悪役令嬢に転生してしまったので、筋トレしたら幸せな生活が手に入っちゃった!
この度は数ある作品の中選んでいただきありがとうございます。
この話の長編小説を書いたのでぜひ見ていただきたいです。一応URLリンク貼っときます。
https://ncode.syosetu.com/n0999mm/
「――フランシスカ・アイゼンベルク! 貴様のような笑わない女など、我が王家の妃の座にふさわしくない! 今この場をもって、貴様との婚約を破棄する!」
きらびやかな魔法具のシャンデリアが眩いばかりに照らす、王宮の熱気溢れる大夜会。
満座の貴族たちの視線が文字通り一堂に集まるホールの中央で、私の婚約者である王太子レナードが、喉を枯らさんばかりの勝ち誇った声を響かせた。彼の脂肪のついた腕には、これ見よがしに男受けの良さそうな、いかにも守ってあげたくなるタイプの男爵令嬢がしがみついている。
呆然と立ち尽くす私の目の前で、まばゆい金色の光がふわりと弾けた。
光の中から現れたのは、手のひらサイズのとても可愛らしい金髪碧眼の美少年の妖精。
「涙を拭いて、フラン。失恋の傷を癒せるのは、男の愛じゃない。――大胸筋だよ」
……こうして、私の筋肉と愛が織りなす、新たな異世界奇譚が幕を開けたのだった。
◇
話は、私がこの『フランシスカ』として世界に生を受ける前――いや、前世の最期にまで遡る。
前世の私の人生の幕引きは、なかなかにスリリングでかつ理不尽極まりないものだった。
当時の私の名前は、如月美優。どこにでもいる普通の二十代の会社員だった。その最期の日は、まさに最悪の一言だった。当時の交際相手に散々尽くし、毎日のようにお弁当を作ったり部屋の掃除をしたりしていた結果、返ってきたのは別の女との二股浮気。しかも浮気が発覚した現場で、彼は私に向かって平然と言い放ったのだ。『お前、なんか重いんだよ。もっと楽に付き合える可愛い子がいいわ』と。
深い絶望と怒りに震えながら、私は人生の憂さ晴らしのために一人で遊園地へと向かった。選んだのは、その遊園地で最も恐れられている絶叫マシンの王様――垂直落下型のフリーフォールだ。
シートにガッチリと固定され、地上の人間がアリの頭ほどにしか見えない高さまでじわじわと巻き上げられていく。失恋の傷も相まってハイになっていた私は、時速百キロ以上の猛スピードで地面に向かって真っ逆さまに落下した。
本来なら安全にブレーキがかかるはずのその刹那、凄まじい爆風のような衝撃と共に、私の視界は完全にブラックアウトしたのだった。
目を開けた時、そこは雲が敷き詰められたような、一面真っ白な神聖な空間だった。そして私の目の前には、絵に描いたような神々しい男の神様と、超絶美人の女神様が立っていたのだ。
「いや~ごめんね! 悪気はなかったんだよ悪気は!」
頭をボリボリと掻きながら、バツの悪そうな顔をして冷や汗を流す男の神様。その隣で、美しい女神様が般若のような形相で激怒し、男の胸ぐらを掴みかねない勢いで詰め寄っていた。
「ちょっと、ちゃんと謝りなさい! ホントにごめんなさいね。この人が定例の神会議に全然来ないから、私がわざわざ『来なさい!』って天界の境界線まで直接言いに来たら、もう……っ!」
「いや~ついさ。アミリアが普段冷たいのに、わざわざ俺を迎えに来てくれたのが嬉しくてさぁ。テンション上がって『おーい!』って大きく腕を振ったら……君が乗ってたマシンのワイヤー、俺の起こした神風でふっとばされちゃった(笑)」
「(笑)じゃないわよ!! このバカ神!! 今度からお迎えは高位の妖精に頼むわよ!」
「ごめんってばー! だからそんなに怒らないでよアミリア、次も君が来てよ〜」
目の前で繰り広げられる、世界を揺るがすレベルの神々の痴話喧嘩。
自分の死因があまりにも理不尽かつアホらしすぎて、私の頭の中で何かが限界を迎えてプチンと大きな音を立てて弾けた。
「あの~……私ってここで一体何を見せつけられてるんですか!? あっちの世界では彼氏に二股かけられた挙句に『お前重い』って振られて、傷心を癒やすために乗った絶叫マシンでは神様のイチャイチャの巻き添えの爆風で死んだんですか!? 現世でも浮気されて苦しんで、死んだ後まで神のイチャイチャを見せつけられるんですか!?」
私の魂の底からの大絶叫に、女神――アミリア様がハッと我に返り、哀れみと同情に満ちた目をこちらに向けた。
「ごめんなさいね、本当に……。え~と、如月美優さんだったかしら? あら……? あなた、前世のカルマの履歴を見ると、随分と理不尽で大変な人生を送ってきていたのね」
「そ、そうなのか? 浮気男に振られた直後に俺のせいで死んだのか……うぐっ、良心が痛む! よし! だったらお詫びに、俺が管理している乙女ゲームみたいなファンタジー世界に転生させてやろう! そこならお貴族様だぞ!」
「ちょっと待ってください! 勝手に話を進めな――」
「確かにそれだけではお詫びとして足らんかも知れんな。よし、俺が直属で従える最高位の精霊たちの中から、どれでも好きなやつを一つ、契約者として選ばせてやろう! どれがいい!?」
