8話 収穫祭
ワールド04-F52、最終局面。
青年は魔王の核を、光と闇を融合させた必殺の一撃で貫いた。
「これで……全て終わった」
仲間たちが歓声を上げ、涙を流す中、彼の体は祝福の光に包まれていく。
どこか満足げでありながら、どこか虚ろな表情のまま、光の中にゆっくり溶けていった。
——本社魂管理課、同時刻。
大型モニターに「魂回収完了」の文字が点灯した。
「A-1025、シナリオ完了。
魂純度92.8%、記憶データ抽出率99.3%、顧客満足度:良好。
分類:標準テンプレ勇者ルート(濃度:中の上)。回収率98.7%。」
若い職員が無感情にキーボードを叩く。
ベテランの女性職員がコーヒーを啜りながら画面を眺め、小さく頷いた。
「無難に終わったわね。テンプレは本当に安定してる。最近の変わり種より扱いやすい。」
「まあ、需要が一番高いからな。貴族連中が好む『濃い英雄譚』のベースにぴったりだ。」
回収された魂は、透明な球体となって自動ラインに乗り、加工フロアへと運ばれていく。
今夜、そこは「収穫祭」の会場となっていた。
広々としたホールには白い照明が降り注ぎ、魂加工業者の白衣姿の男たちが忙しなく動き回っている。
長い作業台の上には、さまざまな調味料の瓶がずらりと並んでいた。
「情熱のスパイス」
「絶望の岩塩」
「恋の甘味料」
「成長の熟成酢」
「復讐の唐辛子」
一人の加工業者が、A-1025の魂を手に取りながら楽しげに解説する。
「今期の目玉はこの『英雄譚と情熱の濃厚ブイヨン』ベースです。
テンプレ勇者ルートは魔王討伐の達成感と仲間との絆がしっかり入ってるから、深みが出るんですよ。
貴族様方に非常に人気で、高値で飛びます。」
隣の男が別の魂を瓶に詰めながら笑う。
「ほのぼのスローライフルートは淡白で味が薄いから、庶民向けの日常スープに安く卸すしかないな。
一方で石や草のような珍ルートは……エルフの間だけで争奪戦だ。珍味扱いだからな。」
ベテラン職員が、出来上がったばかりの瓶を一つ手に取り、満足げに言った。
「濃い人生ほど味が濃厚になる。激しい冒険、禁断の恋、壮絶な復讐、苦難の末の達成……そういう魂が最高級品だ。
お客様の『物語への渇望』こそが、我々の最高の収穫です。
あいつらが異世界転生を夢見て、チートを欲しがり、魔王を倒したがるほど……
俺たちの飯がうまいんですよ。」
周囲の職員たちが小さく笑った。
「感謝しないとな。テンプレだろうが石だろうが草だろうが、みんな立派な食材だ。」
もう一人の加工業者が、瓶にラベルを貼りながら付け加えた。
「エルフが人間と同じ体型なのに長寿なのも、定期的にこういった濃い人間魂を摂取してるおかげさ。
表向きは『森の加護』とか言ってるけど、本当は高級魂を常備してるからだよ。安価な魂は漢方レベルの滋養強壮効果しかないけど、高級品は寿命を確実に伸ばす。」
ホールでは次々と魂が加工され、瓶詰めされ、市場へと送られる準備が整っていた。
高級貴族向けの濃厚ブイヨン、庶民向けの淡白スープ、エルフ御用達の珍味……
全てが、転生者たちの「濃い人生」から生まれたものだった。
ベテラン職員は最後に、モニターの隅で小さく点滅している警告灯に目をやった。
【ワールド04-F52 結界異常:継続監視中】
しかし彼はすぐに視線を外し、次の申請書類に目を落とした。
「さて、次の収穫も楽しみだな。」
収穫祭の喧騒は、夜遅くまで続いた。




