英雄は酒ビン片手に武器を振るう
一次創作の練習を兼ねてひとつ…。
とある世界のとある森林地帯…。そこは、その世界に存在するたった2つの国が戦場に用いる昔からの空白地帯。そこに居るのは、怪物の様な原生生物と亜人達のみ…。
そんな危険地帯のど真ん中で焚き火を囲む3人の人物が居た。イヤ、焚き火を囲むと言うには少し違うかもしれない。正確には、3人が“3つの焚き火を向かい合わせてる”と言った方が正しい…。
「おい貴様ら、その野菜と魚を今すぐ私に明け渡せ。」
「お断りだ馬鹿め。むしろ、お前らの肉と野菜をこっちに寄越せ。」
「もうヤダこの2人…。」
そして、互いに自分の確保した食料に火を通しながら他者を牽制していた…。
「『キルミアナ帝国』の軍人である私に貢献できるのだ。ありがたく思え“空賊”風情が…。」
「はんっ、帝国に払う敬意があったらテメェらの補給部隊なんか襲わねぇよ。」
「…いただきま~す。」
「「抜け駆けすんな魔法野郎!!」」
「いい加減勘弁してよ…。」
この3人の組み合わせは比較的…むしろ、すごく最悪である。何故なら、この世界は先述の二大国家による戦争の真っ最中なのだ…。
世界の西南の果てに存在する科学主義国家『キルミアナ帝国』、東北の果てに存在する魔法主義国家『マルディウス王国』。この2つの勢力は大陸の半分を空白地帯にしながら既に3千年近くも戦争を続けている…。そして、その2つの勢力をカモにしている盗賊や野盗の一団…。
要はこの3人、互いに敵同士なのだ…。
「そろそろ空腹も限界なんだ、君も彼を捕まえたいなら早くそうしてくれ…。」
今呻いた人物は、フード付ローブと軽鎧を纏った黒髪黒目の少年である。彼はその瞳をやや潤ませながらうんざりしたように訴えた…。
「そうしたいのは山々だ…。だが、こいつを捕まえようとして背後からお前に襲われたら堪らん。私とて貴様の通り名ぐらい知ってるぞ?『黒き戦虎・アスト』…。」
黒髪の少年…アストに話しかけられた人物は睨む様に見つめ返してきた…。しかし、アストと違いその人物は機械的な装甲で全身を包み、顔も食事をするためだけに口元しか開いてないので表情が分からない…。
「僕そんな異名ついてたの?…そう言う君は『クリムゾン・ストライカー』の『ヴェルシア』だろ?」
「む?よく分かったな…。」
「そりゃ、この辺で真紅の装甲兵は君ぐらいだろ?」
帝国の装甲兵は基本的にグレーであるが、目の前にいる装甲兵の色は真紅…。他者より目立つカラーリングというのは、敵に真っ先に狙われるものだ。それを敢えてやるのは馬鹿かエースだけ…。
目の前の人物は確実に後者だ…。アスト自身、出会うのは初めてだが噂は知っている。
「…ついでに君の噂もね、船長?」
「なに?」
「帝国と王国の両方を翻弄し、空白地帯に住む人々をあらゆる危険から守る…変人船長。」
「まぁ、否定はしねぇよ…。あと、せめて名前で呼んでくれね?」
「『ヘンジンダ・リーガ』だっけ?」
「『ヴィリアント・リーガ』だボケ。」
不意に話を振られたもう一人…ヴィリアントは、火を通していた魚から視線を戻す。正直言って、かなり美味しそうな焼き加減だったのでアストは涎が出そうになった…。
「こいつ…できる!!(料理が)」
「…欲しいなら、その野菜と果物と交換な。」
「喜んで。」
金髪蒼目な3人目の提案を心良く受け入れたアスト…。あっさりと手のひらを返したアストをジト目で見つめるヴェルシアは溜息をついた。
「情けない…。空賊ごときに、マルディウス王国随一の魔法騎士が魚に釣られるなど…。」
そう言いながら抜け目無く2人の食料に手を出そうとするヴェルシアを、食料同盟の2人が防ぐ。
「そう言うお前はちゃっかり俺らのメシに手を出すな!!」
「僕のことを情けないと言ったそばからそれは無いだろ!?」
2人の抗議に、ヴェルシアは開き直って答えた。相変わらず顔は見えないが絶対にドヤ顔してる…。
「甘いな2人とも…。『敵に頭下げるくらいなら抹殺精神』を知らないのか?あんた達に頭下げるくらいなら倒して奪う方がマシよ!!」
「「…。」」
「ん?…どうかしたか?」
ヴェルシアの理不尽な宣言を聞いた彼らは硬直した。ちなみに内容にでは無い…。ヴィリアントとアストは互いに目を合わせ、頷いた。そして…
「よかったら、これどうぞ…。」
「俺のも分けてやるよ…。」
「…え?」
いきなり自分の食料を分け始めた二人にヴェルシアは戸惑う。この2人が今の言葉を本気にして自分を恐れる等と馬鹿なことは考えない…。しかも、なんか2人の眼差しが生暖かいものになったような…。
