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鼻を失ってから二週間が経った。


顔を覆っていた幾重もの包帯が解かれ、私は初めて鏡の前に立った。

そこに映っていたのは、かつて「社交界の至宝」と謳われたアリアナ・ド・ベルフォールではなかった。


顔の中央にぽっかりと縦に開いた、暗く湿った空洞。

一瞬、誰の顔か分からなかった。

いや、認めたくなかった。

鼻という、わずか数センチの肉の隆起が失われただけで、人間の尊厳はこれほどまでに霧散してしまうのか。


(悪い夢なら早く覚めて……。お願い)


震える指で、その穴の縁をなぞる。

夢ではない。まぎれもなく、これが私の新しい現実だ。



トントン、と控えめなノックが響く。


「ピエールでございます」


執事の声に、私は反射的に顔を伏せた。


「……入って」

「王太子殿下がお見舞いに見えております。お会いになりますか?」


心臓が嫌な音を立てて跳ねた。

私にこの刑を命じた張本人。

そして、私がかつて愚かにも愛した男。


(今の、この惨めで化け物のような姿を……あの人に見せられる?)


「今は……会いたくない」

「左様でございますか。ではそのようにお伝えいたします」


いつかは会わねばならない。

貴族として、この穴を晒して生きる覚悟を決めねばならない。

傷は塞がり、出血も止まった。

引きこもる理由は、もはや心の傷跡以外に存在しないのだから。



ふと、廊下を騒がしく走る足音が聞こえてきた。


「お待ちください! お嬢様は現在どなたにも……!」


執事の制止を振り切り、部屋の扉が乱暴に跳ね飛ばされる。


「あらあら! あらあらあら! なんて無様なお顔になってしまったの!」


部屋に飛び込んできたのは、春の陽気のようなピンクのドレスを纏った小柄な令嬢。

聖女マノン・フルニエ。


「あの、国中の男を虜にした天下のアリアナ様が、これじゃあ台無しね! アハハッ! ……あ、失礼。私、お見舞いに来たんでしたわ。本当にお気の毒に!」


私はとっさに毛布を被ったが、遅かった。

よりにもよって、この世で最も見られたくない女に見られてしまった。

マノンは、私の沈黙を正しく「敗北」と理解し、さらに追い打ちをかける。


「そんなお顔じゃ、もう殿下のお隣には立てませんわねぇ。でも大丈夫、私が代わりに支えて差し上げますから! 安心して一生そのお部屋に引きこもっていらしてね。だって、そんなお顔で外を歩いたら、周囲の方々が怯えてしまいますもの!」


視界が涙で滲んだ。

泣くまいと決めていた。

この女の前でだけは、決して弱みを見せないと誓っていた。

けれど、女としての圧倒的な敗北の前に、私の虚勢は紙切れのように吹き飛んでしまった。


「あらまあ! 私の心遣いに、歓喜のあまり泣いてしまったのね! なんて健気なアリアナ!」


マノンは朗らかに、鈴を転がすような声で笑う。


「あなたならきっと、顔を気にしないような……そう、ボランティア精神に溢れた聖人のような男性と結婚できるわ! 私、信じてる!」


そう朗らかに笑いながら、聖女は嵐のように部屋を去っていった。

傍らに立つ侍女は、マノンのあまりの悪意に気圧され、石像のように固まったまま私の嗚咽を聞いていた。

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