どこまでも人の話を聞かない独走状態の神様に、アミリア様が深く深い、地響きのようなため息をついて私に目配せをした。
「……はぁ。ごめんなさいね、この人、本当に他人の言うことを聞かないの……。でも、あっちの世界はちょっと身分社会でドロドロして大変だから、今のうちに強力な味方を選んでおいた方が身のためよ?」
差し出された精霊のホログラム画面を半眼で睨みつける。画面には炎を纏ったトカゲや氷の鳥など、いかにも魔法が強そうな精霊たちが並んでいたが、私の目は、画面の最下層の隅っこでちんまりと正座している一つの精霊に釘付けになった。
ちっちゃくて透き通る羽が生えているのに、なぜか他のどの巨大精霊よりも体幹の軸が一切ブレていない。何より、金髪碧眼の顔の造形が恐ろしく整っている。
「それじゃあ……この子にします。金髪碧眼で、なんか王子様みたいだし、将来イケメンになりそうだから」
「おお、そいつを選ぶか! 見る目があるな! それじゃ、そいつと仲良く異世界を泥臭く生き抜くんだぞ!」
「っえ? ちょっと待ってくださ――」
神様が満足げにパチンと指を鳴らした瞬間、私の足元に奈落のような大穴が開き、私は本日二度目の真っ逆さまの落下を体験することになった。凄まじいデジャヴである。
次に気がついた(生まれた)瞬間も、私はなぜか逆さ吊りにされており、見知らぬ大髭のお医者さんに勢いよくお尻をスパンと叩かれていたのだった――。
◇
「ふぅ……」
赤ん坊としてこの世界に爆誕したあの日から、早くも十数年が経った。
生まれた瞬間から前世の記憶を完全に持っていた私は、アイゼンベルク侯爵家の令嬢『フランシスカ』として第二の人生をスタートさせた。しかし、神様のあのうっかり事故の衝撃の反動か、生まれついたこの体はとにかく病弱で軟弱だった。
少し歩けば呼吸がゼーゼーと切れ、一年の大半をベッドの上で熱を出して過ごす日々。前世の大人の記憶があっても、スプーン一杯を持ち上げるのすら億劫な我が身に絶望し、ただシーツを濡らして泣くことしかできなかった幼少期。
そんな私の前に、ある満月の夜、光の粒子と共に現れたのが――あの天界のリストで選んだ精霊、ピピだった。
『やあ、美優……ううん、これからはフランだね。神様から君のサポートを正式に頼まれたよ。君の体、本当にエネルギーの循環が滞っているね。……よし、生き延びるために、まずは寝たままでできる腹式呼吸と、指先のピンチ力(つまむ力)を鍛えることから始めようか!』
ピピは私の命を救うため、妖精界に伝わる秘伝の超スパルタ筋トレメニュー『エルフ式マッスルブートキャンプ』を提案してくれた。それから今日まで、私たちは誰にも知られないように、二人三脚で血と汗と涙の滲むトレーニングを積み重ね、私の肉体を内側から完全に改造し、鉄の肉体を作り上げてきたのだ。
そして現在。
私の意識は、王宮のきらびやかな夜会の喧騒へと完全に引き戻される。
目の前では、元婚約者の王太子レナードが「どうだ、絶望して泣き叫ぶがいい」と言わんばかりの、歪んだ醜悪な笑みを浮かべて私を見下ろしている。彼の細い足元を見る。……ふん、立ち姿の体幹が右にぶれてブレブレね。大臀筋と内転筋の鍛え方が絶望的に甘いわ。あんなタプタプな体つきで、よくもまあ一国の王太子なんて名乗れたものだ。
私の肩の上で、ピピがフッと獰猛で不敵な笑みを浮かべた。
「言っただろ、フラン。男の心は移り変わるし、言葉は簡単に裏切る。だけど、僕たちが血の滲むような思いで鍛え上げてきた筋肉だけは、絶対に君を裏切らない。さあ、あの体脂肪率だけ高そうなヒョロガリ王太子に、僕たちの努力の結晶を見せつけてやろう」
「ええ――もちろんよ、ピピ」
私は流れるはずだった涙を完全に細胞の奥へと引っ込め、怖気づくどころか、私は獰猛なまでの笑顔を浮かべると、一歩前に踏み出した。
「レナード殿下。婚約破棄、謹んでお受けいたします。……ですが、最後に一つだけよろしいですか?」
「ふん、命乞いか? 聞いてやろう」
レナードが鼻で笑った瞬間、私は自分のドレスの背中に手をかけ、一気に力を込めた。
ピキィィィィィン! と、仕立ての良い特注のドレスが、私の広背筋と大胸筋のパンプアップに耐えかねて真っ二つに裂け散った。
「な、なんだその筋肉はぁぁぁ!?」
周囲から悲鳴が上がる。ドレスの下から現れたのは、無駄な脂肪が一切なく、大理石のように美しくビルドアップされた究極の肉体美。
「これより、私を振ったこと、そして我がアイゼンベルク家を愚弄した罪の分の『お仕置き』を執り行います」
「ま、待て! 近寄るな! 衛兵、衛兵――」
腰が抜けてペタンと床に座り込んだレナードに、私は優しく微笑みかけながら、その胸ぐらを片手で軽々と掴み上げて、空中へとリフトアップした。
「失恋の傷を癒せるのは、男の愛じゃない。――大胸筋です!」
そのままレナードを軽く放り投げ、華麗に床へと叩きつける。
悲鳴を上げて逃げ出す浮気相手の令嬢を横目に、私は肩の上のピピと、息の合ったダブルバイセップスのポーズを決めてニヤリと笑った。
ご視聴いただきありがとうございました。




