7話 ようこそ!異世界へ!
気がつくと、番号札を握らされていた。
白い床、白い天井、白いカウンター。病院に似ているが、消毒液の匂いはしない。代わりに、どこか乾いた紙の匂いがする。
正面には電子掲示板。
現在の呼び出し番号:A-1024
自分の札を見る。
A-1025
一つ違いか。
「次の方どうぞー」
間延びした声に呼ばれ、足が勝手に前へ出る。
カウンターの向こうには、事務員らしき女が一人。年齢不詳、表情は薄い。制服はあるが、どこの所属か分からない。
「問診票の記入をお願いします」
確認でも質問でもない口調だった。
差し出されたのは、一枚の紙。
男は記入をしていく。
【死後受付問診票】
信仰はありますか?
□ あり( )
☑︎︎ なし
「なし」を選択した方へ
あなたの死生観を選択してください
☑︎︎ 転生
□ 霊体として存在(具体的に: )
□ 審判を受ける
□ 無になる
□ その他( )
死後、あなたを裁く存在がいるとすれば誰だと思いますか?
( 分からない )
あなたは救われる側だと思いますか?
□ はい □ いいえ ☑︎︎ わからない
「ご記入いただいて、右の窓口へ」
「はい、結構です」
いつの間にか、紙は回収されていた。
事務員は一瞬だけ目を落とし、何かを確認する。
その目が、ほんのわずかに細くなった気がした。
「A-1025番の方」
背後の電子掲示板に、自分の番号が表示される。
【案内】
A-1025 → 転生窓口
「右手奥の通路へお進みください」
言われるまま振り返ると、壁だったはずの場所に、いくつもの扉が並んでいた。
それぞれの上に、無機質な表示。
転生窓口
霊体管理課
審判仮受付
無処理室
自分の足は、「転生窓口」と書かれた扉へ向かう。
ふと、隣の扉が開いた。
「無処理室」
中に入っていった男は、少し笑っていた。
「まあ、どうせ何もないんだろ」
軽い口調だった。
扉が閉まる。
音はしなかった。
ただ
次の瞬間、その扉の存在ごと、そこから消えていた。
「A-1026様どうぞー」
後ろで、また同じ声がする。
「転生希望ですか。こちらをお読みになってお待ちください。」
【転生希望者へ】
・生前の行いによって転生先の『運』が設定されます。
・転生後の『運』は事務局での判断に従っていただきます。
・生前の記憶や経験、こちらで受付した記憶は消去されます。ご了承ください。
・死亡後は再度こちらで受付になりますが、生前に信仰する宗教等の更新があった場合は速やかに報告してください。
※ご希望の種別が繁栄している場合、衰退種に変更をお願いする場合があります。
【異世界転生を希望の方へ】
・昨今、異世界希望者が増加しており非常に混雑しております。(ご希望のプランによっては100年単位での待ち時間を要す場合があります。)
・現世と違い、生前の記憶や経験を引き継ぐオプションがあります。※異世界での『運』は生前の行いにかかわらず、転生時にリセットされます。現世転生とは異なりますのでご注意ください。
・異世界で死亡した場合、再度この場に戻ることはできません。
・以上をご了承頂けた異世界転生希望の方はB棟異世界窓口へ移動してください。
男は『この先B棟』と書かれた案内板を頼りに先へ進む。
来た道は闇へと消えていく。後戻りはできない。
B棟はとても混雑していた。
受付担当は淡々と問診票を渡す。
「こちらご記入の上お待ちください。番号でお呼びしますので呼ばれたら面談になります。」
男は問診票を受け取り黙々と記入をする。
・基本情報
希望する名前:( )※空欄の場合は事務局が決定します
希望する性別:︎︎︎︎︎︎︎ ☑︎︎男性 □女性 □希望無し
希望する種族:☑︎︎人間 □ エルフ □ 獣人 □ 魔族 □ こだわらない □ その他
希望する外見:( )※種族の標準的な外見から大きく外れる場合は別途相談
・転生先の環境
☑︎︎ 安全な地域
□ 危険な地域
□ 発展した都市
□ 田舎・辺境
□ 戦争中
□ 魔物が多い地域
□ 平和な世界
□ ランダム
■世界の難易度
☑︎︎ 低(安全・成長しやすい)
□ 中(標準)
□ 高(過酷・死亡リスク大)
□ 指定なし
■文明レベル
□ 現代に近い
☑︎︎ 中世ファンタジー
□ 原始的
□ 高度文明(魔法・科学)
□ 指定なし
■異種族間言語統一化
☑希︎︎望する
・希望職業
■戦闘系
☑︎ ︎勇者
□ 騎士
□ 傭兵
□ 暗殺者
☑︎︎ 魔法使い
■生産・経済系
□ 商人
□ 鍛冶師
□ 錬金術師
□ 農民
□ 職人
■社会・権力系
□ 貴族
□ 官僚
□ 宗教関係者
□ ギルド職員
■特殊系
□ 研究者
□ 教師
□ 情報屋
□ 医療職
■異質系(人気上昇中!)
