもぐ・・・、好きな食べ物は?ごっくん」
男はサンドイッチのようなものを食べながら俺に尋ねる。
ここは城の食堂。俺たちのほかにも城に住む人々が朝食をとっている。
男は話を聞くついでに朝食をとろうということで食堂にやってきたのだ。ちなみに今日のアイリスとのマフの練習は休みだ。さぼっているわけではない。
「なあ・・・、物を食べながら話すのやめろよ」
「・・・すまない」
無口なワイルドイケメンのイメージがガラガラと崩れる。
「まあ、好きな食べ物って言うと・・・、アップルパイ・・・って分かるか?この世界にあるか?」
「ん、パイならある」
「つーか、なんでこんなこと聞いてんだ?ちなみにアップルパイってのは林檎って言う丸くて赤い皮の果物のパイだ」
「何故と言われても・・・。聞きたいことを、忘れたから。果物のパイか・・・」
やっぱり天然なのかこいつは?
そんなことを思っているうちに男はあっという間にむしゃむしゃと皿の上のサンドイッチを食いらげてしまった。
「特技は?あ、そのサンドイッチ食べていいか?」
「特技・・・、指パッチンだな。いいわけあるかドアホ」
「チッ、もう一つ、頼んでくる」
無表情に男は席を立ちカウンターに行くのだった。
「ホントになんなんだ・・・、あいつ」
カウンターに行った男を見ているとどうもあの男の周りだけおかしいことに気付いた。
何がおかしいって、周りの人がさけてるんだ。肩がぶつかったやつなんか土下座をしている。
「ただいま」
「お帰り・・・、なんかお前の周りの人お前のことビビってないか?」
「いや、そんなことは・・・」
と言って男は振り向く。するとこちらの様子を見ていた人たちが一斉に顔をそらした。
「・・・、俺は騎士団長だから人に恐れられるくらいでちょうどいい」
そういった男のウサミミは先ほどより垂れている。
明らかに沈んでるな・・・。
「あれ?お前騎士団長なのか?」
「ああ、そうだ」
ウサミミをプリプリと振りながらぶっきらぼうに言う。
やべっ、笑いそう・・・。
「父が、騎士で、幼いころから剣を兄弟と一緒に教わっていた」
「ふーん。兄弟いるのか。男?女?」
きっとこの男に似て天然なのだろうと想像する。
「ああ、年が下の奴がいる。性別はお前と同じだ」
「へえ、弟がいるのか」
「?妹だが」
「え?男だろ?」
「「?」」
二人で首を傾げる。首を傾げると同時に男の長い耳も横に傾く。
俺と男の間だけ静かになった気がした。
「・・・違ったら、悪いが。お前は、男か?」
「・・・男だ」
「・・・ごめん」
「いや・・・、いいよ。言われ慣れてるし・・・」
初めてみたこいつの無表情以外の顔は何ともいえないしかめっ面だった。