「な、なんでいきなり…?」
「気にするな、俺は気にしない。」
「この世にはね、知らない方がいいこともあるんだよ?」
今、まさしく知らない方がよかったことに気づいた2人は視線を逸らしながらヴェルシアに食料を分けてあげた…。当の本人はしばらく不思議がってたが、結局お言葉に甘えて食べ始めた…。
しかし、やがて後ろめたい部分があったのかやや俯きながら尋ねてきた…。
「…お前らも食べるか?…これ。」
そう言って自分が仕留めた鳥で作ったローストを差し出すが…。
「「いや、いいから食べとけ…。」」
「……うぅ…すまない…。」
理由は分からないかったが、明らかに自分の何かが引き金だったのは確実…。自覚はあるので罪悪感でいっぱいである。
遭難しかけた時点で、今の3人に“敵対勢力”という概念は無かった…。
「…。」
「…。」
「…まったく、今日は忙しいったらありゃしない。」
突然動きを止めた3人…。ヴェルシアに至っては魚にかじり付いた体制で固まってる…。
「空賊船のエンジンが壊れたと思った時には手遅れ…。船員共を逃がしてたら自分は間に合わずに死に掛けて、挙句の果てに墜落先が竜の巣…。」
愚痴りながらも、腰に引っさげた黒いサーベルを引き抜きながら立ち上がるヴィリアント…。焚き火の燃える音に混ざってシュランっと綺麗な音が響く…。
「お陰でその竜を討伐しに来た僕は大惨事…。さらに、どういうわけか帝国の部隊と鉢合わせ…。」
同じように呟きながら魔法使いの武器である長い杖、『スタッフ・ロッド』を構えるアスト…。
「その部隊は私のだ…。まさか、王国のエースと悪名高い空賊船長…さらには怒り狂った竜と同時に遭遇するとは夢にも思わなかったぞ?…むしろ、全部貴様のせいでは無いか?」
ヴェルシアはフルフェイスのヘルメットで口元も完全に塞ぎ、装備であるアサルトライフルを構える。まさに臨戦態勢だった…。
「因みに、俺の空賊船が壊れた原因は帝国の砲撃。しかも流れ弾…。」
「…なんか、すまん。」
「まぁまぁ、2人とも。取り合えず今はこの場で今日の鬱憤を…。」
-――互いの武器を向け合う3人…。
―――流れる沈黙…。
―――溜まりに溜まった今日の不運への怒りを…。
「「「叩きつけてやる!!」」」
―――互いに振り返り、自身の背後へと叩きつけた!!
「ぐああああああああ!?」
「くそ、こいつら気づいて…!?」
三人の背後…今は既に正面には、数人の人間が転がっていた。いずれも斬られ、吹き飛ばされ、撃たれた後がある…。
「お~う…どいつもこいつも見覚えのある奴ばかりだな?」
「奇遇だね、僕もだよ…。」
「…こいつらは、お前の同類じゃないか?」
彼らは大陸の空白地帯を住処とする盗賊団…。帝国と王国の両方から集まった無法者故、たまに国軍より恐ろしい集団の時がある。
もっとも、今の彼らに意味は無さそうだが…。
「おいおい、一緒にすんな。見境無い分、こいつらの方が性質悪いって…。」
「いいから早く片付けよう?逃げられちゃうよ…?」
「ふふっ、優しそうな顔して怖い奴だな…。」
アストの纏った気迫が変わり、ヴェルシアが苦笑を浮かべる。
「実は君も可愛い顔してるんじゃない?」
「な…。」
「お前の声って結構綺麗だもんな。軍人辞めてアイドルでもやったらどうだ?」
「な、なな…!?」
ヤバイ、2人とも気づいてる!?…アストとヴィリアントの物言いにヴェルシアは赤くなっていった。どうやらいつの間にかバレてたようだ……。
「…おい、名前は?」
「ん?自分で言わなかった?」
背中合わせの形のまま、ヴェルシアがアストに尋ねてきた…。
「違う、フルネームだ。」
「……『アスト・レナード・ミータ』。以後お見知りおきを…。」
「私は『フィノーラ・ヴェルシア』少尉だ…。しばしその背中、貸していただく!!」
「…いい名前じゃないか。」
「無茶すんなよ?…お嬢ちゃん?」
「言ってろ!!そして、魚と野菜の借りを返すだけだ!!」
言うや否や彼女は盗賊達に突貫していった…。紅い砲弾が銃弾をばら撒きながら敵を吹き飛ばす。
「…結局、そうなるか。」
「まぁ、いいじゃないか…【バスカヴィル・ショット】!!」
白い閃光が吹き飛ばされる盗賊の数をさらに増やす…。
「さて、俺もやるか……ん?」
足元に転がる何かに気づいたヴィリアントはそれを拾い上げた…。
「…酒か。」
「あ、貴様!!一人だけ何してる!?」
「ずるいぞ!!」
「だぁ待て待て!!」
―-―数年後、1つの酒瓶を奪い合いながら戦ったこの3人が世界を統一することは、誰も知らない…。