□ 魔物側
□ ダンジョン管理者
□ 精霊・非人間
□ 物品(武器・道具)
■その他
□ 指定なし
□ ランダム
□ その他( )
・希望シナリオ
☑︎︎ 魔王討伐
□ スローライフ・農業
□ 商人・成り上がり
□ 恋愛・貴族生活
□ 自由(指定なし)
□ その他( )
・転生開始条件
開始時の状態:☑︎︎ 赤子 □ 子供 □ 成人 □ こだわらない
記憶の引き継ぎ:☑︎︎ あり □ なし
経験・スキルの引き継ぎ:☑︎︎ あり □ なし
※記憶・経験を引き継ぐ場合、待ち時間が延長される場合があります。
・人間関係の志向
□ 一人が良い
☑︎︎ 仲間が欲しい
☑︎︎ 上に立ちたい
□ 守られたい
・能力オプション(希望する項目にチェック)
☑︎︎ 魔法使用(属性を選択:☑︎︎ 火 ☑︎︎ 水 ☑︎︎ 風 ☑︎︎ 土 ☑︎︎ 光 ☑︎︎ 闇 □ その他)
□ チート能力付与 ※詳細は面談にて相談
☑︎︎鑑定スキル(レベルや経験値等モニターで確認できます)
□ その他( )
・あなたにとっての「物語の終わり」は?
☑︎︎ 目標を達成したとき
☑︎︎ 平穏な日常が続くとき
☑︎︎ 大切な人と共にいるとき
□ 全てを失ったとき
□ 死亡したとき
□ わからない
□ その他( )
■ 終わり方の希望
☑︎︎ 幸せな結末
☑︎︎ 苦難の末の達成
□ 代償を伴う成功
□ 何も得られない結末
□ 静かな終わり
□ 劇的な最期
【異世界転生サービス利用規約】
第1条(サービスの概要)
本サービスは、死後の魂に対し異世界への転生体験を提供するものです。なお、本サービスは体験の質を保証するものではありません。
第2条(申請について)
転生の申請は原則として本人による意思確認のもと行われます。ただし、混雑状況により希望に添えない場合があります。その際の異議申し立ては受け付けておりません。
第3条(記憶・経験の取り扱い)
転生時に取得した記憶・経験データは、サービス改善および統計目的に使用される場合があります。本人への事前通知は省略する場合があります。
第4条(能力付与について)
チート能力その他の特殊能力の付与は事務局の裁量によります。付与された能力の内容・強度についての異議申し立ては受け付けておりません。なお、能力が周囲の環境に著しい影響を与えた場合、事務局の判断により強制終了する場合があります。
第5条(転生先の環境について)
転生先の世界・環境・身分は申請内容を参考に決定しますが、混雑状況・魂の状態・運営上の都合により変更される場合があります。
第6条(死亡・終了について)
異世界での死亡をもってサービスは終了となります。終了後の魂の取り扱いについては別途定める内部規定に従います。なお、当該規定は非公開とします。
第7条(免責事項)
以下の場合において、事務局は一切の責任を負いません。
・転生先での死亡、負傷、精神的苦痛
・チート能力の暴走による環境破壊
・記憶引き継ぎによる精神的混乱
・その他、転生に付随して生じた一切の損害
附則
本規約は予告なく改定される場合があります。改定後も転生を継続した場合、新規約に同意したものとみなします。
以上の規約をご確認の上、下記にご署名ください。
署名:( 転生者A )
☑︎︎ 上記規約の全てに同意する
☑︎︎ 異議申し立ての権利を放棄することに同意する
☑︎︎ 本申請内容が事務局の管理下に置かれることに同意する
※署名をもって本規約への同意とみなします。
※署名後の取り消しは一切受け付けておりません。
男は困惑しながら記入した。
(異世界転生ってこんな事務的なのか……?)
書き終えた問診票は受付が回収する。
しばらく経つと番号が呼ばれる。
「A-1010様、A-1020様、A-1023様、A-1025様、3番扉へどうぞ。」
(呼ばれた…)
扉の先では男性が3名座っており、面接官Aは問診票に目を通しながら質問をしていった。
「皆様おかけ下さい。…ではまずA-1010様、転生先がその他ですが具体的な希望はありますか?また、転生後の生き方も併せてお聞かせください。」
端に座っている男は答えた。
「はい!石に転生したいです!」
(何言ってんだこいつ…)
「石には意思が宿ります!そしてあらゆる生物の意思を乗っ取り仲間を集め魔王討伐を目指したいのです!」
面接官Aはメモを取り、質問を続ける。
「では精神操作系能力でよろしいですか?」
石希望者は答えた。
「回復魔法も後々会得したいです!私は生前医師だったので医療の知識も活躍させたいのです!」
(マジで何言ってんだこいつ……)
「ありがとうございます。次にA-1020様。同じく転生先がその他でしたが同じく希望と生き方を聞かせてください。」
「私は草になりたいです。」
(……こいつもか。)
「私の草を煎じて飲むとチート能力が手に入ることをエルフが知り……」
面接官は真面目にメモを取っている。
(マジで言ってんのこの人…)
面接官Bが質問する。
「チート能力の詳細を教えてください」
草になる人は答えた。
「はい。私を煎じたお茶を飲むことで全魔法と物理攻撃の反射バフが手に入ります。」
面接官Bは渋い顔で答えた。
「その能力だと転生先の調整で7~80年待ちになりますがよろしいですか?」
草は即答だった。
「構いません。」
(こんなんばっかなんか…?)
質問は隣の女性に移った。
「私は料理人としてほのぼのと暮らしたいです。」
(あ、普通だ…)
面接官Bは質問する。
「A-1023様、チート能力にチェックがありますが具体的にどんな能力を希望ですか?」
「はい、作った料理を食べるとどんな生物も使役出来る能力です。農民としてほのぼの生活していたところ、料理の味やレパートリーに定評があるとして貴族になるが、悪役令嬢に虐げられる日々を送ります。ひょんな事から王子様に手料理を作ると意のままに操れるようになり、いじめた貴族たちに仕返しをします。あと食べ残しを食べた神獣達が知らないうちに仲間になり、魔王も討伐します。」
(むちゃくちゃ欲張りセットやんけ……)
面接官Bは答えた。
「同じく7~80年程お待ちいただきます。」
最後の番が来た。
「ではA-1025様、具体的なプランをお聞かせください。」
待ってましたと言わんばかりに話す。
「はい。幼い頃から魔法の才能があり、魔法学園ではトップクラスの実力に上り詰め、卒業後ギルドからスカウトを受け、3人のパーティと魔王を討伐しに行きます。」
面談者3人はため息をついた。
面接官達は話を聞き終えるとメモも取らずにありがとうございましたと一言告げた。
(…もしかして俺の物語、薄すぎ…?)
面接官Cは書類をまとめながら話した。
僅かに書類に手書きのメモが見えた。
【A-1023 SSR※見込み】
(どういうことだ……?)
「A-1025様はすぐご案内出来ます。待合室でお待ちください。その他の皆様は別棟で待機していただきます。別途受付よりご案内致します。以上で面談終了です。お疲れ様でした。」
「「「「ありがとうございました」」」」
待合室、数十分後番号が呼ばれる。
「A-1025様、転生の準備が整いましたのであちらの扉にお入りください。すぐに物語が始まります。では良い旅になることを願っております。」
扉へはいる。光に包まれ目が眩む。
面接官の顔…問診票…受付嬢…
意識と記憶が少しづつ薄れていく。
「ようこそ…!異世界へ…!」
天の声か産声が先か、意識は戻った。
(俺はアラサー、童貞、無職、恋人無しの人生に絶望して自らトラックにひかれたはず…)
脳内に直接語りかけるように女性の声が響く。
「…あなたは勇者として生きるのです…どうか魔王を倒してください…」
(ここは…もしかして異世界!?何だこの体中に溢れる力は…)
彼は生まれながらにして魔法の天才だった。
火と触れ合い
水を操り
風を読み
土と触れずに遊び
光と闇を手から発せた。
学園では異例の最年少入学でトップの成績を誇った。
「俺の戦いはこれからだ!」




